表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忘却の魔王と百日の夜  作者: 芍薬
1月目
PR
16/22

第15話「愚かさの行方は」

「こんなところにいったい何のご用で?」


 背後から急に声をかけられてリィは飛び上がった。

 最近どうもこういう展開が多い。

 そんなに小心者ではないと思うのだけど……。

 後ろに佇んでいたのは、魔王の側近の青年であった。

 思ったより距離が近くなかったので、胸を撫で下ろす。


 彼はいったい何という名前だっただろうか。

 度忘れして、彼女は眉間にシワを寄せる。

 たしか短い名前だったような気がするのだが。


「ジェンティーノ、だ」

「ジェン」


 そうだった。そんな名前だった。

 納得したリィは、はたと気づく。

(口に出していた?)

 胡論な眼差しを向ければ、ジェンは内心の見えない顔で笑う。


「顔に出てるからね」


 くつくつと笑われてリィは気分を悪くする。

 相変わらず食えない男だ。


「それで、リルファーリア。ここにはいったい何の用で? ここは君が来るには不向きだと思うよ」


 笑いを納めたジェンは真顔になった。

 リィも真顔だ。

 この場所がどこかは知っている。

 魔王の側近たちの待機室だ。

 リィだって用もなくこんな場所を訪れたりはしない。


「話がしたい」

「俺と?」


 隠しもしない上がった語尾が、彼の疑問を示している。

 リィは目前の男を真っ直ぐに見つめた。

 視線がまともにぶつかった。


「あなたと」


 ジェンの眼差しが微かにうろんな色を宿した。

 沈黙を無言の承諾と心得て、リィは話を進める。


「教えて欲しい。この城のこと」

「何故」

「何故でも」


 たった百日。

 無理矢理連れてこられたこの城で、何も知らないままにいるのは、きっと容易い。

  おしまいの日を、まだ彼女は想像できないけれど、何もせずには終わりたくないと思った。


 百日生きることは、リィに強いられた義務であるけれど、ただ死を待つばかりなのはもう十分だ。

 だから、情報が欲しい。

 幾人かできた知り合いの中で、彼の顔が浮かんだのは何故だろう。

 無下にはされない気がした。


 ふと、ジェンが嘆息する。


「正直、そう言われるとは思わなかったかな」


 そんな期待はしていなかったと聞こえた。

 わかっている。

 期待されるような立場じゃないことも。

 魔王の部下にとって、自分が疎ましい存在であることも。


 だからといって、彼女が何もしない理由にはならない。

 愚かなままで過ごすも同じ百日なら、せめて思うままに生きたい。


 睨み付けていると、ジェンがもうひとつ溜め息をついた。


「柄じゃないんだけどね」


 その言葉の意味もわからないほど、愚かではないと思った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ