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第一話 賞金稼ぎの魔王②

 ヴォルシュは彼女の沈黙を迷いと受け取ったらしく、縋るように言葉を重ねた。


「な、なあ、分かるだろ? 俺はただ流してるだけだ。作ったのは俺じゃない。戦争で余ったもんを欲しい奴に渡してる、それだけだ。誰だってやってる。こんな辺境じゃ特にそう。俺一人捕まえたって、何も変わらねえよ」


 アリステラは視線だけを倉庫の奥へ移す。


 その瞬間、右側の荷役通路から銃声が弾けた。


 アリステラの身体は音を聞いた瞬間に動いていた。半歩ずれ、肩口を狙った光弾を外す。背後の鋼板へ白い光が爆ぜるのとほぼ同時に、床へ落ちていた輸送用固定具が跳ね上がると、発砲した男の手首へ巻きついた。その銃が宙へ飛ぶ。


「走れ!」


 誰かが叫び、倉庫の奥で足音が一斉に散った。三人が別々の方向へ逃げ、一人は非常扉へ、二人は上階の通路へ向かう。ヴォルシュもその隙に身体を起こして逃げ出そうとしていた。


 アリステラは短く息を吐いた。


 非常扉まで十七メートル。


 上階への階段まで九。ヴォルシュは右脚を痛めている。最速で五秒。


 先に、上。


 アリステラが右手を振ると、貨物を固定する鎖が床から浮いた。それに力を込め、上階へ向かっていた二人の足元を払い、一人を転倒させる。壁際へ逃れたもう一人には積まれていた空の輸送箱を横へ滑らせて退路を塞いだ。足が止まった瞬間ルーメンが肩を押し、男は床へ倒れ込んだ。非常扉へ向かった男は、あと三歩というところで制御盤へ手を伸ばしていた。アリステラは床の拳銃を蹴り上げ、空中で掴む。


 一発。


 弾丸は男ではなく制御盤の直上を撃ち抜いた。火花が散り、解錠表示が消滅する。


「次は手に当てる」


 男は切れるような息を呑み込み、その場で打ち抜かれた手元を見てから気絶した。


 ヴォルシュはというと、破壊された壁の穴へ向かっていた。アリステラは銃を下ろしたまま、そちらを見る。


「うおぁっ!」


 ヴォルシュの足が床から離れた。身体が宙へ持ち上がり、そのまま後方へ引き戻される。床すれすれまで降ろされたあと、床を横へ滑り、ヴォルシュは先ほど自分が壊した輸送箱の前へと戻された。


「話してる途中だったのに」

「は、話してねぇだろ!」


 倉庫の別方向からさらに二人が飛び出した。片方は軍用短銃、もう一人は衝撃棒を持っている。


 銃口が上がる。


 アリステラは男の手首へルーメンをかけ射線を天井へ逸らした。同時に踏み込み、振り下ろされた衝撃棒の内側へ入る。肘を取り、重心だけを崩すと、男は勢いのまま床を滑り、積荷へ衝突した。


 残った男が再び銃を構える。


 アリステラは振り返らず、片手だけを後ろへ伸ばした。


 短銃が男の手から抜け、その掌へ飛び込む。そして倉庫は静かになった。


「ば、化け物だ……」


 誰かが呟いた。


 アリステラは奪った銃の安全装置をかけ、床へ置いた。


「あと六人」


 ヴォルシュが顔を引きつらせる。


「……まだやるのかよ」

「あなたたちが出てくるなら」


 その後は早かった。

 地下搬入口から逃げようとした二人を荷役リフトごと止め、資材棚の裏に潜んでいた者を熱源表示で見つける。残る者たちが武器を捨てるまで、三分もかからなかった。


 十四人。依頼資料と一致する。


 アリステラは端末で熱源をもう一度確認し、余分な反応がないことを確かめてから、腰のポーチから薄い金属輪を取り出した。


 床へ落とした輪は二本の金属帯へ分かれ、ヴォルシュの両手首へ巻きついた。ヴォルシュが反射的に振りほどこうとした瞬間、内部材が硬化して両腕を一定の距離で固定する。


「おい、何だこれ! 外せ!」


 拘束環の表面に緑色の表示が走った。脈拍、血流、圧迫状態、固定状態。すべて正常。


「保安局規格の可変拘束環。暴れると締まるよ」


 ヴォルシュの動きが止まった。


「……さっ、先に言えよ」

「今言った」


 残りの者たちにも同じ処置を施す。何人かは抵抗したが、拘束環に締め付けられてすぐに諦めた。


「手慣れてんな」


 ヴォルシュが吐き捨てるように呟いたが、アリステラは答えなかった。代わりに床へ転がる銃を一丁拾い、端末を近づける。削られた製造番号とは別に、内部に残っていた識別情報が読み出された。連合軍第七補給艦隊。終戦直前に消息を絶った輸送船団の名。報奨金よりこちらの方が面倒になりそうだ。


 さらに倉庫の奥へ目を向ける。


「そこ、何」


 ヴォルシュの顔が強張った。


「何もねえ」

「開けて」

「嫌だね……って、あ! おい!」


 ルーメンで遮蔽布を捲る。その向こうには小型艇用の誘導爆弾が規則正しく並んでいた。

 

 倉庫に沈黙が落ち、アリステラは誘導弾からヴォルシュへ視線を戻した。


「断った意味、あった?」

「……お前、性格悪いな」


 遠くでサイレンが近づいてきた。ヴォルシュがぎょっと顔を上げる。


「保安局、いつ呼んだんだよ、クソ!」

「私はくそじゃない。十五分前よ」

「は?」

「倉庫に入る前」


 今度こそ救いのない表情が浮かんだ。


「じゃあ最初から逃げ道なかったじゃねえか」

「そうだね」

「だったら何でこんな大暴れしたんだよ!」


 アリステラは壊れた壁を見た。


「だってあなたが逃げたから」

「最初に壁ごと俺を飛ばしたの誰だよ!」


 それについては少し考えたが、答える必要はなさそうだった。


 地方保安局の車両が倉庫前へ滑り込んだのは、それから十分も経たないうちだった。倉庫の搬入口が開き、武装した局員たちが突入してくる。先頭の男は十四人の拘束者、壊れた壁、床に散らばった軍用銃、奥の誘導爆弾を順番に眺め、最後にアリステラを見た。


「……ずいぶん派手にやったな」

「全員生きてるわ。依頼は完遂した」

「そういう問題でもないんだが」


 局員はヴォルシュの拘束環へ端末を触れさせた。認証が移管され、表示が保安局の緑色へ変わる。それを見届けてから、アリステラは賞金端末に引き渡し記録を残した。


《対象確認》

《ダグ・ヴォルシュ/生存》

《引き渡し完了/任務遂行済》


 三つの表示が順に灯った。


「壁の分は請求して」

「はぁ……任務ご苦労。あと、帰るなよ」


 すでに搬入口へ向かっていたアリステラは足を止める。


「まだ何か?」

「事情聴取」

「必要?」

「賞金首を含めて十四人転がして、違法兵器倉庫に穴まで開けた人間が必要かどうかを決めるな」


 アリステラは少し考えた。


「何分?」

「そこを最初に聞くのか?」

「眠いから」


 局員はしばらくアリステラを見てから、大きくため息をついた。


「嘘をつくな」


 

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