第十三話 智彩
シュン、と智彩の姿が掻き消えると、複数で固まるエネミーの頭上に跳ね飛ぶ。警戒した三体のエネミーが彼女を捕えようと羽を上下運動させ体当たりを決行する。
接触すれば敢えなく撃沈といった予想なのだろうが、読んでいたかの如く智彩は動きを変えず構えを静止。
「討ッ!」
大太刀とは思えない神速で振るわれる刀先。その力強い一振りが降りかかる三体のエネミーの腹部を鮮やかに振り払う。それら全てに本体部分の赤黒い石が削り切られていた。
とはいえ勢いよく突っ込むエネミーの速さは減速しない。生命の灯火がなくとも同じ要領で智彩に向かうエネミーだったが、全ての個体が智彩に触れる直前まで接近した時、自身を中心に智彩は大太刀を円形に回した。
「吹き飛べッ!」
刀身が認識不能な速力を上げ、エネミーの個体を風圧と推進力で弾き返す。ドンっという衝撃音と共に三体のエネミーが細切れになって壁に撃墜した。
「ギギ⁉︎」
「「「ギュギュァァァ––––‼︎」」」
焦ったかのように、残りの殆どが智彩を潰すため再度羽を広げ、彼女に向かう。だがそれも、智彩からすれば好都合な出来事だった。
「あれぇ、そっちから来てくれるんすか。なら、逆にありがたいっすね‼︎」
ニヤッと笑って物凄い速度で上から落下する智彩は、大太刀に魔力を込める。その数秒後、渾身の力で太刀を振り下ろす。
「斬ッ!」
空気が裂け、風が何百にも千切れ弾ける。十数体のエネミーが智彩に向かう参列を作っていたが、その全てが真っ二つに割れた。紫色の血が空中で一斉に吹き出し、花火のような荒々しい美しさが一瞬だけ広がるも、腐敗臭に消し揉まれる。
全エネミーの駆除。あれだけの脅威が僅か一分足らずで解消された。意識が混濁とした状態で莉央は夢を見ている気分だった。
ストン、と降り立つ智彩は最後まで地に這っていた一匹のエネミーを瞳に映す。場を上手に判断して、ボス的立ち位置であったであろう最後の奴も牙を尖らせ智彩を睨んだ。
「安心するっすよ。ただで殺すつもりはないんで」
「ギギ…」
声のトーンがやや下がった智彩に警戒心を強めるエネミー。逃げ出すつもりはないのか、横たわる莉央のちょうど手前で唸る。それを見た智彩は、薄く笑みをこぼした。
「第二部隊を助けるのが任務なんで、さっさと殺すつもりだったっすけど話が変わったっす。お前、特殊個体っすね」
数年前、突如として出現したエネミー。人類を蝕む害悪と成り果てたエネミーと人間は、長い間戦い続けている。しかし知能のないただの集合体である外生物に、こうも苦戦するだろうか。
答えは否。いかに人類の攻撃が通用しない、と言えども限度というものがある。同じ思考常習であれば、脳の発達した人類が現存する科学力を最大限発揮して、殺せなくとも確実に対策を投じるはずだ。
けれどそれは、毎回一定の期間で行き詰まる。その答えが智彩の目の前のエネミーだ。
「最初の頃は羽なんて生えてなかった。炎も吐かない、対応しずらい害虫。変わったのはいつからっすかね?」
手で掴む大太刀をギュッと握り、威圧する風貌を見せる智彩。口では能天気口調だが、その目は一ミリたりとも笑っていない。
「お前は今ここで殺して、集団疎通ができる個体はここで終わりにするっす。半殺しにして本部まで連れてくから、覚悟するっすねッ!!」
智彩は台詞を吐き捨て、自身が出せる最高速度でエネミーに迫る。風が吹き荒れ、一秒足らずで目標の目前まで移動した智彩はもちろん大太刀が常備される。
「ギギ!?」
「–––遅い!」
思わず駆け出そうとするエネミーに対し、智彩の刀先は既に外側の粘膜を貫通していた。
「討ッ!」
シュン、という微かな風切り音と共に、背中を向けたエネミーの風体が崩れ落ちる。悲鳴すら上げられず目の光が沈んでいくエネミーの中心には、智彩の大太刀が貫かれ、石が半分に砕かれていた。
ドタっと地べたに腰を下ろし、ゆっくりと息を吐く智彩はそこでようやくため息をついた。
「ふう、疲れったっす。最初の頃だったら苦労したかもしれないっすね。日影と分かれたの、失敗だったかもしれないっす」
「…っ」
「って、忘れた」
何かを痛がる声。救援の任務に当たっていた事を思い出し、智彩は倒れ伏せる隊員の方に向かう。
全身から血が溢れる第二部隊隊員の莉央。智彩は首筋に手をやり、脈があることを確認して、声をかける。
「意識あるっすか?」
「…なん、とか」
「なら良かったすよ。死んでたら目覚めが悪いっすから。とりあえず、他の隊員のところまで–––」
「ねえ、」
遮られると思ってなかったのか少々びっくりする智彩。「喋ると傷に響くっすよ」と警告するが、一方的に莉央は話を続ける。
「貴方の刀さばき、凄いわね」
「ハハ、そりゃどうも–––」
「でも、そんな闘い方をしていたら、いつか壊れてしまうわよ…」
そう言って、莉央は眠りについた。防具には応急治癒の効果もある、このまま医療班の場所まで連れて行けば、命に別状はないだろう。
だが、智彩が気にしてるのはそんなことではなかった。
「助けられた分際で…何を、言ってるすか」
俯き、一人不動のまま紛らわすように言葉を重ねる。
「……分かってるっすよ、んなこと。でも、今のアタシ、アタシ達にはこれしかないっすっから。……それに、こうでもしないと…」
生きられない。
そうやって、自嘲気味に立ち尽くしていた。




