第12話「手に入れたもの」
昨日更新の前に寝落ちました……
次は今日の午後3時ころ更新予定。
名前はハルフィナというらしい。
「フィーでいいよ。みんなそう呼ぶ」
けろりと彼女は言った。
リィは赤くなった鼻の頭を氷のうで冷やしながら、彼女の自己紹介を聞いていた。
何でこんなことになっているのだろう。
「厨房の見習い4年目なの。まだまだひよっこだよぅ」
彼女の笑顔が眩しくて、リィはそっと目をそらす。
彼女は明るくて朗らかで、綺麗だ。相容れない。
「ハルフィナ! 遊んでないで仕事しろ」
通りすがりの男性に声をかけられる。
フィーの同僚らしい。
ここは厨房だった。
リィは部屋の隅っこにある酒樽のひとつの上に座らされており、少し離れたところで大勢の者が立ち働いている。
誰もリィに見向きもしない。空気のような扱いとはまさにこの事だ。
「すぐに行きますよ」
「また変なもの拾ってきて……」
同僚の目がリィに向く。その眼差しは決して好意的とは言えない。
リィは少し安心した。この反応が正常だ。
不意に抱き寄せられてリィは目を白黒させた。
にやりと笑ったフィーがリィの頭をかいぐる。
「いいでしょう。あげませんよ」
「いるか」
ぐりぐりとかいぐりされたリィは、髪の毛がボサボサになった頃に解放された。
「ごめんねぇ、あんまり構ってあげられなくて。今忙しいの」
申し訳なさそうにフィーが言う。
構ってくれなくてよいとリィは思った。
「これでも食べて。お詫び」
「!?」
差し出されたものにリィの視線は釘付けになった。
透明なガラスの皿に盛られた焼き菓子の山。
焼きたてなのだろう、仄かに甘い匂いが漂っていた。
間違いない、廊下でかいだあの匂いだ。
「どうぞ。私が作ったんじゃないけどねぇ」
勧められてごくりと息を飲む。
これ全部? 食べてもよいのだろうか……。
窺うと、フィーは変わらず笑顔だった。
恐る恐る手をのばし、掴んだそれをぱくりと食べる。
美味しかった。
ぱくぱくと食べるリィを微笑ましげにフィーは眺めていた。
最後には土産までもらい、リィはほくほくと厨房を後にした。
扉を閉めて、ハッと我に帰る。
こんなことをしたかったわけではない。
しかし焼き菓子の誘惑の前には、全てどうでもよくなってしまうのは、事実。
また来てね、という彼女の言葉と、お腹が満たされた幸せとがじんわりとリィの中に沁みこんだ。




