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第四話 奏と指揮官

 高さ百メートルほどの高層ビルの中に、本部は構成されている。


 彼女たちが居た個室からエレベーターで建物下部に降りると、その地下一帯には巨大な大広間が伸展していた。


 構造はざっと小中学校の体育館といったところ。広さはそれなりに、前方には壇上に何人かの軍服を着た人間が聳える。床を踏み締める実璃と同じように、四人は闊歩して、壇上から五メートルほどの距離で停止した。


 どこか奇妙な眼差しを向ける実璃に途端、ピリついた空気が押し寄せる。先程の雰囲気を他所に、智彩と日影は共に緊張を実感していた。


―――でも、奏だけなんか余裕そうに見える…


 まだあだ名で呼べないのは置いておくとして、ただ一人、何も変わらない様子で鎮立する奏は、現状に違和感を抱えているようだった。


 数秒の静寂が過ぎ、四人の視線は壇上中央に構える威圧的な一人の男性に集合する。


 帽子を深く被り、目は確認できない筈なのに、怖気立つ鋭利さがそこに含まれていた。成人年齢をゆうに超えたその風貌には、歴戦の戦士たる所以が備わっているかの如く男性がいる。


「第七部隊、任務ご苦労だった。早速だが報告を、」

「その前に、聞いてもいいかな?」


 壇上の端で待機する人の声を中断させ、奏は中央の男に目を向けた。 邪気のない懐疑心を額に貼り付けながら、奏は問いを投げかける。


「なぜ、あなたがここにいるの?」

「……なぜとは?」

「だってここの最高指揮官が、できて間もない私の部隊に顔を出すなんてありえないでしょ、普通」


 奏がそう言った途端、実璃以外の三人が首を縦に振る。実際、任務報告会は上層部の中でも立場が低い者が聞き入れ全体に共有する。


 面倒なのではなく、世界各国に広がる各本部と情報を理解し合う為には役割分担が必須。忙しさも相まって本部のトップは、滅多に顔を出さないのが実戦部隊の認識である。


 じわじわと困惑が漂い出した空間は、最終的に二人の人物に定まる。男は冷静に視線を切ると、奏と数秒見つめあったのち、静かに笑った。


「…お前の普通と私の普通は一致していない。夢冬、そういえばお前は私が嫌いだったな」

「うん、嫌いだよ。当たり前じゃん」


少し悲しそうな指揮官と憤りのある様子の奏。

二人の表情には仮面が張り付いている気がするものの、残りのメンツが挙動不審になっているのを見るに、知られた仲では無さそうだった。


「ふ、この辺りにしておくか。何、少々気になっただけだ。お前の連れがな」

「……、まあいいや」

「おい。続きを開始しろ」

「御意」


 男は部下に命じさせ、簡易的に設置されたパイプ椅子に腰を下ろす。重くなった空気を一新するべく、壇上にいる人間は任務内容が表示されたタブレットを手に持った。


「では関兵第七部隊。お前達の任務は、三ヶ所の安全地区の治安維持ということだった。報告をお願いする」


 今回下された旨は、本来であれば安全地区外へ逃亡する連中の捕縛。加えて低下した川崎市の三つの区の治安向上というものだ。数日にわたる任務でもなく、半日見回りすれば終わりという単純な作業である。


 もっとも、それは悪い方向に覆されたわけだが。


「第一区と第二区は特に問題はなかったよ。けど、問題は第三区」

「というと?」

「海沿いにある第三区は以前から治安が低下していたんだ。第三区は海沿いだし、エネミーは海面方面から押し寄せる場合があるから、それでストレスも募りやすい」


 深刻そうに喋る奏は、一息開ける。


「だからかな、安全地区を守るはずの巨大な扉の入り口の鍵が一つ閉まってなかったの」


 その瞬間、地下一体に波紋が広がった。データを一瞥していた人間の何人かが悲鳴をあげそうになるものの、指揮官である男が静止する。


 落ち着きを取り戻した部下達は奏に話を促した。


「そうだね…、たくさんのエネミーがドアを突き破ろうと突撃してきたから、智彩と日影で食い止めてもらったよ。でも私たちが来る前に入ってきた奴らがいたから、私はそいつらを倒しに行ったんだ」

「被害の大きさは?」

「想定したよりは少なかったかな。でも、三十人前後が死亡。負傷者は七十人ってところ。自衛隊が今救援に行ってるから、そのうちちゃんとしたのが分かると思うよ」


 昨夜時点での被害状況が伝わり、地下に安堵の声が広がる。「うーん」と眉間を揉みながら、そこで彼女の視線が実璃に向けられた。


「あ! それでねー、みのりんとはその後出会ったんだよね〜」

「え、えぇ……そうね」

「突然会話振るの良くないわよ。みのりん、びっくりしてるじゃない」

「あれぇ、もしや緊張してるんすか? 初々しいっすねー」

「あんたは茶化さない」

「あいた!」


 先刻の部屋のように、和やかな雰囲気が漂う。騒めく壇上とは裏腹に、彼女達は落ち着いていた。


「あの!」


実璃が自ら声を発すると、懐疑的な目線を見初める人間と目が合う。不安げになるも勇気を振り絞り、前に座る最高指揮官と思われる人間に言葉を交わす。


「私、あまり状況がよく分からなくて…、質問いいですか?」

「構わない」

「エネミーについて、詳しく教えてくれませんか」


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