第440話 戦列の街
新開市は、幽霊ドローン探しに飽き始めていた。数日前までは《歯車の女王VSドローンの幽霊》という見出しだけで地下構造体へ何百人も雪崩れ込み、真鍋を本気で怒らせ、オールドユニオンの調査班まで巻き込んだというのに、肝心の幽霊が姿を見せなければ熱狂は長続きしない。《新開市女王祭》も同じだった。毎日花びらを撒き、毎日アリスの肖像をビルへ投影し、毎日「女王陛下万歳」と叫ぶほど、新開市民にも根気はない。祭りは終わったわけではなかったが、屋台は減り、花びらを撒くドローンも半分以下になり、街のウェブで一番読まれている記事は、いつの間にか《BLUEPRINT》をめぐる日本国企業同士の権利訴訟へ変わっていた。どの会社が誰を訴え、どの技術が誰のもので、どの会社が先に特許を申請し、どの工区でどの派生版《BLUEPRINT》が動いているのか。政治制度よりもよほど分かりやすく勝ち負けが見えそうで、しかも金額が大きい。新開市民はそういう話が好きだった。
「人気落ちたな」
トミーが端末を見ながら言った。
アリスは朝食のパンを齧りながら、ほんの少し口元を緩めた。
「最高」
「嬉しそう」
「すごく」
「女王祭り、終わるかもな」
「そのまま女王の話も終われ」
「そっちは無理そう」
アリスの表情が戻る。トミーが表示した別の画面には、今日も新しい政治集会の予定が並んでいた。《新開市市民主権・象徴君主制度研究会》《中立都市立憲女王協議会》《NECRO権利保障と象徴制度を考える会》《非常時調停権限定付与派》《女王完全儀礼化市民連盟》。名前だけで頭が痛くなる。
「何で」
アリスは画面を指した。
「私を置くところだけ」
「全部」
「同じなの」
三岐から返ってきた短い返信。
《現状、そこが各派の最大公約数です》
アリス。
「そこ割れて!」
トミー。
「大人気」
「いらない」
新開市では、アリスを象徴君主に据えるかどうかという議論そのものが、少なくとも一部の政治勢力にとってはすでに前提へ変わりつつあった。争っているのはその後である。新開市の自治権をどこまで強めるのか。日本国との関係をどうするのか。アライアンスの中立原則を制度へどう組み込むのか。企業投資をどう扱うのか。NECRO兄弟姉妹の権利保障をどう恒久化するのか。そしてアリス本人には、本当に何もさせないのか。それとも非常時だけ調停権を持たせるのか。意見は好き勝手だった。だから集会も好き勝手に増えた。
そして、集会が増えれば揉める。
*
「こちらの集会区域です!」
「道路使用許可はこちらも取っている!」
「そっちが三メートル下がれ!」
「そちらが先に拡張したんだろ!」
市庁舎から二駅離れた広場で、二つの政治団体が向かい合っていた。片方はアリスを「完全に儀礼的な象徴」とする派。もう片方は「非常時の市民調停要請権だけは保持させる」派。思想差は驚くほど小さい。それでも横断幕の位置をめぐって口論になるのが新開市だった。
真鍋が現場へ到着した時、最初に見たのは人間ではなかった。
ドローン。
一列。
その後ろ。
二列。
さらに。
横。
数機。
予備。
いる。
「……何だこれ」
部下が端末を見る。
「双方の自主警備です」
「見りゃ分かる」
「合法登録機です」
「それも分かる」
片方の集会警備ドローンへ人が近づく。第一列が少し後退した。同時に第二列が斜め前へ出て、第一列だった機体は左右へ回る。押し返さない。道を塞ぎ切らない。だが、人がそのまま真っ直ぐ進めない角度だけを作る。
真鍋の眉が寄る。
「これ」
部下。
「はい」
「《BLUEPRINT》だろ」
「正確には違うそうです」
「何て言ってる」
「自主警備用多層安全配置」
真鍋。
「名前変えただけだろ!」
*
流行は速かった。
《BLUEPRINT》そのもののコードを持っている者は限られている。だが、その思想はすでに動画になり、図になり、解説記事になり、誰かが勝手に作った戦術指南になっていた。
《第一線で勝とうとするな》
《突破されたら下がれ》
《後ろが前へ出ろ》
《前衛を固定するな》
《道路と機体で奥行きを作れ》
それだけなら、中古の警備ドローンでも真似できる。機種が揃っていなくてもいい。むしろ新開市では、出所の違う民生機、改造警備機、工事機、小型飛行機を混ぜた方が普通だった。
政治団体。
使う。
商店街。
使う。
自治組織。
使う。
ヒーロー。
使う。
ヴィラン。
当然。
使う。
「止まれ!」
旧市街の細い路地を、一人のサムライ・ヴィランが走っていた。後ろから地域サムライ・ヒーローが追う。以前なら速度勝負だった。
今。
違う。
ヴィランの後ろから三機の改造ドローンが出る。
一機目。
ヒーローへ。
近づく。
でも。
戦わない。
下がる。
ヒーロー。
追う。
次。
二機目。
横。
路地。
塞ぐ。
三機目。
ヴィラン。
逃走路。
確保。
一機目。
今度。
別の角。
回る。
追跡するヒーローの速度は落ちない。
でも。
道。
増えない。
減る。
現場通信を聞いていた真鍋が机を叩いた。
「誰だ!」
部下。
「何がです?」
「ヴィランに退却戦教えた奴!」
「公開情報から学習した可能性が」
「公開すんな!!」
「もう公開されてます」
「知ってる!」
さらに悪いことに、ヒーロー側も使い始めていた。
地域警備のサムライ・ヒーローが救助対象の前に一列目を置き、敵が押せば下げ、二列目を前へ出し、その間に救助者を後ろへ流す。
安全。
強い。
理にかなう。
真鍋。
頭。
抱える。
「便利なのは分かる!」
部下。
「なら」
「全員勝手に陣地作るなって言ってんの!」
*
新開市の地図は、少しずつ妙なものへ変わっていた。
壁は増えていない。
道路も減っていない。
物理的には昨日と同じ街。
でも。
政治団体。
三層。
企業工区。
五層。
商店街。
二層。
ヴィランの溜まり場。
三層。
地域ヒーロー。
四層。
それぞれが、自分たちの人間、自分たちの機械、自分たちが使える道路を縦深として持ち始めている。
駅へ行くだけの市民が、三つの集団から別々の案内を受ける。
『右側へ迂回してください』
次。
『前方は自主警備区域です』
次。
『企業安全縦深に接続します。直進してください』
市民。
「駅どっちだよ!」
物理的な街は広い。
でも。
行ける。
場所。
少しずつ。
狭い。
なってる。
*
企業群が、それを黙って見ているはずもなかった。
最初は、《BLUEPRINT》を各社の工区へ適応させるだけだった。ところが民間の改造機や政治団体まで縦深戦術を使い始めると、企業警備側に新しい危機感が生まれた。
《民間機による多層配置への対処不足》
《自社工区境界での安全優位性低下》
《他社派生BLUEPRINTとの競合》
そして、それまで各企業が内部で育てていた技術が、少しずつ現場へ出始める。
マティアスが最初にその機体を見たのは、高架復旧工区だった。
三機。
いる。
市販。
じゃない。
中型。
細身。
武器。
ない。
でも。
脚部。
可動域。
広い。
腰部。
小型アンカー。
収納。
してる。
一機目。
前。
出る。
警戒対象。
接近。
する。
少し。
後退。
同時。
二機目。
斜め。
前。
三機目。
後方。
残る。
次の瞬間。
一機目。
側面。
三機目。
前。
出る。
前衛。
後衛。
側衛。
予備。
固定。
ない。
マティアスの顔色が変わった。
「……待って」
助手が振り向く。
「何です?」
「あれ」
「試作警備機だそうです」
「誰の」
「参加企業の内部開発」
「違う」
マティアスは画面を拡大する。
「何がです?」
「動き」
一機。
下がる。
別。
出る。
最初の機体。
横。
回る。
見覚え。
ある。
「これ」
一拍。
「私の」
助手が少し不安そうな顔をする。
「《BLUEPRINT》ですか?」
「違う」
マティアスの声が低くなる。
「その先」
*
別の工区。
別会社。
また。
いる。
今度は一機ごとの形状が違う。小型随伴機を使い、道路上へ簡易ビーコンを撒き、物理的な壁がない場所へ三つの仮想境界を作っている。
さらに別。
可変アンカー。
使う。
さらに。
別。
四機。
役割。
交換。
する。
どれも完成度は低い。
どれも違う。
でも。
元。
同じ。
マティアスは自分の端末に残る非公開ファイルを開いた。
《専用保全機による自律縦深戦列》
公開。
してない。
《BLUEPRINT CORE》にも入れていない。
自分。
書いた。
研究。
メモ。
「……何で」
助手。
「マティアスさん?」
「これ」
別企業。
試作機。
見る。
「何で」
一拍。
「みんな」
「知ってるの」
*
事務所のアクセスログは、役に立たなかった。
正確には。
多すぎた。
保守端末。
下請け。
技術仲介。
企業。
複数。
アクセス。
痕跡。
ある。
どれも。
一部。
正しい。
どれも。
一部。
変。
削除ではない。
混ぜられている。
マティアスは画面を見たまま長く黙った。
「盗まれた」
助手。
「断定できますか」
「公開してないの」
「似た発想が独自に」
「一社なら」
マティアスは別企業の資料を開く。
「二社なら」
次。
「これ」
「これは可変アンカーだけ」
「こっちは随伴機」
「こっちは戦列」
机へ。
手。
置く。
「全部」
「私のメモに」
「ある」
助手。
「警察へ?」
「出す」
「企業にも確認」
「する」
「アライアンスは」
「言う」
マティアスは返事をしながらも、視線を画面から外せなかった。
「誰が」
一拍。
「何のために」
「こんな」
「ばら撒いたの」
誰か一社が盗んだのなら、自分だけで使えばいい。
でも。
違う。
複数。
企業。
持ってる。
違う。
形。
持ってる。
誰か。
わざと。
散らした。
可能性。
ある。
その考えが浮かんだ瞬間、マティアスの背筋に少し冷たいものが走った。
*
同じ頃。
地下。
別。
場所。
《LEDGER-01》は、以前とは違う動きをしていた。
オールドユニオンの捜索班は、幽霊ドローンの活動再開を察知していた。第442話で《MAXIMILIAN》を一度拘束された技術者団は、まだ諦めていない。地下物流路、旧保守区画、企業廃棄施設、通信死角。複数班が巡回し、MAXIMILIANも分散している。
以前なら。
《LEDGER-01》。
出せない。
今。
違う。
御厨の画面に予測が出る。
《OU捜索班A:北地下路へ移動可能性 73%》
《MAXIMILIAN-2:西側合流可能性 61%》
《捜索班B:音響反応後、第二保守路へ進出可能性 68%》
ヴェラが横から見る。
「来るわね」
「はい」
「逃がす?」
「いいえ」
御厨の指が地図上の複数点を選ぶ。
「通します」
ヴェラ。
「どこへ」
「こちらが」
一拍。
「決めたところへ」
小型支援機。
一機。
姿。
見せる。
OU。
反応。
『接触!』
追う。
小型機。
下がる。
第一。
分岐。
右。
入る。
OU捜索班。
右。
入る。
次。
センサー。
別。
反応。
MAXIMILIAN。
そっち。
向く。
でも。
それ。
第二。
囮。
本体。
《LEDGER-01》。
左。
さらに。
奥。
抜ける。
次。
第一囮。
側面。
回る。
追跡班。
背後。
通信。
攪乱。
する。
別。
支援機。
出る。
追跡班。
そっち。
見る。
御厨。
静か。
画面。
見る。
以前。
《LEDGER》。
相手。
次。
読む。
その。
場所。
先。
取る。
今。
違う。
相手。
次。
読む。
その。
次。
行きたくなる。
道。
作る。
追跡者を。
追う側。
まま。
誘導。
する。
*
「接触を維持!」
オールドユニオンの現地調査班が地下通信へ怒鳴る。
「対象、西へ移動!」
『MAXIMILIAN-2、遮断へ』
「いや、待て」
技術担当が画面を見る。
「西じゃない」
「何?」
「反応が二つ」
「分散?」
「違う」
次。
三つ。
「また増えた」
「全部追え!」
『二号路閉鎖』
「そこ」
技術担当。
止まる。
過去。
経路。
見る。
自分たち。
選んだ。
思ってる。
ルート。
でも。
一つ目。
目撃。
二つ目。
反応。
三つ目。
開放。
通路。
全部。
向こう。
出した。
もの。
「待て」
「何」
「我々は」
一拍。
「追ってない」
「何?」
技術担当の顔が強張る。
「追わせられてる」
アザドへ報告が上がる。
『こちらの捜索経路を、対象側に形成されている可能性があります』
アザド。
「……何それ」
『こちらが追跡しているのではなく』
一拍。
『向こうが、我々を決めた経路へ入れています』
アザド。
しばらく。
黙る。
「MAXIMILIAN」
『追跡継続中』
「捕まる?」
『現状』
一拍。
『前回より難しいです』
アザド。
「本国に言いたくねえな」
*
ヴェラはその映像を見ながら笑った。
「本当に便利」
御厨は少し違う顔をしていた。
《対象移動予測》
《誘導成功》
《予測適合率:上昇》
「予測した」
一拍。
「場所へ」
ヴェラ。
「うん」
「待つ」
「前はね」
御厨は画面上でOU班の移動線を見る。
「今は」
一拍。
「予測した場所へ」
「行かせてる」
ヴェラが頷く。
「そう」
御厨。
少し。
黙る。
「これは」
「何」
「予測では」
一拍。
「ありませんね」
「誘導」
「はい」
「でも」
ヴェラは地下地図を指す。
「犯罪者を人のいない場所へ誘導して、そこで止めるなら」
一拍。
「被害減るわよ」
御厨は答えない。
思い出す。
危険。
予測。
した。
相手。
圧力。
かける。
動いた。
結果。
予測。
当たる。
真鍋。
言った。
『当たったんじゃない。お前らが当てに行ったんだよ』
違う。
今回。
犯罪。
起きた。
後。
使う。
なら。
違う。
はず。
「条件付きで」
御厨が言った。
「使います」
ヴェラ。
「何の条件」
「現在進行中の違法行為」
「うん」
「一般市民のいない誘導先」
「うん」
「撤退意思を示した場合は追い込まない」
「うん」
「投降経路を必ず残す」
ヴェラ。
少し。
笑う。
「逃げ道残す?」
御厨。
「安全な出口です」
「同じじゃない?」
御厨は答えなかった。
*
地上では、その間にも戦列が増えていた。
ある企業工区と政治集会の境界で、初めて企業試作機と民間縦深戦列がまともに向き合った。
企業側。
三機。
試作。
前。
出る。
政治団体。
中古警備機。
五。
出る。
どちらも。
攻撃。
しない。
第一列。
接触。
前。
押さない。
下がる。
第二列。
出る。
相手。
同じ。
やる。
街路。
中央。
少しずつ。
空間。
消える。
真鍋が現場へ着いた時、道の両側で複数のドローンがまるで将棋の駒のように前後を入れ替えていた。
「全員!」
真鍋。
怒鳴る。
「戦列!」
一拍。
「解け!」
政治団体。
「攻撃してません!」
企業警備。
「弊社側も非接触です!」
「知ってる!」
真鍋の声がさらに大きくなる。
「だから余計面倒なんだよ!」
「道路封鎖には当たりません!」
「完全封鎖してないので!」
「三十秒ごとに開けたり閉じたりすんな!」
「安全縦深です!」
「縄張りだろ!」
新開市の法制度は、攻撃を規制できる。封鎖も規制できる。占拠も規制できる。しかし、前へ出て、下がり、別機が横へ回り、常にどこか一つだけ通れる道を残しながら事実上の進路を限定する戦列を、既存の条文で綺麗に切るのは難しかった。
真鍋はその事実を一瞬で理解した。
「……これ」
部下。
「はい」
「警察だけじゃ追いつかない」
*
アリスがマティアスから連絡を受けたのは、その日の夕方だった。
マティアスの顔は、訴訟地獄に巻き込まれていた時とは違う意味で疲れていた。
「漏れた」
アリス。
「何が」
「専用機」
「どこまで」
「自律縦深戦列」
アリスの赤い目が少し細くなる。
「公開した?」
「してない」
「誰か見た?」
「内部スタッフくらい」
「企業?」
「一部相談用の仕様は見せた。でも今出てるのは、その範囲じゃない」
マティアスは企業試作機の映像を見せる。
「これ」
一機。
下がる。
二機目。
出る。
三機目。
側面。
回る。
「前で勝たない」
「一列目が下がる」
「二列目が出る」
「最初の列が横へ回る」
「機械だけで」
一拍。
「縦深作る」
アリスは黙って見る。
「私が前会った後に書いたの」
「これ」
「そう」
「でも」
マティアスは別企業の映像。
出す。
「こっちも」
さらに。
「こっちも」
アリス。
「全部」
「少しずつ違う」
「でも元は」
「たぶん私」
マティアスは唇を噛んだ。
「私」
一拍。
「こんなの」
「街中に」
「撒いてない」
アリスは画面からマティアスへ視線を移す。
「盗んだやつ」
「いる」
「たぶん」
「それ」
「お前のせいじゃない」
マティアスはすぐに答えない。
「でも」
「作ったの」
「私」
アリス。
「両方」
一拍。
「本当」
「……嫌なこと言うわね」
「嘘よりいい」
マティアスは少し疲れた笑いを見せた。
その時。
アリスの端末。
通知。
出る。
《ドローンの幽霊、活動再開か》
アリスの指が止まる。
「……」
マティアス。
「何」
「幽霊」
「また?」
アリス。
動画。
開く。
地下。
暗い。
OU捜索班。
映る。
一機。
正体不明。
小型。
出る。
下がる。
次。
別。
影。
横。
出る。
本体らしき細身の機体。
側面。
消える。
追跡班。
一つ。
経路。
入る。
次。
閉じる。
アリス。
動画。
止める。
戻す。
もう一度。
見る。
「……マティアス」
「何」
「これ」
マティアス。
見る。
最初。
顔。
普通。
次。
少し。
固まる。
「似てる」
アリス。
「似てる?」
マティアスは再生速度を落とす。
一機。
退く。
別。
出る。
本体。
側面。
抜ける。
「全部は違う」
「でも」
一拍。
「考え方は」
「同じ」
アリスの目が鋭くなる。
「幽霊」
一拍。
「《BLUEPRINT》」
「持ってる」
マティアス。
「流出したのを拾っただけかもしれない」
「かも」
「企業経由かもしれない」
「うん」
「直接盗ったとは限らない」
「うん」
アリス。
動画。
見る。
「でも」
一拍。
「鍵」
「持ってる」
「鍵?」
「誰から」
「どこへ」
「流れたか」
アリスは立ち上がる。
「幽霊追えば」
「分かるかも」
マティアスの顔が変わる。
「待って」
「何」
「前回」
「うん」
「市民四百人ついてきた」
「今」
アリス。
端末。
見る。
「みんな」
「訴訟」
「見てる」
「本当に?」
「たぶん」
「信用できない」
「私も」
「なら」
「でも行く」
マティアス。
深く。
息。
吐く。
「あんた」
「本当に」
「こういう時だけ」
「元気になるわね」
アリス。
「女王より」
一拍。
「ゴーストの方が」
「楽」
*
準備は早かった。
シュヴァロフ。
起動。
する。
黒。
巨体。
光学迷彩。
確認。
する。
アリスはバンダースナッチから少数だけ選んだ。小型飛行機、保守用の脚付き機、配管を通れる細長い偵察機。大量に連れていけば目立つ。必要なのは数ではなく、地下の複数経路を同時に見られる目だった。
外へ出る。
三機。
MAXIMILIAN。
いる。
アリス。
止まる。
「……まだいる」
OU兵。
「移動脅威評価部隊です」
「何日目」
「継続任務中です」
「帰って」
「できません」
「直衛じゃない?」
「移動脅威評価です」
「私の周りだけ評価してる」
「任務上必要です」
アリス。
しばらく。
睨む。
いつもなら。
追い返す。
でも。
今日。
違う。
「じゃあ」
OU兵。
「はい?」
「来て」
三人。
少し。
驚く。
「よろしいのですか」
「幽霊」
一拍。
「お前らも」
「探してるでしょ」
「はい」
「一回負けたし」
兵士。
少し。
沈黙。
「……はい」
「二回言わせないで」
三機。
MAXIMILIAN。
起動。
する。
*
地下構造体へ降りる前、アリスは全員を止めた。
シュヴァロフ。
隣。
MAXIMILIAN。
三。
後ろ。
バンダースナッチ。
床。
壁。
天井。
散る。
OU現地指揮官が聞く。
「追跡編制を」
「勝手に」
アリス。
「先」
「行かないで」
「理由を」
「あいつ」
一拍。
「追う奴」
「読む」
OU兵。
「では包囲を?」
アリスは少し考える。
「追うんじゃない」
「では」
一拍。
「囲う」
バンダースナッチ。
三方向。
散る。
シュヴァロフ。
一歩。
前。
出る。
MAXIMILIAN。
後方。
縦深。
取る。
アリス。
その配置。
見る。
「……お前らまで」
OU兵。
「何か」
「縦深」
「採用しました」
「流行りすぎ」
誰も否定しなかった。
*
夜の新開市。
地上。
政治団体。
並ぶ。
企業。
並ぶ。
商店街。
並ぶ。
ヒーロー。
ヴィラン。
それぞれ。
第一。
第二。
第三。
持つ。
壁。
ない。
でも。
見えない。
境界。
何重。
ある。
アリスは地下を歩く。
白。
フード。
黒。
シュヴァロフ。
後ろ。
三機。
MAXIMILIAN。
周囲。
小型。
バンダースナッチ。
散る。
端末。
反応。
一つ。
出る。
アリス。
止まる。
「いた」
OU兵。
「確認しましたか」
「本体じゃない」
「では」
「痕跡」
アリス。
しゃがむ。
古い。
保守壁。
触る。
通信。
残り。
薄い。
見る。
「こっち」
OU兵。
「追跡します」
アリス。
首。
振る。
「違う」
一拍。
「今度」
立つ。
「こっちが」
赤い目。
暗い。
地下。
見る。
「待つ」
*
さらに地下。
もっと。
奥。
《LEDGER-01》。
静か。
立つ。
御厨の画面へ。
接近。
表示。
《ALICE》
《SHUVALOV》
《MAXIMILIAN ×3》
《MULTIPLE SMALL CONTACTS》
ヴェラがその一覧を見て笑った。
「来たわよ」
御厨。
少し。
目。
細める。
「今度は」
一拍。
「大所帯ですねえ」
地上では、《BLUEPRINT》から生まれた戦列が街のあちこちで縄張りを作り始めていた。
地下では、《LEDGER》がその縦深を覚え、追う者を自分の道へ誘い始めていた。
そして。
ゴースト。
また。
亡霊。
探しに。
来た。
今度は。
単独。
ではない。
新開市が覚えてしまった「戦い方」を背負って。
街のさらに深いところへ。
降りていった。




