第16話「約束」
「べつに構わんが」
なんだそんなことかと言わんばかりの表情で魔王は言った。
対するリィの方が困惑してしまう。
今日も今日とて執務室にお邪魔しているリィである。
そろそろ行くところもなく、少々退屈していた。
それで、つい頼んでしまったのだ。「外に行きたい」と。
断られるつもりで口にしたのに、返ってきたのは思いがけず承認の台詞であった。
思わずまじまじと見つめれば、ヴァルはごく冷静に反応する。
「あまり長く城を空けられぬが、数時間なら構わない」
「……え」
どういうことだとリィは首を捻る。
思い出したのは、魔力の供給の件であまり離れることができないという彼との関係だ。
つまりそれは。
「行きたい場所があれば検討しておけばいい」
あまりにもあっさりと通った要求についてリィが考えている間に、ヴァルの視線は書類に戻る。
ごく当然のように一緒に行く体で話が進んだ。予想外の展開だ。
べつに、城にこもらなくてはいけないというものでもないらしい。
……あの時は出られないと言ったくせに。
拍子抜けしてしまい、行きたいところと言われてもあまり浮かばない。
リィが暮らしていた町は、特に会いたい人もいないし、戻る理由が思いつかない。
そもそも、あの町とこの城がどれだけ離れているのかがわからない。数時間で戻れるような所なのだろうか。
こうして思い返してみると、自分の薄情さに驚く。
一応あの町は物心ついてからずっと暮らした町なのに、戻りたいとは思えないのだ。
うんうん唸って行きたいところを考える。
本末転倒な気もするが、細かいことは気にしないことにする。
考えるうち、ふと思い出したことがある。
リィの住んでいた町からは遠く、人里離れた場所に、冬の間だけ咲くという花の花畑があるのだとか。
雪深い山奥にあるので、辿り着くまでの道程が果てしないらしい。
雪景色に広がる花畑は大層美しいというが、苦労してまで見に行こうという者はあまりいないらしい。
どうせ行くなら、そういうところがいい。
とはいえ、その花畑がこの城から近いのか遠いのかさえリィにはわからない。
後でヴァルに聞いてみようと思い、ひとまずリィはもう少し考えてみることにしたのだった。




