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忘却の魔王と百日の夜  作者: 芍薬
1月目
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18/22

第17話「贅沢な日々」

 温められた飴がとろりと引き伸ばされた。

 きらきらと光を反射してとても綺麗だ。

 見惚(みと)れているとハルフィナが可笑しそうに笑った。


「さわってみる?」


 恐る恐る手をのばして触れてみた飴はほんのり温かく、甘い匂いがする。

 それを胸いっぱいに吸い込んだわたしは、うきうきと心を踊らせた。

 いつか誘われた飴細工。

 誘われたときはやりたいと言えなくて、でもずっと気になっていた。

 フィーの休みに合わせて待ち合わせした二人は、厨房の近くの部屋を借りて飴細工に挑んでいた。


 フィー指示のもと、練った飴を手だけで成形していく。

 植物から作ったという紅色の粉を一つまみ混ぜたそれは、ほんのりピンク色をしていた。


 甘いものは好きだ。

 滅多に口にできない贅沢なもの。

 口にすると幸せな気分になる。


 甘いものが手に入る度、争奪戦を繰り広げていたことを思い出した。

 争う相手もなく、 好きなだけ食べ物を口にできる環境にある今。

 魔王は城から出なければ、衣食住を保証してくれると言う。

 なんという贅沢、こんな未来は想像すらしていなかった。


 夢中で飴をムニムニしていると、気がついたら不格好な花だらけになっていた。

 飴を冷やす間、これをどうするか考えた。一人で食べるには流石に多い。


 ふと思い付いて、フィーの袖を引く。


「なぁに?」


 こちらを向いたフィーの掌に、リィは一番大きな花を置いた。


「あげる」


 一瞬、瞠目としたフィーにいきなり抱き締められた。

 ぎゅうぎゅうと胸に押し付けられて、リィが目を白黒させていると「大事に食べるね」とフィーが笑う。

 その顔がとても綺麗だったので、印象に残った。


 お返し、とフィーが作った綺麗な花を貰う。

 フィーが飴を数個ずつ纏めて包装してくれる。

 紙袋にたくさんになってしまった飴をどうするか思案しつつ、フィーと別れて歩いていると、執務室に辿り着いた。


 重厚な造りの扉を開くと、正面の机で書き物をしていたヴァルが顔を上げた。

 特に何も言われなかったので、定位置となった窓際のソファへ向かう。

 このソファは、座ると実にしっくりするソファなのだ。

 固すぎず、柔らかすぎず、昼寝をするのに丁度よい。


 紙袋を置こうとして思いつき、ヴァルの机の方へ歩み寄った。

 包みを一つ取り出して机に置く。

 魔王はペンを置いてそれに手を伸ばした。長い指先で摘まみ上げる。


「これは何だ」

「飴。作ったからあげる」


 渡したことで満足したリィはソファに戻った。

 ヴァルはガサガサと包みを開き、中の飴を取り出した。

 花の形のそれをしげしげと眺め、口に放り込む。

 ややして、「……甘いな」という呟きが部屋に落ちた。


 それを聞きながら彼女は、ソファに身を沈めた。

 紙に文字を書き付ける、さらさらという音に耳を傾けながら目を閉じる。

 睡魔はすぐに訪れた。

 そのまま夕飯の時間に起こされるまで、ぬるまゆい眠りに身を委ねたのだった。


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