第一話 賞金稼ぎの魔王③
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聴取から解放された頃には、街の人工夜明けが始まっていた。
エディア第四居住区に本物の朝日は差さない。採掘坑の天井へ埋め込まれた照明が三十分かけて橙から白へ変わり、人々はそれを朝と呼ぶ。酒場の看板が一つずつ消え、代わりに夜勤の作業員と朝番の運送業者が通りへ出てくる。
終戦から数か月経った今も、街には戦争の払い下げ品が溢れていた。旧帝政圏の防寒外套を着た荷役人、連合軍払い下げの輸送車、部隊章だけを剥がした装甲ケース。誰がどちら側だったのかなど、もう見ただけでは分からない。
アリステラは人混みの外縁を歩き、歓楽街の奥にある古い通信所へ向かった。戦前には長距離貨物船の運航情報を扱っていた建物だ。今は一階に中古部品商、二階に小口金融業者、その上には屋号のない事務所がいくつも入っている。
三階の突き当たりに、仲介人クェンがこの星で使っている仕事場があった。いくつか持っている拠点の一つで扉に看板はない。古びた認証盤の横に、《用があるなら三回叩け》と手書きの札だけが貼られていた。
アリステラは二回叩いた。
返事はない。
もう二回叩くと、中で何かが動く気配がした。
「――おい。三回って書いてあるだろ」
扉越しに低い男の声がする。
「開けて」
「そういうところだぞ、あんた」
ロックが外れた。
部屋の中は、外から見た印象より狭かった。壁際に通信端末が並び、複数星系の保安情報、求人、航路警報、民間依頼が窓状の画面となって浮いている。
机の向こうにいたクェンは細身の男で、左目に旧式の視覚補助端末をつけていた。
賞金首、捜索、回収、護衛。正規の機関が出した公示案件から表立って扱うには面倒な仕事、ほの暗い依頼までをも拾い集め、適当な人間へ流して依頼料と手数料を取る。クェンは、アリステラがここ数か月使っている仲介人た。アリステラにとっては、仕事を持ってきてくれて、報酬を取りっぱぐれなければそれでよかった。
「終わった」
アリステラが端末を机へ置くと、クェンは椅子を回し、送られてきていた記録を開いた。
「ヴォルシュ確保、生存。同行者十三人も拘束。兵器倉庫は押収……壁面損壊?」
「一枚だけ」
「一枚って規模じゃないだろ、これ」
記録映像を見たらしい。
「通れたからいい」
「扉って知ってるか?」
「知ってる」
「次から使え」
「考えておく」
「使え。っていうか、この手の請求、一回こっちに照会が来るの知ってるだろ」
クェンは額を揉みながら画面を送っていたが、途中で手を止めた。
「第七補給艦隊?」
「火器の識別層に残ってた」
「保安局にも渡したか?」
「うん」
クェンの口元から笑いが消える。終戦間際に消えた軍の物資が、こんな場所まで流れている。単なる賞金首の捕獲では終わらないだろう。
「追加報奨が出るかもしれない。こっちから請求を通しておく」
「いくら?」
「そういうところだけ反応が早いな」
アリステラは黙って待った。
「基本報酬は満額。生存加算あり。壁は……保安局の報告を見る限り、依頼主側で処理される」
「よかった」
「少しは反省しろ」
「次は入口から入るね」
「頼むからそうしてくれ」
報酬の振込通知が端末へ届いた。金額を確認すれば、これで今日の用事は終わりだ。
「もう一件ある」
扉へ向きかけたアリステラは、足を止めた。
「報酬は?」
「安いぞ」
そのまま踵を返して歩き出す。
「じゃあ、いい」
「待て待て。せめて最後まで聞け」
認証盤へ伸ばした手を止め、アリステラは振り返った。
「安いんでしょ」
「安いし、面倒で、おまけに今のところ誰も受けたがらない」
「もっと嫌」
クェンはしばらくアリステラを眺め、それから机上の端末を操作した。
「ただし、星獣が絡んでるかもしれない」




