第15話「愚かさの行方は」
「こんなところにいったい何のご用で?」
背後から急に声をかけられてリィは飛び上がった。
最近どうもこういう展開が多い。
そんなに小心者ではないと思うのだけど……。
後ろに佇んでいたのは、魔王の側近の青年であった。
思ったより距離が近くなかったので、胸を撫で下ろす。
彼はいったい何という名前だっただろうか。
度忘れして、彼女は眉間にシワを寄せる。
たしか短い名前だったような気がするのだが。
「ジェンティーノ、だ」
「ジェン」
そうだった。そんな名前だった。
納得したリィは、はたと気づく。
(口に出していた?)
胡論な眼差しを向ければ、ジェンは内心の見えない顔で笑う。
「顔に出てるからね」
くつくつと笑われてリィは気分を悪くする。
相変わらず食えない男だ。
「それで、リルファーリア。ここにはいったい何の用で? ここは君が来るには不向きだと思うよ」
笑いを納めたジェンは真顔になった。
リィも真顔だ。
この場所がどこかは知っている。
魔王の側近たちの待機室だ。
リィだって用もなくこんな場所を訪れたりはしない。
「話がしたい」
「俺と?」
隠しもしない上がった語尾が、彼の疑問を示している。
リィは目前の男を真っ直ぐに見つめた。
視線がまともにぶつかった。
「あなたと」
ジェンの眼差しが微かにうろんな色を宿した。
沈黙を無言の承諾と心得て、リィは話を進める。
「教えて欲しい。この城のこと」
「何故」
「何故でも」
たった百日。
無理矢理連れてこられたこの城で、何も知らないままにいるのは、きっと容易い。
おしまいの日を、まだ彼女は想像できないけれど、何もせずには終わりたくないと思った。
百日生きることは、リィに強いられた義務であるけれど、ただ死を待つばかりなのはもう十分だ。
だから、情報が欲しい。
幾人かできた知り合いの中で、彼の顔が浮かんだのは何故だろう。
無下にはされない気がした。
ふと、ジェンが嘆息する。
「正直、そう言われるとは思わなかったかな」
そんな期待はしていなかったと聞こえた。
わかっている。
期待されるような立場じゃないことも。
魔王の部下にとって、自分が疎ましい存在であることも。
だからといって、彼女が何もしない理由にはならない。
愚かなままで過ごすも同じ百日なら、せめて思うままに生きたい。
睨み付けていると、ジェンがもうひとつ溜め息をついた。
「柄じゃないんだけどね」
その言葉の意味もわからないほど、愚かではないと思った。




