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第二十七話 真実

「えっ?」


 実璃は何が起こったか理解できなかった。ただ突然光が目の前に押し寄せ、気がつけば真っ暗な世界で立っている。


 無冬奏と一緒に。


「……やられた、本当にやられた! ああ、くそ、このクソ野郎!? どうして、どうして気付かなかったんだ! だって、敵は、いやそもそも、どうして……」


 必死な様子で、何か呟きながら背筋を震わせる奏。急変した態度に思わず実璃が呼びかける。


「奏! 一体何が…」

「エネミーの能力は一つじゃなかった」

「!」

「誤解してたんだよ。そもそも、特殊個体の能力なんて、人類はまだ僅かしか解析できてない。奴らが能力を二つ持ち合わせているなんて、考えれば予想できることだった」


 悲痛な口調で喋る奏は続けて言葉を重ねる。


「目標のエネミーが持つ能力は、たくさんのエネミーを指揮して操ること。けど……それとはもう一つ、突如異空間を発生させ獲物を閉じ込める能力。奴はそれを隠していた。多分奴は、強力な関兵が自分を殺しに来ることが分かっていて、だからあんな目立つ場所でたった一体……待っていたの」

「……」

「知能のないエネミーがどうしてそんな手段を思いついたかなんてわかんないけど、そんなの関係ない。……もう、詰んだも同然」

「そんな…」

 

 奏は考える。


 もしかすれば、最初から仕組まれていたかもしれない。一年前、東京湾に大量のエネミーが突如現れたことも、二日前、突然エネミーが増援を連れ出したのも、何か別の狙いがあったのかもしれない。じわじわと人類に敗北を押し付けようと、奴らは…エネミーは、成長していった。


 エネミーは、人類に害を為す恐ろしい怪物だから。奴らは決して害虫という小さな存在で収まる存在じゃなかった。もっと、警戒視するべきだった。危険な生物だと恐れ、重大な問題にするべきだったのだ。


「本当に、これで…終わりなの? 私たちは、人類は、滅んじゃうの?」

「……」

「……奏?」

「………そんなことないよ」

「…え?」

「言ったでしょ、みのりん。私が、……絶対に守るから」


 猛烈に実璃に悪い予感が迫り来る。

 咄嗟に奏の方へ手を伸ばそうと体の向きを傾けた瞬間、彼女の全身が……赤く発光した。


「奏…?」


 何が起きているのか、分からなかった。目の前に映るのは悲痛そうに口元を歪ませる奏の顔だけ。腹部がどの部位よりも赤黒く輝き、奏の身体を抑制するように光は増していく。


「私さ、ずっと言いたかったの。みのりんには、辛い思いばっかさせちゃったなって」


 どこか寂しそうに笑う奏の表情は、ひどく切ない。何かとても恐ろしい事が起きるような……そんな胸騒ぎを感じて、奏へと詰め寄る。


「何を……しているの?」

「これが、みんなが助かる方法だよ…」

「そんなの聞いてない!! 奏、何を–––」

「私は!」


 叫ぶように言う。


「635実験の関兵唯一の成功例……って言っても分かんないよね。えっとね、とある人体実験を受けて、私は特異体質になったの。……でもそれは、人間を特殊能力者へ目覚めさせる代物じゃなくて、身体の一部の構造をエネミーと同一のものにして、エネミーの特殊個体に対抗しようとした、言わば人間兵器だったんだよ」


 重なる。全てが一致する。「第一資料室」で読んだ本に伏せ字で書かれたあの羅列。紛れもなく、奏の言葉と全てのピースが合わさる。


 言いながら奏は、赤く発行する身体を見下ろしてお腹の部分に手を当てる。


「私は今から……体内に秘められた魔力と実験の時に享受させられた術を使って、この異空間を顕現するエネミーを一時的に封印する。……安心してみのりん。術が効力を表したら、異空間が途切れて、元の場所に戻れるから」

「嫌だ、そんなの」

「ダメだよ、これをやらないと東京がなくなっちゃうから」

「奏を失ってまで私は住んでる場所を救いたいとは思わないよ!」

「……」


 力なさげに奏は首を振る。


「仕方ないんだよ。これが運命であり私の定め。……やっぱり、あいつは最初から分かっていたのかな…」

「奏!」

「さようなら、みのりん。またどこかで–––…」


 その時だ。


「おーちゃんッ!」


 実璃が叫んだ。


 彼女に確信はない、理屈では異なるだろう。だが、実璃の頭には目の前の少女が絶対に、自身が恋焦がれた如月響絆だと訴えかけていた。


「待ってよ、お願いだから。私を置いてかないで!」

「……」

「私のそばに、ずっといてよ–––!!」

「……っ」

「ずっと、ずっと、待ってたんだから!」

「―ッ!」


 寂しく見つめる彼女の心が–––決壊した。


 隠しておくはずだった。隠しておくべきだった。今になって、それが間違いだと気付かされて、奏の気持ちが散華する。


「…どうして、かなぁ」


 その声に、奏…いや、響絆の頬に涙を垂れる。


「嫌だよ、私だって実璃ともっともっと遊びたいよ。なんでこんな、あんなに苦労して掴んだ幸せを棒に振るわなきゃいけないの! せっかく、……せっかく、……やっと会えたのに」

「…私もだよ、ずっと、ずっと会いたかった」


 二人の目から涙が溢れる。発光が強くなり、響絆の体から強く光が溢れても構わず手を握り合う。


「本当はね、こんな自分見てほしくなかった。髪の色素も抜けて、身体も弱っちゃったっし………何よりこんな不気味な自分は嫌いだった。だから、……名前も変えたんだ」

「……ッ!」

「でも、やっぱり会えて良かった。……………それにやっと、呼ぶことができた。ありがとう、……みのりん」

「っ!……おーちゃん!」


 発光がさらに強くなる。それと同時に視界が覆われ、実璃の目が……閉じていき、意識が……消えていく。


「さようなら」


 最後に、そんな声が聞こえた気がした。

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