第二十四話 急な戦闘
「ち、どうなってるっすか!」
大太刀を振るい、智彩はエネミーを薙ぎ払う。神速にも勝る速さで寄ってくるエネミーの頭部と胴体を切り離し、再起不能な体へと変形させる。羽を広げ浮遊しながら迫るエネミーの両羽を斬り裂き、中心の石に大太刀を突き刺す。既に智彩の足元には、多くのエネミーの死体が積み重なっていた。
「いくらなんでも多すぎっすよ! おかしい! ここは、戦地じゃないっすよッ!」
智彩は焦燥に駆られる。それもそのはず、彼女が交戦する立地は後衛隊のテントのすぐそばだった。
数十分前、後方で控える医療班のところで戦闘に参加するための処置を施されている日影を迎えに行ってやろうと、関兵の待機所を抜け出し、後衛隊のテントの横を通りがった時に……無線が鳴った。
まだ草原にいるはずの部隊が被害を受けているという報告。
見かけたエネミーの息の根を止めて進んでいくと、海岸沿いを進行しているエネミーが何故か草原まで辿り着いていた。おまけにその数は多く関兵部隊の人数を軽く凌駕する。
「て、うざったいすね。てめえら!」
何度斬っても数の減りが悪い敵の多さに智彩は腹が立っていた。
しかしそれはエネミーも同様らしく、数分間戦い続ける割にちっともダメージを受けない智彩に嫌気がさしたのか、エネミーが一瞬攻撃の手を緩め、仲間と連携して羽を伸ばし空中へと飛行する。
「「「「ギュギュァ––––‼︎」」」」
一斉に智彩に飛び狩ろうとエネミーは加速する。あれを喰らえば流石の智彩もひとたまりも無い。
だが智彩は避ける素振りを見せず逆に足を踏み締め、大太刀に魔力を込めて刀先を上下に振るう。
「斬ッ!」
空気が裂かれ、先鋭な風の斬撃がエネミーを襲う。立場が襲う側から襲われる側に変化した事に気づくも既に遅く、風がエネミーの体に追いつくと、真っ二つに割れ紫色の血が飛び散った。
「ふう、学習能力のない奴らっすね。……別個体だから当然っちゃ当然っすけど」
他のエネミーは見当たらないので今斬り殺したので全てだったらしい。鼻がもげるような異臭が辺りに拡大するが、智彩の知ったことではなかった。
日影と合流しようと、駆け出そうとしたところで……智彩は上体を捻ってその場から飛び跳ねる。
すぐさま勢いよく突っ込んでくるエネミーが出現。
「野生の勘ってやつっすか。助かったっすよッ!」
キョロキョロと周りを展望するエネミーの上、自由落下しながら大太刀に魔力を注ぎ込むと、烈度を極限まで高めて落下スピードそのまま太刀を振り下ろす。
「斬ッ!」
空気が何重にも割れ、収束し一つの剣先となりエネミーを仕留める……と、
「ギギィ!」
少々時間が掛かりすぎたのか、何かを察知したように横に飛び跳ねるエネミー。智彩の刹那の一撃は、惜しくも草木漂う草原の一部へと衝撃を与えるのみ。
「ち、やるっすね」
ストン、と着地をする智彩。頭上から人間が降ってきた事実に、エネミーは構えを取る。
「なるほど、お前特殊個体っすね? 確か過去に、瞬間的に移動速度を上げる個体がいたって聞いたんすけど、お前で間違いなさそうっすね」
「ギギィ…」
エネミーは智彩にじっくりと間合いを詰めていく。智彩もそれを理解しながら、薄目で敵と視線を絡ませる。
「全く…集団行動が取れる個体といい、マジであんたら迷惑っすね。特殊個体とはいえ、アタシが負けたらまずいと思うんで、全力で行かせてもらうっすッ!」
「ギイッ!」
それが、再戦の合図だった。
智彩が大太刀を両手で持ち直し、エネミーへ一直線に近接。刀先に威力を込め、敵の腹部目掛けて太刀を横一閃に振る。だが敵はじっと止まったわけもなく、エネミーは凄まじい速撃で智彩との感覚を詰め寄り、速さそのまま体当たりを決行。強烈な衝撃が両者、残撃となって来襲する。
一瞬訪れる均衡……だがジリジリと平衡が決壊し、押し負けたのは智彩だった。
「ちッ!」
身を引いて現在位置から飛び跳ねる。智彩は攻撃に特化した関兵だが、拮抗した状況下では彼女の持ち味は発揮されづらい。
智彩の大太刀は、エネミーの胴体を斬り裂くのに特化し、多くのエネミーを薙ぎ払う言わば雑魚狩りでその真価を生み出す。こういった戦闘に慣れた特殊個体を相手にするには相性が悪かった。
―――技で決着つけられるなら良いっすけど、さっきみたいに避けられたら……
技を使えば体力の消耗は激しい。その上、当たらなければ確実に智彩は窮地に陥るだろう。
「…厄介っすね」
現状智彩がエネミーに取れる行動は、突進を避けて急加速した後の一瞬の隙を狙って技を叩き込む。消耗が酷いが、決まれば必ずエネミーを葬ることができる。
「ギギャーッ!」
棒立ちになる智彩に対して、エネミーが雄叫びを浴びせる。闘志を身体中に漲らせ、殺意を仕向けながら敵は脚部に力を溜めた。
爆発、エネミーが銃弾にも劣らない高速で突撃を開始。智彩の予想を数段上回る速さに数秒衝撃が走るも、彼女は自身の挙動を修正する。避けられない、と判断した智彩はエネミーの動作に調整するように身躯を右方向にずらして、大太刀を片手で縦方向に握る。
真っ直ぐ飛び込むエネミー、応じるように智彩も太刀に魔力を流し込み……、
激しく双方がぶつかり、金属同士が擦れ合うような振動音が反響する。しかし均衡は訪れず、即座に二つの影は擦れ違った。智彩が半身移動したことで、エネミーは智彩と僅かに掠り、獲物を見逃したまま静止。智彩は全身が弾けそうな衝撃に耐え、刀で突進を凌ぎきると、肩で息をしたままエネミーを見据えた。
現状、目標を逸した敵は右往左往して獲物を探すがその後ろ姿があまりにも隙だらけ。それを見逃す智彩ではない。
スッと智彩は無防備になったエネミーの背中に一瞬で躍り出ると、認識不可能な速度で大太刀を振るう。
「討ッ!」
漸く感知したエネミーだが時既に遅し。狙うは腹部、智彩は可憐な振り払いでエネミーを斬り割いた。
「ギギャ!?」
呆気ない幕切れ。腹を貫通し、本体部分である石を削り取られたエネミーはゆっくりと目を閉じていき、やがてぴくりとも動かなくなる。
「ふう、やったっす」
確実に息の根が止まってあるのを確認して、警戒心を解いてその場にドタっと座り込む智彩。疲れをもよおす彼女は、仲間のいるであろう方向に目を向けた。




