第一話 賞金稼ぎの魔王①
第一話
賞金稼ぎの魔王
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銀河大戦が終わっても、銀河から武器が消えるわけではない。
戦争とは、莫大な物流である。八年間、数千の惑星と植民宙域へ兵士を運び、食料を運び、医薬品を運び、それ以上の速度で兵器を運んだ。そして、そのための仕組み自体は戦争が始まる遥か以前から築かれている。数か月前に停戦協定が結ばれたからといって、そのすべてが翌朝には軍の倉庫へ戻るわけではなかった。
所有者を失った銃器、登録を抹消された軍用艇、放棄された補給基地、記録に存在しない航路、死んだ兵士の生体認証をいまだ受け入れる装備。戦争は終わったが、それを支えた物流だけは、行き先を失ったまま生き延びていた。
辺境惑星エディア第四居住区は、そうして取り残されたものを売るには都合のいい場所だった。
その地は恒星から遠く、昼でも空は紫がかって暗い。都市そのものが巨大な採掘坑の内部へ築かれているため、地表を吹き荒れる大気嵐とは無縁だったが、その代わり街には機械油と再生水の匂いが澱のように溜まっていた。頭上を走る貨物軌道の振動が岩壁を伝い、歓楽街の店先には帝政圏、連合、中立星系、どこのものとも判別しにくい文字の看板が幾重にも重なっている。
午前二時十三分、男が壁を突き破って飛んだ。
表通りから三本外れた倉庫街の一角。吹っ飛んだ男は、積み上げられた輸送箱へ背中から突っ込み、金属板を二枚巻き込んで床へ落ちた。人体が建材を破壊したわけではない。正確には、破壊された壁と一緒に人体が出てきたのだ。
割れた輸送箱から、連合軍規格の携行火器が数丁、乾いた音を立てて滑り出す。製造番号は削られていた。戦時中ならそれだけで死刑判決の理由にもなり得た代物である。
穴の開いた壁の向こうから、一人の女が歩いてきた。
黒い外套をまとい、濃紺の髪は低い位置で束ねられ、右腿には拳銃がある。外套の留め具と腰帯には黒銀色の金属片が装飾のように嵌め込まれていたが、武器らしいものはほかに見当たらなかった。
倒れた男が呻きながら銃へ手を伸ばした。女は足を緩めない。銃口が持ち上がるより早く、床の武器が跳ねた。誰にも触れられていない銃は男の手から逃れるように宙へ浮き、天井近くまで回転したあと、数メートル先の床へ叩きつけられた。
機関部が、嫌な音を立てて潰れた。
「ひっ……」
男の手が止まった。潰れた銃と女の右手を交互に見て、顔から血の気が失われていく。
「ル、ルーメン……? 待て、待てよ。お前、ルーメン使いなのか?」
女は答えず腰から薄型端末を取り出した。起動すると青白い投影面が浮かび、男の顔写真、氏名、身体識別情報、嫌疑、賞金額が並んだ。
《ダグ・ヴォルシュ》。武器密輸、軍用品不正転売、貨物船襲撃幇助。身柄引き渡し。生存時報酬加算。
その女――アリステラは投影された顔と床に這いつくばる男を見比べた。右眉の古い裂傷。左耳の欠損。虹彩認証も一致したことを確認し、短く息を吐く。
「本人だね」
「な、な……そ、そうみたいだな」
ヴォルシュは慌てて後ずさったが、背中はすぐ輸送箱へぶつかった。逃げ場がないと分かると、今度は両手を見せるように持ち上げる。
「待ってくれ。話せる、な? 話そうぜ。賞金なら俺が払う。倍でもいい、三倍出す。こう見えて金はあるんだ。それにあんた、いまの……あれだけルーメンを扱えるなら、こんな仕事する必要ないだろ。星環院なり軍なり、もっとまともな行き先があるはずだ」
アリステラは端末を閉じた。
「今の仕事は、あなたを捕まえること」
「だから金を出すって言ってるだろ!」
「依頼主を途中で変えるのは、後が面倒だから嫌」
「そういう問題かよ」
叫んだ拍子に脇腹が痛んだらしく、ヴォルシュが顔を歪める。
ルーメンを自在に扱える者が賞金稼ぎ。それが彼にはよほど奇妙らしい。
ルーメンは力だ。銀河のいたるところに満ちている。ただし、その存在を知覚できる者は限られ、さらにそこへ意志を届かせられる者となれば、数はもっと少ない。
物体を動かし、肉体を補強し、加わった力の向きを逸らす。同じルーメン使いでも、できることも、引き出せる力も、制御の精度もまるで違う。まして、戦闘の最中に複数の作用を自在に操れる者など、そう多くはいない。
ヴォルシュが驚くのも無理はない。
高いルーメン適性を持つ者は、たいてい専門教育へ進む。星環院もその一つであり、そこで認定を受けた者は星の騎士と呼ばれる。救助、災害対応、航路警護、紛争仲裁。国家や種族の境界を越えて働く彼らは、少なくとも辺境の倉庫で賞金首を壁ごと吹き飛ばすために育てられるわけではない。
ヴォルシュが妙な顔をするのも、理解はできた。
自分も、その一人だったからだ。記録によれば。




