第17話「贅沢な日々」
温められた飴がとろりと引き伸ばされた。
きらきらと光を反射してとても綺麗だ。
見惚れているとハルフィナが可笑しそうに笑った。
「さわってみる?」
恐る恐る手をのばして触れてみた飴はほんのり温かく、甘い匂いがする。
それを胸いっぱいに吸い込んだわたしは、うきうきと心を踊らせた。
いつか誘われた飴細工。
誘われたときはやりたいと言えなくて、でもずっと気になっていた。
フィーの休みに合わせて待ち合わせした二人は、厨房の近くの部屋を借りて飴細工に挑んでいた。
フィー指示のもと、練った飴を手だけで成形していく。
植物から作ったという紅色の粉を一つまみ混ぜたそれは、ほんのりピンク色をしていた。
甘いものは好きだ。
滅多に口にできない贅沢なもの。
口にすると幸せな気分になる。
甘いものが手に入る度、争奪戦を繰り広げていたことを思い出した。
争う相手もなく、 好きなだけ食べ物を口にできる環境にある今。
魔王は城から出なければ、衣食住を保証してくれると言う。
なんという贅沢、こんな未来は想像すらしていなかった。
夢中で飴をムニムニしていると、気がついたら不格好な花だらけになっていた。
飴を冷やす間、これをどうするか考えた。一人で食べるには流石に多い。
ふと思い付いて、フィーの袖を引く。
「なぁに?」
こちらを向いたフィーの掌に、リィは一番大きな花を置いた。
「あげる」
一瞬、瞠目としたフィーにいきなり抱き締められた。
ぎゅうぎゅうと胸に押し付けられて、リィが目を白黒させていると「大事に食べるね」とフィーが笑う。
その顔がとても綺麗だったので、印象に残った。
お返し、とフィーが作った綺麗な花を貰う。
フィーが飴を数個ずつ纏めて包装してくれる。
紙袋にたくさんになってしまった飴をどうするか思案しつつ、フィーと別れて歩いていると、執務室に辿り着いた。
重厚な造りの扉を開くと、正面の机で書き物をしていたヴァルが顔を上げた。
特に何も言われなかったので、定位置となった窓際のソファへ向かう。
このソファは、座ると実にしっくりするソファなのだ。
固すぎず、柔らかすぎず、昼寝をするのに丁度よい。
紙袋を置こうとして思いつき、ヴァルの机の方へ歩み寄った。
包みを一つ取り出して机に置く。
魔王はペンを置いてそれに手を伸ばした。長い指先で摘まみ上げる。
「これは何だ」
「飴。作ったからあげる」
渡したことで満足したリィはソファに戻った。
ヴァルはガサガサと包みを開き、中の飴を取り出した。
花の形のそれをしげしげと眺め、口に放り込む。
ややして、「……甘いな」という呟きが部屋に落ちた。
それを聞きながら彼女は、ソファに身を沈めた。
紙に文字を書き付ける、さらさらという音に耳を傾けながら目を閉じる。
睡魔はすぐに訪れた。
そのまま夕飯の時間に起こされるまで、ぬるまゆい眠りに身を委ねたのだった。




