第14話「言葉にできない」
城の中の散歩が日常になってきた。他にすることがないとも言う。
あてもなく歩いていれば、いい匂いがする方に寄っていってしまうのは当然のことと言える。
またしても食べ物の匂いにつられて厨房に辿り着いたリィである。
べつに食い意地が張ってる訳じゃない。
自分自身にそう言い訳してみたが、なんだか空しい。
そっと扉に手をかけ、ゆっくりと開いていく。
ふわっと香る匂いにひかれて覗きこめば、熱気が顔吹きつけてきた。
部屋の中は外の静寂からは想像できないほど騒々しく、慌ただしくひとが行き交っている。
「忙しさ」を絵にかいたらこんな感じかな……。
圧倒されてリィは思う。
この前来たときはもう少し穏やかだった気がしたのだが……気のせいだったかもしれない。
誰も空いた扉のことになど気がついていない様子だったので、するするパタンと扉を閉じた。
ふう、と息をついたところで両肩に手が載った。
「……っ!」
驚いて振り返ると、 リィの反応に驚いたような顔のハルフィナが立っていた。
「驚かせちゃった?」
少しばつが悪そうに挨拶する姿を見て、肩の力が抜ける。
……一瞬、彼かと思った。
冷静に考えてそんなわけないが。彼がリィの肩を叩いて声をかけることなど、恐らくない。
穴から覗く赤色の瞳を思い出していると、ハルフィナがにこっと笑った。
「ちょうどよかった。いいもの持ってるの」
彼女は小脇に抱えていた荷物を下ろした。
中から出てきたものを見て、リィはフィーを見た。
それは個分けに包装された小さなものだった。
これはなんだろうとリィが訝っていると、フィーがひとつ取って包装をむいて見せる。
柔らかな桃色のそれを見て、リィは首を傾げる。
これは一体何だろう。
「はい、あーん」
口を開けるように促され、驚いたリィはまじまじとフィーを見る。
「べつに変なものとか入ってないから」
苦笑するフィーと、その指に摘ままれた花の形を象ったものとをしばし見比べ、リィはぱくりとそれを食べた。
「甘い……」
口の中で転がり甘さが広がる。
食べてみてわかった。これは飴だ。
「ふふ。いいでしょ、飴細工よ」
「飴細工」
飴と言えばリィは、大衆的な菓子屋で売られる棒にさしたぐるぐる巻きのものしか知らない。
あれがどうやったら花の形になるのか、全く想像がつかない。
考え込むリィを微笑ましげに眺め、フィーが提案した。
「今度やってみる?」
今度。リィはきょとんとした。
フィーを見つめるも、冗談を言っている顔ではない。
「教えてあげる」
リィは逡巡した。
興味は、ある。
素直に頷くことができずにいると、くしゃりと頭を撫でられた。
「べつに今決めなくてもいいよ。その気になったら教えて」
彼女は笑うけれど、リィは少しだけ申し訳ない思いを抱くのだった。




