第429話 女王の借金
アリツェ・ヴァーツラフコヴァーは困っていた。新開市には、都市規模の政治問題、企業間の勢力争い、アライアンスとの緊張、旧ヴィランの社会復帰、壊れたインフラの復旧、王冠の返却、家族機の修理、NECRO兄弟姉妹の今後と、普通なら一人の少女が同時に抱えるべきではない問題がいくつも存在していたが、今のアリスが最も切実に頭を悩ませているのは、そのどれでもなかった。端末に表示された数字。EF-15《BUTTERFLY》、改め《スルツォヴァー・クラーロヴナー》の購入代金。長期分割支払い。軍用電子戦ドローン向け保険料。メーカー保証の大半を自分で潰した結果増えた整備予備費。さらにシュヴァロフ、グリンフォン、コロボチェニィク、ブージャムを含む家族機全体の維持費。足し合わせると、それなりに冷静なつもりのアリスでも少しだけ画面を閉じたくなる額になる。
「……いける」
アリスは言った。
横で葉物を齧っていたトミーが、端末を覗く。
「顔がいけてないぞ」
「いける」
「返済何年」
「聞くな」
「何年」
「聞くなって!」
アリスは端末を伏せた。確かに楽ではない。女王と呼ばれているからといって、新開市の税金が自動的に自分の財布へ入るわけではないし、特別調停官としての仕事にも無限の報酬が付くわけではない。技術仕事による収入、正規契約、過去から積み上げてきた資産、それらを計算すれば返せない額ではない。ただし家族機が今後一度も大破せず、ブージャムが何か妙な故障を起こさず、グリンフォンの修理部品価格がこれ以上上がらず、自分自身も突発的な大支出をしないという、あまり現実的ではない条件がいくつか付く。
それでも。
自分で買った。
自分で払う。
それでよかった。
問題は、周囲がそう思ってくれなかったことである。
*
最初に余計なことをしたのは津田義弘だった。
義弘はまだ病院にいた。歩行訓練は進んでいるが、戦闘復帰など到底許されておらず、アリスとトミーによる監視も継続している。本人は「病室で書類を見るくらい仕事じゃない」と主張しているが、その書類の中には自身が会長を務める企業の経営案件まで混じっており、どこからどう見ても仕事だった。
そしてその義弘が、何かの拍子にアリスが軍用電子戦機をローンで買ったと知った。
「いくら?」
義弘が聞いた。
「何が」
「新しい蝶」
「クラーロヴナー」
「はいはい、それ」
「何で聞くの」
「いいから」
アリスは警戒しながらも金額を言った。
義弘が黙った。
隣のベッドで論文を読んでいたチャールズまで、そっと顔を上げた。
「……お前」
義弘が言う。
「何」
「若い奴が背負う額じゃねえぞ」
「払える」
「払えるかどうかじゃない」
「じゃあ何」
義弘はしばらく考えた。
「気分?」
「は?」
「いや、何かこう、年長者として」
「嫌な予感」
「一括で――」
「やめろ」
「まだ何も言ってねえ」
「顔」
アリスは即座に遮った。
しかし義弘は、その日のうちにマルティネス・ディフェンス・システムズへ問い合わせた。
残債を第三者が一括で支払うことは可能か。
しかも自分の会社経由では政治的意味が付きすぎるので、個人資産ないし正規の役員報酬範囲から合法的に処理できるか。
手続きだけは妙に慎重だった。
だから余計に腹が立った。
翌日。
病室の扉。
勢いよく。
開く。
「義弘!!」
義弘が顔をしかめる。
「病院で大声出すな」
「何した!」
「何って」
「ローン!」
「ああ」
「ああじゃない!」
アリスがベッド脇まで来る。
「勝手に払おうとした!」
「お前にはでかすぎる」
「私が買った!」
「知ってる」
「私の借金!」
「知ってる」
「じゃあ何で払うの!」
義弘は少し考えた。
「親戚のおっさんみたいな気持ち?」
「私はお前の姪じゃない!」
トミーが病室の入口から言った。
「でもだいたいそんな感じだろ」
「黙れ!」
チャールズが楽しそうに二人を見る。
「非常に――」
「面白いって言うな!」
「まだ何も」
「顔!」
アリスは義弘へ向き直る。
「いい?」
「はい」
「義弘が払ったら」
一拍。
「義弘の会社か、義弘本人から軍用機もらったことになる」
「あ」
「《元市長企業、歯車の女王再軍備を支援》」
義弘の顔が少し変わる。
「……言われるな」
「でしょ!」
「《新開市旧政権と女王陛下、軍事的結合》」
チャールズが補足する。
「お前は足すな!」
「例示です」
「いらない!」
義弘は頭を掻いた。
「悪かった」
アリスが一瞬止まる。
「……引くの早い」
「間違ってるなら引くだろ」
「もっと言い訳するかと思った」
「俺を何だと思ってる」
トミー。
「怪我人」
「それはそう」
アリスはまだ少し怒っていたが、それ以上は言わなかった。
義弘が素直に引くなら、それでいい。
問題。
次。
来る。
*
義弘から一括精算の問い合わせを受けたマルティネス・ディフェンス・システムズは、別の意味で商機を見つけた。
アリスの端末に連絡が入る。
《ご提案がございます》
「嫌な予感」
トミー。
「最近それ多いな」
「周りが悪い」
通話。
繋ぐ。
例の営業担当。
満面。
笑み。
『アリツェ様、このたびEF-15ご購入代金に関しまして――』
「払う」
『もちろんです。ただ弊社として、別案をご提案できればと』
「何」
『弊社の海外向け広告キャンペーンへのご出演です』
「嫌」
『出演料を残債へ充当いただけます』
「嫌」
『撮影は一日のみ』
「嫌」
『スルツォヴァー・クラーロヴナーとの共演も』
アリス。
一瞬。
「……」
トミーの耳が立つ。
「揺れた?」
「揺れてない!」
『でしたら絵コンテだけでも――』
「送るな」
送られてきた。
画面。
開く。
都市夜景。
中央。
アリス。
白フード。
背後。
スルツォヴァー・クラーロヴナー。
上。
王冠。
大きな文字。
**THE QUEEN CHOOSES MARTINEZ.**
アリスの目が死んだ。
「絶対やらない」
『《QUEEN》表記が問題でしたら――』
「そこだけじゃない!」
『《ALICE CHOOSES MARTINEZ》なら』
「何で選ばせたがるんだよ!」
『実際にお選びいただきましたので』
「それは商品!」
『まさに』
「営業って怖い」
トミーがしみじみ言った。
アリスは最終的に、政治的肩書・本人名・新開市公式採用を連想させる表現の広告利用をすべて拒否し、丁重に断った。営業担当は心底残念そうだった。
これで終わればよかった。
*
「アリス」
祝部マコトが、今度は妙に言いづらそうな顔でやってきた。
「何」
「怒らないで」
「もう怒ってる」
「まだ言ってない」
「その顔」
「じゃあ」
祝部が端末を差し出す。
アリス。
見る。
数秒。
沈黙。
そこには大きく書かれていた。
《女王陛下の新しい家族を支えよう!》
《スルツォヴァー・クラーロヴナー購入支援クラウドファンディング》
支援額。
かなり。
集まってる。
「……誰」
「アリス派」
「止めろ」
「もう結構――」
「止めろ!」
「分かった!」
アリスは詳細を見る。もっと悪い。
《特別調停官アリスを支える市民基金》
《新開市防衛力強化》
《女王陛下公認――》
「公認してない!!」
祝部。
「そこは完全にアウト」
「誰が公認した!」
「誰も」
「じゃあ何で書く!」
「勢い?」
「勢いで公的肩書使うな!」
アリスは三岐へ連絡する。
説明。
聞く。
三岐。
冷静。
『私人による寄付募集自体を、特別調停官権限で禁止することはできません』
「知ってる」
『ですが、公的資格・特別調停官の公式関与を装った表示は修正命令の対象にできます』
「それ」
『やりますか』
「やる」
一拍。
「私の名前で」
「公的募金みたいに」
「金集めるな」
三岐。
『妥当です』
クラウドファンディング運営側へ正式通知が出され、アリスの公的肩書と「公式」「公認」表記の使用が停止された。主催者側もさすがに違反を理解し、募集そのものを一旦取り下げた。
ところが。
集まった金。
残る。
返金。
案内。
出す。
市民。
反応。
「返さなくていい」
「じゃあ街に使え」
「MIKOSHIで壊れた道路まだあるだろ」
「防災設備の方に回せ」
アリス。
また。
頭。
抱える。
「何でこうなるの」
祝部。
「善意?」
「善意って面倒」
「言い方」
「だって勝手」
でも。
アリスは勝手に資金の使途を変えなかった。
一人ずつ。
返金か。
新開市復興基金への振替か。
確認。
する。
手間。
増える。
ものすごく。
増える。
三岐。
『全件同意確認が必要です』
「知ってる」
『自動振替にすれば早いですが』
「勝手に使い道変えない」
『はい』
「私の金じゃない」
『はい』
結局、返金希望者には返し、同意した者の寄付分だけが正式な新開市都市復興基金へ移された。
そして、それとは別に街頭募金まで始まった。
*
ある日の午後。
アリスは市内で見つけた。
募金箱。
看板。
《女王陛下の蝶をみんなで飛ばそう》
「何してる」
募金係。
振り向く。
「あ」
「本人!」
「女王だ!」
「違う!」
箱。
見る。
硬貨。
紙幣。
かなり。
入ってる。
「これ」
「スルツォヴァー・クラーロヴナーのローン」
「やめろ!」
「何で!」
「私が払う!」
「新開市守るための機体だろ?」
「それもある」
「じゃあ市民で払っても」
「違う」
アリスは少し強く言った。
「私が」
一拍。
「シュヴァロフたち」
「守りたくて」
「買った」
募金係。
少し。
黙る。
「だから」
「私が払う」
「でも高いんだろ?」
「払える」
トミー。
横。
「そんなにはない」
「トミー!」
周囲。
笑う。
アリス。
顔。
赤く。
なる。
「とにかく!」
「私が欲しくて買った!」
「私の家族!」
「私の借金!」
「だから!」
「私が返す!」
遠くから、そのやり取りを見ていた二人がいた。
御厨綴とマティアス・ヴァン・ローンだった。
*
二人は氷の母へ前日の騒動を受けた改善案を提出し終え、珍しく少しだけ時間が空いていた。そして二人とも、新開市と付き合うにはアリスという人物をもう少し近くから見た方がよいという点では一致していた。
「思ったより普通ね」
マティアスが言った。
御厨。
「何がです?」
「借金に困ってるところ」
「女王ですけどねえ」
「だからよ」
「本人は否定しますよ」
「知ってる」
二人はそのまま病院へ向かった。
見舞い。
という名目。
観察。
半分。
*
義弘とチャールズが同室にいる病室は、最近すっかり簡易サロンのようになっていた。
アリス。
トミー。
祝部。
時々真鍋。
そこへ。
マティアス。
御厨。
追加。
する。
しかもマティアスは大きな保存容器をいくつも持っていた。
「何それ」
アリスが聞く。
「昼ご飯」
「作ったの?」
「そうよ」
「何で」
「人に会うのに手ぶらで来るの嫌いなの」
大柄な男が手際よく容器を並べる。豆と肉を使った温かな煮込み、少し酸味のある野菜、固めのパン、魚と香草の冷菜。入院患者向けには塩分を控えたものまで別にしてある。
アリス。
一口。
食べる。
「……おいしい」
マティアスが眉を上げる。
「もっと感情込めなさいよ」
「すごくおいしい」
「よろしい」
義弘が横から手を出す。
「俺も」
マティアス。
「病院食食べなさい」
「何でアリスだけ」
「あなた病人でしょう」
「アリスも患者みたいな生活してる」
「私は入院してない!」
チャールズ。
「私は少量なら」
「あなたも病人」
「公平ですね」
トミー。
専用。
葉物。
置かれる。
「気が利くな」
「喋るウサギに何出すか悩んだわよ」
「普通に草扱いすんな」
「食べてるじゃない」
「食うけど」
マティアスは驚くほど早く馴染んだ。
一方の御厨は、食事をしながらほとんどチャールズを見ていた。
「一度お話ししたかったんです」
御厨。
言う。
チャールズ。
「私もです」
アリス。
「嫌な予感」
トミー。
「同じ種類が会った」
御厨。
「どういう意味でしょう」
「記録する奴と論文にする奴」
チャールズ。
「概ね正しいですね」
「増えるな」
*
食後、御厨とチャールズの会話は自然と信用の話へ移った。
「信用は」
御厨が尋ねる。
「記録できると思いますか」
チャールズは少し考えた。
「一部なら」
「全部は?」
「難しいでしょう」
「なぜ」
「約束を百回守った人が、百一回目も守るとは限らないからです」
御厨。
頷く。
「でも」
「百回守った事実は」
「無価値ではありませんよね」
「もちろん」
「なら」
「残すべきです」
「ええ」
御厨は少し嬉しそうに笑った。
だがチャールズは続ける。
「問題は」
一拍。
「残したものを」
「何に使うかです」
御厨の笑みが少し静かになる。
「記録と制限は別」
「はい」
「私は今も、そう考えています」
「それがいいでしょう」
「将来も?」
御厨。
少し。
目。
鋭く。
なる。
「必要なら」
「変わるかもしれません」
チャールズ。
「それも記録しておくといい」
御厨。
笑う。
「意地悪ですねえ」
「社会学者ですので」
アリス。
「社会学者って便利な言い訳」
*
その日の午後。
ローン騒動。
王冠。
クラウドファンディング。
募金。
アリス。
かなり。
愚痴。
言う。
マティアス。
最初。
笑ってた。
でも。
少しずつ。
本気で。
同情。
する。
「あなた」
「何」
「まだ若いのに」
「それ言う?」
「言うわよ」
マティアスは椅子へ深く腰掛ける。
「街一個背負わせすぎよ」
「私もそう思う」
義弘。
「本人も同意してる」
「じゃあ」
マティアスが言う。
「今返そうとしてる権限」
一拍。
「一部」
「私と御厨に預けない?」
病室。
少し。
静か。
なる。
アリスの顔が変わる。
「何を」
「都市復旧調整」
「危険設備管理」
「外部事業者の審査」
「工事動線」
マティアスは指を折っていく。
「全部じゃない」
「あなたが抱えてるより」
「私たちがやった方が早いところ」
「あるわよ」
否定。
できない。
実際。
ある。
御厨も口を挟む。
「期限付きで」
「返還先が正式に整うまで」
「一時的に預かるだけでも」
「アリスさんの負担はかなり減ります」
アリスは黙った。
魅力的。
だった。
本当に。
楽。
なる。
マティアス。
仕事。
できる。
御厨。
仕事。
できる。
アライアンス。
後ろ。
いる。
事故。
減る。
復旧。
速い。
だから。
「やだ」
マティアス。
少し。
目。
丸く。
する。
「理由は?」
アリスは少し考えてから答えた。
「それ」
「私のじゃない」
「何が」
「権限」
一拍。
「新開市の」
御厨。
静か。
見る。
アリス。
続ける。
「今」
「私が持ってる」
「それ」
「おかしい」
「だから」
「返す」
「でも」
「返す先」
一拍。
「新開市」
マティアス。
「私たちはアライアンスの支援を受けてるわ」
「だから」
「だから?」
「アライアンスに」
「返すんじゃない」
アリス。
はっきり。
言う。
「時間」
「かかっても」
「新開市に」
「返す」
マティアスは黙る。
御厨も。
同じ。
アリスは自分の手を見る。
「借りてるもの」
「持ち主に返す」
「途中で」
「別の人に」
「勝手に貸さない」
義弘が笑った。
アリス。
睨む。
「何」
「お前」
「今日ずっと同じこと言ってんな」
「何が」
「自分で借りた金は自分で返す」
一拍。
「借りた権限は持ち主に返す」
アリス。
止まる。
トミー。
「借金女王」
「黙れ!」
病室。
少し。
笑う。
*
御厨は、その笑いの中で何かを考えていた。
人。
アリス。
言うこと。
聞く。
なぜ。
権限。
違う。
恐怖。
違う。
今。
少し。
分かる。
「なるほど」
アリスが振り向く。
「何」
「先日の答えです」
「何の」
「どうして皆さんが」
一拍。
「あなたの言葉を聞くのか」
アリス。
嫌。
顔。
「また女王とか言う?」
「いいえ」
御厨は穏やかに笑った。
「約束を」
「守るからですね」
アリスは黙った。
マティアスも頷く。
「しかも」
「面倒でも」
義弘。
「そういう奴だよ」
アリス。
「本人いる」
御厨。
「寄付も」
「勝手に使わなかった」
「当然」
「義弘さんに支払わせなかった」
「当然」
「権限も」
「返すと言った」
「うん」
「だから」
「返す」
「うん」
御厨は少しだけ目を細めた。
「それが」
「信用になる」
アリス。
「知らない」
「本人は」
「そうでしょうねえ」
チャールズ。
「信用は」
「本人が自称するものではありませんから」
アリス。
「お前ら二人組になるな」
*
病院を出た後、御厨とマティアスはしばらく歩いた。
新開市。
夕方。
復旧工事。
続く。
道路。
直る。
人。
戻る。
マティアス。
言う。
「街も同じじゃない?」
御厨。
「何がです?」
「約束」
一拍。
「この道路」
「何日までに直す」
「この市場」
「どこまで残す」
「この区画」
「何を安全にする」
「壊すなら」
「何を補償する」
御厨。
ゆっくり。
歩く。
「履行したか」
「してないか」
「記録する」
「そう」
「守れなかったら」
「理由」
「残す」
「次」
「改善したか」
「見る」
マティアス。
笑う。
「人も」
「企業も」
「行政も」
「全部」
御厨が足を止めた。
新開市。
見る。
昨日。
デモ。
した。
今日。
工事。
してる。
変わる。
でも。
約束。
残る。
「信頼を」
一拍。
「作り直せますね」
マティアス。
「でしょ」
御厨。
少し。
笑う。
「面白いですねえ」
*
その夜、二人は改善案へ追加提案を加えた。
《新開市都市信用・履行再建構想》
最初の内容は、恐ろしいほどまともだった。
企業が何を約束したか。
行政が何を約束したか。
復旧期限。
履行状況。
未達理由。
補償。
再発防止。
過去の不祥事。
その後。
改善。
したか。
悪い記録だけ。
残さない。
直した。
約束。
守った。
それも。
残す。
マティアス側。
《都市履行契約》
道路。
市場。
住民。
安全。
復旧。
何を。
いつ。
どこまで。
やる。
見える。
する。
御厨側。
《約束・責任履歴》
人。
企業。
行政。
団体。
言った。
こと。
やった。
こと。
残す。
合わせれば。
一つ。
の。
仕組み。
なる。
「約束を守ってきた主体は」
御厨。
言う。
「次の約束も」
「信用されやすくなるでしょう」
マティアス。
「当然ね」
御厨。
少し。
止まる。
「逆も」
マティアス。
「当然でしょ」
御厨。
一拍。
「……そうですねえ」
その言葉。
今。
まだ。
何も。
危なく。
ない。
ただ。
記録。
する。
だけ。
*
翌日。
氷の母の前へ。
改善案。
出る。
彼女。
一ページ。
一ページ。
読む。
透明化。
約束。
履行。
責任。
改善。
信用。
全部。
アライアンス。
目的。
とも。
合う。
「着想は」
氷の母が聞いた。
御厨。
少し。
笑う。
「新開市で」
一拍。
「最も信用されている方を」
「観察しました」
マティアス。
「本人は女王じゃないって」
「うるさいけど」
氷の母。
わずか。
目。
細める。
「アリスですか」
「はい」
御厨。
「ですので」
一拍。
「女王を作るのではなく」
「女王がいなくても」
「信用が積み上がる仕組みを」
氷の母はもう一度資料を見る。
約束。
記録。
履行。
改善。
どれも。
正しい。
「進めてください」
短い。
承認。
出る。
*
その頃。
アリス。
ローン。
返済予定。
見てる。
数字。
変わってない。
義弘。
払ってない。
マルティネス。
CM。
出ない。
クラウドファンディング。
止めた。
募金。
復興基金。
行った。
結局。
自分。
払う。
トミー。
横。
見る。
「で」
「何」
「いける?」
アリス。
画面。
見る。
家族機。
見る。
スルツォヴァー・クラーロヴナー。
上空。
浮く。
「……いける」
「顔」
「うるさい」
「何年?」
「聞くな」
トミー。
笑う。
アリス。
怒る。
新開市。
いつもの。
夕方。
続く。
ただ、その日。
アリスがローンを自分で返そうとしていた、その馬鹿馬鹿しいほど小さな騒動から。
御厨綴とマティアス・ヴァン・ローンは。
一つ。
学んだ。
信用とは。
約束して。
そして。
返す。
こと。
だった。
問題は。
それを。
都市全部に。
どう。
適用するか。
だった。




