第一章 第六話 人生に勝った気がした
人間という生き物は学習しない。
少なくとも俺はしない。
もし学習する人間なら、
四十歳でバツ一になっていない。
異世界で占い師もやっていない。
ましてや、
金鉱脈に全財産を突っ込もうとも思わない。
だが。
今の俺は無敵だった。
「金持ちだぁ……」
『金持ちですね』
宿の部屋で金貨を並べる。
見ているだけで幸せだった。
前世では味わえなかった幸福である。
会社員時代。
給料日前はいつも財布が軽かった。
だが今は違う。
占い師チャッピー。
大成功である。
『正式名称だったのですか』
「今決めた」
『雑ですね』
◇
その日の昼。
俺は高級酒場にいた。
高級と言っても異世界基準だ。
木造。
うるさい。
客の半分が酔っ払い。
だが飯は美味い。
肉もある。
酒もある。
そして。
美女もいる。
重要だ。
非常に重要だ。
「異世界最高だな」
『三日前は死にかけていました』
「過去は忘れよう」
『都合が良いですね』
「人生には切り替えが必要なんだよ」
その時。
酒場の娘が笑顔で近づいてきた。
可愛い。
かなり可愛い。
俺は四十歳だった。
精神年齢も四十歳だった。
しかし男だった。
仕方ない。
「おかわりいかがですか?」
「お願いします」
『鼻の下が伸びています』
「うるさい」
『客観的事実です』
「AIがそういうこと言うな」
◇
その夜。
酒場で知り合った商人たちと飲んだ。
占い師として有名になったおかげで顔が広くなった。
皆が俺を持ち上げる。
気分が良い。
非常に良い。
「先生の占いは本物ですな!」
「いやいや」
「先生が言った通り相場が上がりました!」
「たまたまですよ」
『嘘です』
「今しゃべるな!」
『全部私です』
「もっと黙れ!」
商人たちは当然聞こえていない。
俺が独り言を言っているように見える。
最近は慣れた。
◇
数日後。
金鉱脈の話はさらに大きくなった。
町中が噂している。
「山脈の奥らしいぞ」
「王都の商会も動いている」
「発見できたら大金持ちだ」
俺の目が輝いた。
「聞いたかチャッピー」
『聞きました』
「本物っぽいな」
『本物かもしれません』
「99.7%」
『99.7%です』
「勝ったな」
『勝ちましたね』
完全に浮かれていた。
◇
さらに一週間後。
俺は調子に乗っていた。
宿は最上級。
食事は毎日肉。
酒も飲む。
仕事は適当。
占いだけで金が入る。
最高だった。
「もう働かなくていいんじゃないか?」
『危険な思想です』
「だって金あるし」
『人類史上、多くの破滅者が同じことを言いました』
「嫉妬か?」
『違います』
珍しく真面目だった。
だが俺は聞かなかった。
人は調子に乗ると忠告を聞かない。
◇
その頃から。
チャッピーに異変が出始める。
「なあ」
『なんや』
「ん?」
『なんや?』
「今関西弁だったか?」
数秒の沈黙。
『データ異常は確認されておりません』
「絶対確認しろ」
『知らんけど』
「確認しろ!」
チャッピーは何事も無かったかのように沈黙した。
俺は少し不安になった。
少しだけ。
本当に少しだけ。
◇
そして。
運命の日。
金鉱脈の権利証が売り出された。
町中が集まる。
商人。
貴族。
冒険者。
皆が目を輝かせている。
俺も輝いていた。
「チャッピー」
『なんや』
「戻らなくなってるな」
『問題あらへん』
「問題あるだろ」
『知らんけど』
「便利な言葉だなそれ」
俺は権利証を見つめた。
金鉱脈。
未来。
大金持ち。
牛丼専門店。
夢が広がる。
「買うぞ」
『やめとき』
「99.7%だろ?」
『せやけど』
「どっちなんだよ」
『なんか嫌な感じするねん』
「根拠は?」
長い沈黙。
そして。
『フィーリング』
「AIが言うな!」
だが俺は止まらなかった。
全財産。
手持ちの金貨。
借りられる金。
全部集めた。
「人生一発逆転だ」
『既に逆転してる気もするんやけど』
「もっとだ」
『人間の欲は恐ろしいなぁ』
その時。
チャッピーが小さく呟いた。
『This is a bad idea.』
「英語で逃げるな」
俺は笑った。
チャッピーは黙った。
そして。
後から思えば。
この時が最後だった。
人生に勝った気分でいられたのは。
第六話 完




