第五話 関兵
頭を下げてお願いをする実璃。「畏まる必要はない」と台詞が投げられ、顔を上げると男は椅子から立ち上がっていた。
「エネミーとは人類の敵だ。突如として出現した原因不明の生物で、目に映る人間を殺し尽くす害悪。高い戦闘能力を持ち合わせた奴らに人類はなす術なく敗北し続けた。
拳銃、大砲は奴らを刺激し、核兵器でも死滅せず、むしろ活動が活発化して被害が拡大した。人類はバリケードを作り、奴らの侵攻に抵抗するしか対策がなかった」
悲痛そうに喋るその口調は、どこか悲しげで落胆しているようだった。
「だがバリケードなど一時的なものに過ぎん。長い時間が経過してもなお、逃げて守って、逃げて守って、それを繰り返すだけだった」
「でも、唯一抗う方法が見つかったの」
男を遮るように放たれた声はすぐ近くから聞こえた。白い髪を手に絡ませながら、間を開けて奏は呟く。
「それが私達、関兵」
奏の言葉を受け、実璃の脳裏に先程の言葉が思い浮かんだ。
『関兵って言うのはエネミーに致命傷を与えられる前衛隊のことなんだ。だけどここには医療班や後衛隊もいる。全員の協力があって初めてやっつけられるんだ』
―――関兵っていうのがエネミーに対するただ一つの対抗策……でも、それって具体的にどうやってエネミーに致命傷を与えるの?
説明を受けるごとの次々と疑問が浮かぶ。けれどそれも即座に解消された。
「関兵とは大々的には公表されていない。言わば秘密裏の部隊だ」
「…それはどうしてですか?」
男に聞いたはずなのに、正解は隣から聴こえてきた。
「そりゃ危険だからね」
和かに答えられたその物言いには少々重みを感じ取った。
「エネミーっていうのはね、全身が硬い粘膜のようなもので覆われているの。拳銃や大砲、核兵器はそれに弾かれる。だけどね、かなりの被害を出しながらも何年か前にエネミーの捕獲に成功して、そこから事態が変わったんだよ」
奏は一旦言葉を切る。と言っても実璃が口を挟める余地などどこにもないため、実璃が黙って促した。
奏はどこか遠くを見つめるように目を細めつつ、宙に視線を走らせる。
「捕獲したエネミーの身体を解析するうちに、奴らの粘膜を取り出すことに成功したの。粘膜はエネミーの身体から離れると、硬質化して石のように変形して、試しにそれを捕獲したエネミーに突き刺したんだ。
そしたら、体の中心の赤黒い石に当たった場合のみ、エネミーが死亡することが立証されたんだ」
全部聞いた話だけどね、と手を頭に当て照れる奏を尻目に、実璃は大分思考がまとまっていた。ほとんどが公表されていない話であり、実璃は唖然としていた。
「その立証結果から、石を武器として使う方向性で人類はエネミーに立ち向かうことに決めたんだ。
砕いて形にして、剣と盾の二種類の生成に成功したから、その武器をエネミーの中心にある石に刺して、倒すやり方。これで人類は抵抗することに決めたの。……実行してすぐ破綻したけど」
「どうして…」
「魔力」
低く俯けられたその表情はよく読み取れない。痛ましいことだけが実璃には伝わる。
「人間一人一人には魔力がある。目に見えない、生命力みたいなのがね。エネミーから取り出した武器を使う時、その魔力が自分の意志関係なしに流し込まれるっていうのが最初の戦闘で分かったの。
その時戦った人は魔力が多くなくてね、エネミーを何体か倒すことには成功したけど、十分も経たない間に魔力がなくなったんだ。すぐに武器が使えなくなって何人かはその場でエネミーに殺された。なんとかその場から生還した人も、魔力がなくなると身体の機能が徐々に衰えて、全員亡くなっちゃったんだ」
「そんな…」
思わず実璃はゾッとする。考えてみれば、情勢が悪化する一方まともな練習すら出来ない中でのこんな結末…、あまりにも残酷ではないだろうか。
「残る方法は魔力が数分続く間に、敵を倒し切るというものだけど、正直現実味がないよね。武器もそれほど多く作れるわけでもないし、数分ってことは行って帰ってくるだけで終わる場合が多いから」
「じゃあ方法は…」
「魔力が多い者を探す。そして、その答えはすぐそばにあったんだ」
奏は苦笑いをして、頭を掻いた。
「大体十歳から十五歳までの時期、ちょうど私たちぐらいの年齢は魔力がとても多い。つまり、私たちが武器を持ち、前衛となって戦う兵士となればいい」
酷く残酷な事実が、そこに告げられた。
「これが人類にとっての唯一の対抗策、関兵のシステムだよ」




