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第二話 違法競売の幼獣③

 ほとんど同時に、三人の警備員が仕切りを抜けてきた。銃口が上がるのを見て、アリステラは床へ置いていた槍を拾う。


 一人目が引き金へ指をかけるより早く、アリステラは銃口を外へ逸らした。ルーメンで手首だけを弾き、その射線を二人目へ重ねる。


 反射的に身を引いた男の胸元へ、伸ばした槍の柄を打ち込む。男が息を詰まらせて身体を折った。その間に三人目が狙いを定めたが、槍はすでに縮んでいる。アリステラが石突で手首を打つと、銃だけが床を滑った。


 最初の男が立て直すより早く、アリステラは槍から手を離した。黒銀の柄を空中で半回転させ、膝裏を払う。倒れかけた身体をルーメンで受け止め、床へぶつかる寸前で勢いを殺した。


 戻ってきた柄を掴んだときには、三人とも動けなくなっていた。だが、騒ぎを起こしてしまうには十分で、途端に競売場の方が騒がしくなる。


 仕切りを出ると、ザハードがこちらを見た。目が合った瞬間、彼は端末をしまい、業務用通路へと逃げ出した。


 二十六メートル。まだ追える。


 アリステラが一歩踏み出したところで、足元から低い振動が伝わった。壁の表示が《離岸開始》へ切り替わる。船の奥で低い唸りが響き、貨物区画の灯りが点滅し始めた。


 ザハードが通路の奥へ消えていった。追えば間に合うが、アリステラの足はそちらへ向かなかった。


 槍の石突を床へ落とし、ルーメンを船内へ広げる。競売場では、十を超える銃口がこちらを向いていた。


 アリステラは警備員たちの足元にある固定具を跳ね上げた。数人の足へ絡ませ、右から上がった銃口を天井へ逸らす。左側の二人は、互いの射線へ押し込んだ。


 その間を歩き、槍を横へ振る。自動照準器へ伸びていた線が切れ、天井の赤い光が一斉に消えた。続けて、接岸を外すための操作盤をルーメンで持ち上げ、そのまま床へ落とす。


 《離岸開始》の表示が消えた。船体が低く軋む。


 発砲音が響いた。


 アリステラは光弾の軌道を逸らし、壁へ流す。そのまま槍を縮め、一人の肩を打った。返した石突で二人目の膝を払う。別の男が持ち上げた銃はルーメンで奪い、天井へ押しつけた。


 あとは長くかからなかった。


 十数秒後、立っている警備員はいなかった。


 競売場が静まり返る。やがて買い手の一人が接続架へ向かって走り出し、それをきっかけに客席が崩れるように動き出した。


 アリステラは彼らを追わなかった。ただ中央端末へ向かい、入場記録、落札履歴、支払いの記録、船内の監視映像をまとめて複製する。先ほどの上級監査官も、人混みに紛れて接続架の向こうへ消えていた。だが、顔も身分も取引記録もアリステラの手の内に残っている。


 ザハードも、既に小型の作業艇で別の発進口から逃げたようだ。船内の記録には航跡が残っている。


 アリステラは残った運営者と警備員に拘束環をつけ、地方保安局と保全機構へ位置情報を送った。


 その途中、競売人の端末に残っていた輸送記録へ目が止まる。


 軍用だ。


 戦時中に使われていた識別コードが、いくつもの生体輸送記録に残っている。その中には、すでに使われていない連合軍の補給航路を示すものもあった。


「……まあ、いいか」


 アリステラは記録を自分の端末へ移し、生き物のいる区画へ戻った。


 保全機構が到着するまで、あと十八分。


 槍の刃を収め柄を縮めると、黒銀の金属片が順に外れて一枚ずつ腰帯と外套へ戻り、最後の一枚が胸元へ収まっていった。

 

 そこで、ふと、外套の裾が小さく引かれた。


 アリステラは視線を落とした。


 足元に、あの幼獣がいた。

 

 いつ檻から出てきたのか分からないが、その幼い鳥のような生き物は長い尾羽を床へ引きずっている。その前脚の爪を外套の裾へ引っかけ、アリステラにくっついていた。


「何してるの」

「きゅ」


 アリステラが外套を少し引くと、幼獣も一緒に浮かんだ。


「離して」

「きゅい!」


 もう一度引こうとして、やめた。ただでさえ痛々しい身体が目に付いてしまう。


 大きな青紫の瞳が、じっとアリステラを見上げている。頭の横に垂れた長い羽がわずかに揺れた。


 ザハードは逃げた。依頼された個体は確保したし、船に残された生き物たちも保全機構へ渡せる。


 あとは待てばいい。そう考えて、アリステラは短く息を吐いた。


「……保全機構が来るまでよ」


 幼獣は、しばらくアリステラの外套を離さなかった。


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