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居酒屋領主館【書籍化&コミカライズ進行中!!】  作者: ヤマザキゴウ


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405/411

405.夜の遊戯

「ふう……食った食った……」


 ラルフは背もたれに体重を預け、天井を仰ぎながら心底満足そうに息を吐いた。


「ごちそうさまでした〜」


 隣でエルフの少女ミュリエルが、小さな掌を合わせて深々と呟く。

 もともとはラルフが前世の癖で無意識に行っていたこの「食後の儀式」だが、いつの間にかロートシュタインの孤児たちが真似しだし、今や居酒屋領主館に集う面々にとっては、魂に刻まれた聖なる習わしとなっていた。


 場所は――ノアルディア領主館。

 歴史の重みを感じさせる豪華絢爛な食堂。

 そんな貴族の威厳を体現したような空間で、誰もが丼を空にし、満足感に満ちた気怠い空気がゆったりと流れている。


「いや〜。本当に助かったぞ、ラルフ……」


 ファウスティン公爵も、最後の一粒まで鉄火丼を堪能したようだ。今は行儀悪く爪楊枝で歯の隙間をこそぎながら、シーシーと音を立てている。その姿に、高貴な公爵としての面影は微塵もない。


「いやー、美味かったね。あんな巨大なマグロ、大味かと思いきや……脂の乗りが異次元だったよ。まさに海の宝石箱や〜」


 ラルフもまた、マグロという食材が持つ圧倒的なポテンシャルに酔いしれていた。


「おぅ、食った食った! 生の魚ってのは、こんなに美味いもんだったのかよ。それに、この『コメ』とかいうやつ……こいつはヤバい。魚と出会うためだけに、神が設計したような穀物じゃねーか!」


 今回の主役である大マグロを仕留めた狩人、ガイ・ユーリーも興奮冷めやらぬ様子で語る。

 彼は意外にも繊細な性格をしているらしい。彼の丼には米粒一つ残っておらず、空いた食器はまるで整列した兵士のように美しく並べられていた。

 獲物の命を余すことなく頂く――それは、過酷な自然の中で生きる狩人としての、本能的な敬意と感謝の表れなのかもしれない。


「んだんだ! 次はもっとでっけぇ魚、狙うべ!」


 ミュリエルも、ガイがまたシャーク・ハンターズの助っ人として次の獲物を手に入れることに思いを馳せ、その瞳をキラキラと輝かせている。


 ラルフが淹れたての熱いお茶を「ふぅ〜」と冷ましながら、何気なく傍らに視線を向けると、そこには凄まじい光景が広がっていた。


 ガツガツガツガツッ!


「……これ、反則です……。美味しすぎて止まりませんっ! モグモグ……」


「メイド長……モグモグ。私たち、夕食食べたはずなのに……! モグモグ……」


 ローラをはじめとしたメイドたちが、理性のタガを外して鉄火丼を貪り食っていたのだ。


 一度は満たされたはずの胃袋。

 しかし、未知なる「赤き宝石」と「白き穀物」が織りなす極上のハーモニーに、彼女たちは抗えなかった。夜食というにはあまりに贅沢な、良質なタンパク質と炭水化物の暴力に、彼女たちは幸せそうに溺れている。


「……おい、ラルフ。まさか、食ってすぐ寝るなんて無粋なことは言わないよな? ちょいと付き合えよ」


 ファウスティンが、ニヤリと笑いながら持ち上げたのは、ロートシュタイン産、秘蔵の米酒のボトルだ。


「はいはい。まあ、僕もまだ少し飲み足りない気分でしたしねー」


 ラルフが苦笑しながら立ち上がると、


「の、ノアレイン公爵殿。わ、私もその……ご相伴にあずかっても……?」


 と、オルティ・イルが頬を染めてモジモジしだした。


「あー、もちろん構わんぞ。ミュリエルもどうだ?」


「あっはっはー! オラも飲み足りねぇわね! わーりねぇ〜」


 ミュリエルも意気揚々と立ち上がる。


「おっと、エドは……そろそろ"おネム"の時間かな?」


 ラルフが微笑ましそうに目を細める先。

 少年エドは、椅子に座ったままカクンカクンと舟を漕ぎ始めていた。

 囮役として魔獣モスマンに追われ、街中をジャッキー・チェンばりのスタントで駆け抜けたのだ。極度の緊張から解放され、腹が満たされれば、まだ幼い彼が限界を迎えるのは必然だった。


 メイドたちのテーブルからローラが静かに立ち上がる。


「エド君は、私が……。旦那様、二階の遊戯室へ移動されてはいかがですか? あとの片付けは私たちにお任せください」


 彼女はそっとエドの体を抱き上げた。

 いつもの生意気な跳ねっ返りぶりが嘘のように、エドはローラの腕の中で安心しきった赤ん坊のような寝息を立て始めた。


「そうか。すまないな、ローラ。……では、ラルフ。俺たちは上に……『大人の時間』を楽しもうじゃないか」


 ファウスティンが手にしたボトルが、艶めかしく光った。


 二階へと向かう階段を上りながら、ラルフは密かな期待に胸を膨らませていた。


 「遊戯室」という響き。


(もしかして、ビリヤードとかダーツとか……。ファウストさん、前世の遊びをこの世界の魔道具で再現してたりするのか?)


 そんな淡い期待。


 しかし、扉が開かれた先に広がっていたのは――。


「アオォォォォォォォ……」

「アァ、アアア、アアア……」


 整然と棚に並ぶガラス瓶の中から、封じられた悪魔たちの呪わしい唸り声が漏れ。


 中央の遊戯台では、二体の禍々しい形状の人形が、なぜか意思を持っているかのように身悶えしていた。


 ラルフは瞬時に理解し、そして遠い目をした。


(あ……。そうだった。この人、ガチの退魔師であり、重度の呪物コレクターだった……)


「なんこれ? おもっしぇなー!」


 だが、適応能力の塊であるミュリエルは、悪魔の瓶を眺めて興味津々だ。


「ほう。これは実に見事な呪いだ。ここまで濃密に汚染された人形は、大教会に持ち込まれたこともないぞ?」


 聖教魔導士から、料理人にジョブチェンジしたオルティも、学究的な視線で呪いの人形を観察し始めた。


「魔導接続をして、この二体を操り、戦わせて遊ぶのだ。どうだ、オルティ。聖教魔導士の意地、見せてみるか?」


「ほう……。魔力操作の修練にもなりそうだな。面白い、受けて立とう!」


 かくして、遊戯台の上で「呪いの人形デュエル」という、狂気的なマッチが幕を開けた。


 それを見守るラルフの脳内には、前世の記憶が呼び覚まされる。


(お、おぅ……。異世界版、呪術的、"格ゲー"……か……)


 魔法技術はあれどデジタル技術はない。

 ならば、本物の呪いや魔力でキャラクターを動かせばいい――。

 その贅沢かつ狂った発想に、ラルフは一周回って感心してしまった。


「いけぇー! "アナベル"! その右ストレートで沈めろ!」


 オルティは、いつの間にか不気味な人形に愛称をつけ、身を乗り出して叫んでいる。


 しかし、ファウスティンは冷徹な笑みを浮かべた。


「ふん、甘いぜ! 昇・龍・拳ッ!!」


 ファウスティンが魔力を鋭く流し込むと、彼の人形が見事な対空技を披露。オルティの「アナベル」は錐揉み回転しながら遊戯台の場外へと吹き飛ばされた。


「あぁぁぁぁぁ! アナベルぅぅぅぅぅぅッ?!」


 悲痛な叫びをあげるオルティ。


 ……随分と、楽しんでいるようだ。


 一方、部屋の隅では別の戦いが始まっていた。


「お! これは投げナイフか。どうだ、エルフのお嬢ちゃん。俺と勝負するか?」


「あっはっはー! オラ、そういうの得意なんさねー!」


 ガイとミュリエルが、壁に掛けられた的に向かって、小さなナイフを投擲する遊戯に熱狂しだした。


 酒が入り、互いの腕前を認め合う二人からは、種族を越えた奇妙な連帯感が漂っている。


 ラルフは、一人で静かにベランダへと出た。


 手には、米酒を満たしたぐい呑み。


 この世界の住人たちは、不便な環境の中でも創意工夫を凝らし、今この瞬間を最高に楽しんでいる。


 ラルフは手摺に肘をかけ、真夜中のノアルディアを見下ろした。


 ――城郭都市ノアルディア。


 それはまさに、遺構がそのまま街となったような武骨な都市だ。


 だが、夜が更けた今でも、あちこちに人々の営みを象徴する灯りが灯り、教会の鋭い三角屋根のシルエットを夜空に浮かび上がらせている。


 見上げれば、二つの月。


 ロートシュタインとはまた違う、静謐で、少し不気味で、どこか神秘的な美しさがこの街にはあった。


 夜風が火照った頬を撫でる。

 背後からは「アナベルゥ!」とか「オラの勝ちだぁ!」といった騒がしい喧騒が聞こえてくる。


 その時――。


 パタパタと、可愛らしい羽音が耳をくすぐった。


「あ、あれ? お前は……」


 ラルフの横、手摺の上にふわりと降り立ったのは、ファウスティンの従魔となったサキュバスだった。


 今は二頭身ほどの愛らしいマスコットのような姿になった彼女が、夜景を眺めながら呟く。


「ラルフ・ドーソン。……良い夜ね。まるで人々の欲望が、闇を灯火に変えているようだわ」


「あ……。お前、喋れたのね?」


 ラルフは驚くこともなく、あっさりと受け入れた。


「私は欲望を食らう魔のモノ。……でも、ラルフ。あんたの周りにいる連中の欲望には、到底勝てそうにないわ……」


 かつては一国を影から操ったほどの小悪魔。


 しかし今の彼女は、この「セカンドライフ」を、半分は諦め、半分は面白がっているように見えた。


 背後からは、まだ賑やかな声が響いている。


「うがぁ! 上手くいかん! 私も呪術を習うべきか!?」


「聖魔法は縛りが多すぎるんだよ、ラルフを見習え!」


「おぉ! 投げナイフでも、百発百中かよ!」


「あっはっはー! ガイさんこそ、エルフの里に来たらモテモテだべ!」


 ラルフはぐい呑みを、グビリと呷った。


(なんだか……。前世よりも不自由な世界なはずなのに……なのに何故か……ずっと自由な気がするなぁ〜)


 彼は、ふと横に座る小さな悪魔に視線を向けた。


「……お前はさぁ、今、幸せか?」


 かつては死闘を繰り広げた敵に、そう問いかけてみる。


 彼女は、すぐには答えなかった。


「……私は、ヒトの欲望の隙間に生まれる存在。……幸せなんて、ヒトの尺度。私には、わからないわ……」


「そっか。……まあ、ヒトだってそうさ。欲望から生まれて、欲望に突き動かされる。……でも、その過程を楽しめたら、それが人生ってもんじゃないかねぇ?」


 ラルフはそう言って、彼女の小さな体をひょいと抱き上げた。


 さて!


 呪術の格ゲーに参加するか、それともエルフと狩人の投げナイフ勝負に混ざるか。


 ラルフは、心地よい夜風を感じながら、

 どの遊戯に参加するべきか?

 そう、考えはじめた。

またも、

本作の執筆の傍ら、一次創作界隈の方に歌詞提供をさせていただきました!

YouTubeにて楽曲が公開されていますので、もしよろしければ、皆さん、検索して、聴いてみてください。


曲名は『アンブレラ』。


☆歌(ジュンコCV): 花池莉奈(@HanaikeRina )

☆イラスト: 深海 姫魚

☆歌詞: ヤマザキゴウ(@yojibe_record )

☆作曲&動画、MIX: 蛯名諒士(@zi_a_ru )


まあ、興味があればでよいので、よろしくお願いします。


検索が上手くいかない方は、


アンブレラ/ジュンコ・ダンボ


で、YouTube検索して、深海姫魚さんの動画みてね〜


あ! もしできることなら、コメントとか、高評価、ガンガンよろしくお願いしたいです。

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