第425話 庭に集まるもの
久我原総司がアライアンスによる新開市再建計画の存在を知ったのは、正式な企業向け公募が始まるより少し前だった。秘密情報を盗んだわけではない。大泉晴翔による一連の事件で損傷した都市設備をどう復旧し、再び《MIKOSHI=NYUDO》のような再構成機構に利用されない都市規格をどう作るか。そのためにアライアンスが専門家を招聘し、新開市行政と協働するという話は、巨大な復旧需要を前にすればいずれ産業界へ漏れ出す程度のものだった。ただ、他社より数日早く聞きつけたというだけである。そして数日は、久我原にとって十分な時間だった。
天領機工の会議室。正面スクリーンには、JX-01《REGALIA》が映っている。大型機でありながら都市部での運用を意識した機体。これまで何度も営業資料には「次世代都市対応機」と書いてきたが、その言葉を本物の実績へ変えられる場所が、突然現れた。
「河島さんのところは?」
部下が聞いた。
「動けないわけではない」
久我原は資料をめくる。
「ただ、今までみたいには動けない」
河島玄隆本人は捜査と司法手続きの只中にいる。カワシマ重工そのものが消えたわけでもなければ、KAGEBŌSHIの評価が落ちたわけでもない。むしろ《大行列》制圧と復旧作業でKAGEBŌSHIの優秀さは改めて証明されていた。しかし企業が新しい大規模案件へ出るには、どうしても以前より慎重になる。
「チャンスですね」
「そうだな」
「REGALIAの実戦実証を?」
久我原が部下を見る。
「実戦?」
「新開市なら、また何か出るでしょう」
「出なくていい」
即答だった。
部下が意外そうな顔をする。
「ですが、機体性能を示すには――」
「怪物を倒さなきゃ機械の価値を証明できないのは、売り手として負けだ」
久我原はスクリーンへ視線を戻した。
「瓦礫を持ち上げる。壊れた橋を支える。電力設備を運ぶ。倒れかけた建物を押さえる。避難路を開ける。街一つ直したって実績があれば十分だろ」
「……河島社長とは違いますね」
「比べなくていい」
一拍置いて、久我原は笑った。
「それに、REGALIAには怪物なんか必要ない」
*
マティアス・ヴァン・ローンは、その日だけで十三件目の企業提案を受け取っていた。そして十一件を保留、二件を差し戻していた。理由は簡単である。どの企業も自社製品がいかに強いか、いかに高性能か、いかに晴翔事件級の危機にも対応可能かを説明してくるが、マティアスが知りたいこととは少し違っていた。
「ねえ」
彼は資料を投げ出した。
「どうして皆、武器の話から始めるの?」
隣の行政職員が困ったように答える。
「新開市だからでは」
「嫌な説得力ね」
「否定はしません」
「こっちは街直したいのよ。ビルと殴り合う機械じゃなくて、ビルを支えられる機械が欲しいの」
そこへ、久我原総司の名刺が届いた。
二十分後。
JX-01《REGALIA》の説明が始まる。
「最大持ち上げ荷重」
マティアス。
久我原が数字を答える。
「連続稼働時間」
答える。
「路面への最大荷重」
答える。
「旧市街の狭路」
「幅員によっては外装を一部換装します」
「電源」
「独立運用と外部供給、両方対応可能です」
「腕部精度」
「大型構造材を保持したまま、別腕で接続具を交換できる程度には」
マティアスの目が少しずつ輝いていく。
「武装は?」
「今回は不要なら外します」
「……あなた」
「はい」
「売り方分かってるじゃない」
久我原は微笑んだ。
「怪物を倒すために持ってきたわけではありませんので」
マティアスが机へ両手を置く。
「好きよ、その言い方」
「ありがとうございます」
「試験導入。まず二機。旧外縁の構造補強と、大行列で損傷した物流回廊。結果が良ければ増やす」
「条件は」
「私の作業計画に従うこと。住民区画で勝手に動かさない。武装は別許可。撮影映えのために機械立たせない。企業ロゴを復旧現場のど真ん中に置かない」
「最後は厳しいですね」
「広告したいなら、直した街を撮りなさい」
久我原は数秒考えた後、頷いた。
「分かりました」
「あと」
「はい」
「右腕の支持荷重、もう少し上げられる?」
久我原が少し笑う。
「既に改修案があります」
マティアスの笑みが深くなった。
「本当に好きよ、あなたの会社」
その瞬間、JX-01《REGALIA》は単なる売り込みの製品ではなく、マティアスの都市再建計画へ組み込まれる最初の日本国製大型機になった。
*
一社が入れば、次が来る。
天領機工がアライアンス協力下の新開市再建事業へ採用されたという情報は、企業社会を驚くほど速く走った。日本国の建設機械メーカー、重工、都市設備企業、ドローンメーカー、仮設電源会社、測量企業、災害対応装備メーカーが次々と提案を持ち込んだ。その中にはアリス系ドローンの技術を応用した工兵機、輸送機、警備・救助兼用機も多い。アリス自身の家族機とは系統も思想も違うが、彼女が一時代を作ったことで生まれた技術系譜は、既に世界中の産業へ枝分かれしていた。
マティアスは人手が足りなかった。
だから使えるものは使った。
当然、審査はする。企業の政治的背景も見る。保守契約も見る。新開市内に置くデータの帰属も確認する。だが「日本国企業だから」という理由だけで拒絶することはなかった。
その結果。
新開市へ。
また。
大型ドローン。
入ってくる。
何機も。
道路をJX-01《REGALIA》が歩く。その後ろを測量用ドローンが飛び、別の交差点では日本国製の多脚工兵機が崩れた舗装を剥がしている。
市民。
見る。
「何あれ」
「REGALIAだって」
「強い?」
「工事するらしい」
「ああ」
「工事か」
終わり。
晴翔事件で感覚が壊れていた。
祝部マコトは配信画面を見ながら頭を抱えた。
「新開市市民、ついに大型軍民両用ドローンを見ても工事車両としか思わなくなりました」
コメント。
《いつもの》
《怪獣じゃなければセーフ》
《昨日MIKOSHIだった変電所よりマシ》
《REGALIAかっこいい》
《カード化まだ?》
祝部。
「カード化を求めるな」
*
アリスがその光景を知ったのは、後からだった。
復旧した高架下を歩いていると、前方からREGALIAが来る。武装の大半を外し、代わりに大型支持具を装備している。その後ろにも見覚えのない日本企業製工兵機。
アリス。
止まる。
「……何これ」
三岐透子が端末から顔を上げる。
「復旧事業です」
「見れば分かる」
「では何が」
「聞いてない」
「はい」
アリスが三岐を見る。
「はい?」
「アリスの認可を必要とする案件ではありません」
アリス。
口。
開く。
閉じる。
「……そうだった」
三岐。
「そうです」
「でも」
「何でしょう」
「ちょっとくらい言えよ」
「報告資料には記載されています」
「読んでない」
「読んでください」
祝部が横から笑う。
「女王じゃなくなってきたね」
「その言い方腹立つ」
「喜ぶところでは?」
「嬉しいけど腹立つ」
アリスはREGALIAを見送った。自分を通さなくても街が動く。それは望んだことだった。王冠を返すということは、自分の知らないところで誰かが決め、自分の許可なく何かが始まるということでもある。
ただ。
少し。
違和感。
「日本ばっか」
三岐も今度はすぐ答えなかった。
「現状では、日本国系企業の比率が高いですね」
「いいの」
「アリスの認可が不要であることと、政治的偏在を無視してよいことは別です」
「うん」
「市長側も確認しています」
新開市は中立都市だった。
日本国内にある。
しかし。
日本国の街ではない。
アライアンスという巨大な中立保証の下、日本企業が道路、電力、物流、保守規格へ深く入っていけば、それは単なる復旧工事では終わらない。
部品。
技術者。
更新契約。
認証規格。
全部。
後。
残る。
*
そのことに気づいたのは、新開市行政だけではなかった。
オールドユニオン系企業。
欧州資本。
地場企業。
日本国以外の装備会社。
それぞれが「アライアンス再建事業」という看板の下に日本企業が入り始めたことを警戒する。
そして、最も露骨に反応した一人がヴェラ・クラウスだった。
「増えてる」
OCM海外部門の作戦室。
新開市の地図。
日本企業名。
増える。
天領機工。
REGALIA。
工兵機。
測量契約。
電力。
輸送。
ヴェラは画面を見ながら、オスカーとの通信を開いた。
「海外部門の資産回収、まだ?」
『進めている』
「遅い」
『晴翔事件直後だ』
「知ってる」
『今、海外部門の戦力を新開市へ大量投入すれば、警戒される』
「日本は入れてる」
『アライアンス再建計画の枠組みだ』
「だから問題なの」
オスカーが少し黙る。
「中立の看板の下で規格を取られたら、後からひっくり返せない」
『何を要求する』
「海外部門資産の回収。現地での独自契約権限。新開市代表機能」
『検討する』
「いつ」
『必要な確認が終わったら』
「それが遅い」
『ヴェラ』
「何」
『勝手に動くな』
ヴェラは黙った。
「分かった」
通信を切る。
数秒。
部下が見てる。
「……分かったんですか」
「何が」
「勝手に動くな、と」
「聞いた」
「従うとは」
「言ってない」
部下が頭を抱えた。
*
ヴェラは大泉晴翔を好きではなかった。
だが。
使えるもの。
使う。
彼女は晴翔のやり方を一つ、単純化して理解していた。
危機を置く。
誰かが拾う。
暴れる。
そこへ自分が入る。
止める。
必要性。
証明。
する。
「晴翔式ですか」
部下が聞いた。
「真似じゃない」
ヴェラは答えた。
「効いた方法を使うだけ」
OCM海外部門が所有する古い保管施設が、新開市外縁からさほど離れていない場所にあった。中にあるのは、失っても海外部門が致命傷を負わない旧式資産。型落ちの小型軍用ドローン。外骨格部品。交換用駆動系。非致死装備へ切り替え可能な旧武装モジュール。
場所。
匿名。
流す。
鍵。
流す。
送る相手。
選ぶ。
新開市周辺のヴィラン。
命令。
しない。
ただ。
「使えるものがある」
と。
教える。
ヴィランが盗む。
新開市。
騒ぐ。
治安機関。
出る。
そこへ。
ヴェラ。
OCM海外部門。
共同。
制圧。
する。
OCM海外部門は危険ではない。
必要。
である。
そういう実績。
作る。
はず。
だった。
*
御厨綴は、その頃、新開市で犯罪をしたことのある人間たちを一人ずつ見て回っていた。
犯罪者を探しているわけではない。
晴翔事件で浮かび上がった「役割の再利用」を追っていた。
過去に何をした。
今。
何してる。
どこ。
戻った。
誰。
再び。
危ない。
場所。
近づく。
そういう履歴。
御厨の端末。
一つ。
引っかかる。
「まあ」
元武装窃盗犯。
元サムライ・ヴィラン。
物流施設への侵入歴を持つ男。
三人。
同じ日。
同じ方向。
動く。
互い。
普段。
関係。
薄い。
御厨は画面を拡大した。
「偶然ですかねえ」
同行していた職員が聞く。
「治安機関へ?」
「連絡してください」
「待機しますか」
御厨は少し考えた。
目的地。
旧OCM保管施設。
管理情報。
中。
旧軍用資産。
「いいえ」
「しかし」
「中に武器があります」
一拍。
「入らせる必要はないでしょう?」
二機のQbs.Bm.が起動した。
*
ヴィランたちは、倉庫へ入るところだった。
鍵。
本物。
認証。
通る。
「マジじゃん」
「誰が流した」
「知らねえよ」
「中にOCMの旧式機あるって」
「売る?」
「馬鹿。使うだろ」
扉。
開き始める。
その時。
何か。
横。
立つ。
「……何だ」
楔形。
六肢。
顔。
ない。
《Qbs.Bm.》
一人が即座に後退した。
「アライアンス!」
逃げる。
Qbs.Bm.。
追わない。
一本の肢が地面へ触れ、逃走経路の前に拘束索が展開する。男が飛び越えようとした瞬間、足首だけを取られ、転倒する直前に別の支持肢が身体を受け止める。
怪我。
しない。
動けない。
二人目。
「まだ何もしてねえ!」
武器。
抜こう。
する。
抜く前。
手首。
固定。
「うわ!」
三人目。
能力。
起動。
姿勢。
変える。
Qbs.Bm.。
脚。
一本。
床。
打つ。
重心。
崩す。
拘束。
する。
十五秒。
終わる。
御厨綴がゆっくり歩いてきた。
「こんばんは」
「何だよお前!」
「御厨です」
「知らねえ!」
「そうでしょうねえ」
一人が拘束されたまま怒鳴る。
「何もしてねえだろ!」
御厨は倉庫を見る。
「施設への不正侵入」
「鍵あった!」
「正規に受領した鍵ですか?」
男。
黙る。
御厨。
少し。
笑う。
「それと」
扉の認証端末。
見る。
「皆さん」
一拍。
「どうして同じ鍵を持っているんでしょうね」
数分後。
治安機関。
到着。
真鍋が車両から降りた。
現場。
見る。
ヴィラン。
全員。
拘束。
武器。
まだ。
倉庫。
中。
「早かったね」
御厨。
「運が良かったです」
「運?」
「履歴上、不自然な動きが重なりましたので」
真鍋はQbs.Bm.を見る。
「犯罪起きる前に止めた?」
「大きなものは」
「大きな?」
「施設侵入自体は既遂に近いですね。認証を通していますから」
「そこ分けるんだ」
「分けますよ」
御厨は穏やかに答えた。
「犯罪が起きる前に止めた、と全部まとめると危ないですから」
真鍋が少しだけ御厨を見る。
今。
その言葉。
本人。
言う。
なら。
まだ。
大丈夫。
そう。
思う。
でも。
一つ。
引っかかる。
「何でこいつらがここ来るって分かったの」
「過去と今を見ました」
「それだけ?」
「今のところは」
御厨。
笑う。
「まめに見れば」
一拍。
「案外、分かるものですよ」
*
OCM海外部門の待機部隊では、予定時刻を過ぎても何も起きなかった。
ヴェラは時計を見る。
「遅い」
部下。
端末。
確認。
「……対象、全員拘束されました」
「治安?」
「一部協力。でも制圧したのは別」
「誰」
映像。
出る。
Qbs.Bm.。
御厨。
ヴェラ。
見る。
「この女」
「御厨綴。日本国の警察行政・司法制度関係の専門家。現在、アライアンス招聘で新開市に」
「何分」
「何が」
「倉庫入ってから」
「十数秒で制圧」
「違う」
ヴェラ。
画面。
巻き戻す。
「武器取る前」
「……はい」
「騒ぐ前」
「はい」
「私たちが出る前」
「はい」
ヴェラの口元が少し上がる。
「面白い」
部下が嫌そうな顔をした。
「作戦失敗ですけど」
「だから」
「は?」
「私より先に、歯車見つけた」
ヴェラは立ち上がる。
「会う」
「誰に」
「御厨綴」
「何て」
「OCM海外部門の新開市代表」
「いつ決まったんですか」
「今」
*
翌日。
御厨綴の前へ。
ヴェラ・クラウス。
来る。
「初めまして」
ヴェラ。
「ヴェラ・クラウス」
御厨。
笑う。
「存じています」
「資料で?」
一拍。
「ずいぶんお会いしました」
ヴェラが少し笑った。
「その言い方、嫌われない?」
「よく言われます」
「アリスにも?」
「はい」
「でしょうね」
二人。
座る。
ヴェラ。
いきなり。
本題。
「倉庫の件」
「はい」
「犯罪が起きる前に止めたって?」
「正確には、侵入行為は始まっていました」
「でも武器は取ってない」
「そうですね」
「怖くない?」
御厨の目が少し細くなる。
「何がでしょう」
「まだ武装犯罪をしてない人間を」
一拍。
「するだろうって理由で止めること」
御厨はすぐには答えなかった。
「怖いですよ」
ヴェラが少し意外そうな顔をする。
「へえ」
「だから現場まで行きました」
「データだけじゃ止めない?」
「少なくとも今は」
ヴェラ。
笑う。
「好き」
「ありがとうございます」
「褒めてないかも」
「どちらでも」
御厨。
湯呑み。
置く。
「ところで」
「何」
「あの倉庫」
一拍。
「OCM海外部門の資産ですね」
ヴェラの表情は変わらない。
「そうだけど」
「鍵」
「うん」
「どうして外に出たんでしょうねえ」
数秒。
静か。
ヴェラ。
笑う。
「調べれば?」
御厨も笑う。
「ええ」
目。
だけ。
鋭い。
「そうします」
そこで初めて、ヴェラ・クラウスは少しだけ姿勢を変えた。
大泉晴翔とは違う。
この女。
遊んでない。
面白がってる。
ようにも。
見える。
でも。
もっと。
地味。
もっと。
まめ。
そして。
人。
見てる。
ヴェラは興味を持った。
御厨も。
ヴェラを。
記録。
始めた。
*
その日の夕方、新開市中央部ではJX-01《REGALIA》が壊れた高架を持ち上げていた。大型の腕が重量を受け、その下で作業員が新しい支持柱を入れる。マティアスは現場でヘルメットを被り、自分で怒鳴っていた。
「右、三センチ!」
『右三センチ』
「行きすぎ!」
『二センチ戻します』
「そう! そこで固定!」
久我原が少し離れた場所から見る。
「どうです」
マティアスは高架を見上げた。
「悪くない」
「厳しい評価ですね」
「褒めてるのよ」
「改善点は」
「右腕。支持しながら工具交換できるようにしたい」
「可能です」
「あと脚。旧市街の傾斜面で使うには接地が甘い」
「設計部へ回します」
「早いわね」
「御社の――」
「御社じゃないわよ」
「失礼。あなたの要求は具体的ですから」
マティアス。
久我原。
見る。
「次も頼むわ」
「喜んで」
それはまだ。
普通。
取引。
だった。
都市研究者。
企業。
協力。
復旧。
する。
それだけ。
だが。
マティアスの端末には既に、REGALIA以外の複数日本企業製機体の性能表が並んでいた。
支持。
持ち上げ。
解体。
封鎖。
輸送。
制圧。
必要。
能力。
一つずつ。
揃い。
始める。
*
少し離れた場所から、その光景をアリスと祝部が見ていた。
「増えたね」
祝部が言う。
「うん」
「晴翔いなくなったのに」
アリスはしばらく答えなかった。
REGALIA。
工事。
日本企業。
入る。
マティアス。
使う。
御厨。
Qbs.Bm.。
ヴィラン。
止める。
ヴェラ。
来る。
OCM。
動く。
OU。
見てる。
新開市企業。
警戒。
する。
全部。
アライアンス。
再建計画。
周り。
集まる。
「晴翔」
一拍。
「関係ない」
祝部。
「じゃあ」
「空いた」
「何が」
アリスは街を見る。
「場所」
晴翔がいなくなった。
日本国代表団の強い政治的介入者。
消えた。
企業群。
一度。
退いた。
OU。
立場。
変わった。
女王。
王冠。
返そう。
してる。
新開市。
復旧。
中。
だから。
「皆」
一拍。
「入ってきてる」
祝部が少しだけ真面目な顔になる。
「席?」
「たぶん」
アリスはREGALIAの向こうにいるマティアスを見る。
そのさらに遠く、治安機関の車両横で御厨とQbs.Bm.が見える。
どっち。
今。
役立ってる。
本当に。
役立ってる。
それが。
余計。
気になる。
*
氷の母の元へ、その日の報告がまとめられた。
《JX-01 REGALIA――復旧計画試験運用開始》
《日本国企業・新規参画申請増加》
《御厨綴――OCM旧資産保管施設への侵入事案を未然拡大防止》
《Qbs.Bm.――対象三名、重傷者なし》
《OCM海外部門ヴェラ・クラウス――新開市代表として接触開始》
《複数国外企業・組織――再建計画への照会増加》
担当官が言う。
「計画開始以降、関係組織からの接触が急増しています」
「当然です」
「問題では」
氷の母は少し考えた。
「まだ」
新開市。
地図。
表示。
中央。
アライアンス。
そこから。
線。
伸びる。
行政。
日本企業。
OCM。
オールドユニオン。
治安。
アリス。
御厨。
マティアス。
久我原。
さらに。
新しい。
企業。
人。
組織。
集まり。
始める。
「庭を整えれば」
氷の母は静かに言った。
「人は集まります」
担当官は何も言わなかった。
「問題は」
一拍。
「何が」
「根を張るかです」
画面の中では、まだ誰も敵ではなかった。
久我原総司は、自社製品を正当に売り込んだだけだった。
マティアス・ヴァン・ローンは、壊れた街を直すために必要な道具を集め始めただけだった。
御厨綴は、実際に武装倉庫へ侵入しようとしていた人間を、怪我させずに止めただけだった。
ヴェラ・クラウスは、一度失敗した。
そして。
氷の母は。
全て。
まだ。
制御。
できる。
と思っていた。
新開市の夜景の中を、工事灯を点けたREGALIAが歩いていく。その少し離れた道路では、白灰色のQbs.Bm.が静かに停止している。
一方は、日本国企業の機械。
一方は、アライアンスの機械。
今はまだ。
どちらも。
街を。
直す。
ため。
そこ。
いる。
ただ、新開市という庭では、一度伸び始めた枝が、必ず庭師の思った方向へ伸びるとは限らなかった。




