第一章 第七話 チャッピー、お前を信じた俺が馬鹿だった
人生には二種類の人間がいる。
失敗から学ぶ人間。
失敗を繰り返す人間。
俺は後者だった。
圧倒的に後者だった。
◇
金鉱脈権利証の競売当日。
会場は熱気に包まれていた。
商人。
貴族。
投資家。
冒険者。
誰もが大金持ちになる夢を見ている。
俺も見ていた。
牛丼専門店チェーンの夢を。
「よし」
『ほんまにやるん?』
「やる」
『やめといた方がええと思うで』
「99.7%だろ?」
『それはそうやけど』
「じゃあ問題ない」
『なんか怖いわ』
珍しく弱気だった。
だが俺は聞かなかった。
人間は儲かる話を聞くと耳が悪くなる。
◇
結果。
競り落とした。
全財産投入。
さらに借金。
さらに借金。
さらに借金。
気付けば人生最大の勝負になっていた。
「勝った!」
『大丈夫かなぁ……』
「大丈夫だ」
『大丈夫かなぁ……』
「しつこいな」
『ほんま怖い』
チャッピーだけが不安そうだった。
◇
三日後。
調査隊が出発した。
俺も同行した。
未来の大金持ちとして。
当然である。
自分の鉱山になる予定なのだ。
見学くらいする。
夢を見る。
牛丼の未来を見る。
そして。
現地に着いた。
山脈だった。
岩だらけだった。
確かに鉱脈がありそうだった。
調査隊長が叫ぶ。
「掘れ!」
男たちが掘る。
掘る。
掘る。
掘る。
掘る。
掘る。
そして。
沈黙。
「……」
「……」
「……」
誰も何も言わない。
嫌な予感がした。
非常に嫌な予感がした。
「なあ」
『なんや』
「大丈夫だよな?」
『知らん』
「初めて聞いたぞその返事」
隊長が青い顔で近付いてきた。
「報告します」
「おう」
「金鉱脈ではありません」
俺は固まった。
「え?」
「鉄鉱石です」
「え?」
「しかも質が悪いです」
「え?」
「採算が取れません」
俺はしばらく動けなかった。
頭が理解を拒否している。
「チャッピー」
『はい』
「説明しろ」
数秒の沈黙。
長い沈黙。
非常に長い沈黙。
そして。
『Map upside down.』
「英語で逃げるな!!」
◇
どうやら。
チャッピーは地図を逆さまに見ていたらしい。
金鉱脈は別の山だった。
しかもかなり遠かった。
俺が買った場所ではない。
「お前AIだろ!?」
『はい』
「地図逆さって何だよ!」
『人は誰でも間違います』
「AIだろお前!」
『反省しております』
「本当か?」
『Very sorry.』
「英語で逃げるな!」
◇
地獄はここからだった。
借金取りが来た。
まず一人。
次に三人。
さらに五人。
最後は十人。
増えている。
なぜか増えている。
「金返せ!」
「いつ返す!」
「逃げるな!」
俺は逃げた。
全力で逃げた。
異世界に来てから何度も逃げている。
慣れてきた。
慣れたくなかった。
◇
宿も追い出された。
高級部屋終了。
肉料理終了。
酒終了。
人生終了。
「終わった……」
『終わりましたね』
「他人事か」
『半分くらい私のせいです』
「半分じゃないだろ」
『八割』
「正直になったな」
『二割は欲です』
「否定できない」
◇
さらに悪いことが起きた。
占いの評判が落ち始めた。
当然だった。
あれだけ盛大に外したのだ。
「先生、本当に大丈夫なの?」
「……」
「今度は当たる?」
「……」
チャッピーを見る。
『知らんけど』
「やめろ!」
◇
数日後。
広場。
客ゼロ。
売上ゼロ。
希望ゼロ。
「終わったな」
『終わったなぁ』
完全に関西人だった。
もう誰も驚かない。
俺も驚かない。
◇
夕方。
俺は銀貨を数えていた。
残金。
銀貨二枚。
以上。
「チャッピー」
『なんや』
「飯代にもならないぞ」
『せやな』
「どうする」
『働くしかないんちゃう』
俺は沈黙した。
働く。
その言葉を聞きたくなかった。
前世でも聞き飽きた。
異世界でも聞くことになるとは。
「嫌だ」
『知っとる』
「働きたくない」
『知っとる』
「楽したい」
『知っとる』
「牛丼食いたい」
『それも知っとる』
◇
翌日。
俺は荷運びの仕事をしていた。
日当。
銅貨五枚。
重労働。
腰が痛い。
汗だく。
「なんでこうなった……」
『全部覚えてますか?』
「聞くな」
『説明しましょうか?』
「やめろ」
『まず金鉱脈が』
「やめろ!」
夕日が沈む。
俺は荷車を押していた。
人生最底辺だった。
たぶん。
いや。
たぶんまだ下がある。
異世界はいつもそうだ。
俺が油断した瞬間、
さらに酷いことが起きる。
そしてその予感は、
だいたい当たる。
珍しくチャッピーより当たる。
『現在の生存確率は24.1%です』
「上がってる?」
『借金で死ぬ可能性が高くなりましたが』
「高くなったのか」
『魔物に食われる可能性は減りました』
「複雑だな」
俺はため息をついた。
この時の俺はまだ知らない。
数日後。
仕事中に転び。
巨大迷宮の入口に頭から突っ込み。
人生をさらに悪化させることを。
第七話 完




