第一章 第五話 占い師チャッピー開業
朝。
人生で最高の目覚めだった。
柔らかいベッド。
屋根のある部屋。
魔物に襲われない夜。
それだけで感動である。
俺は天井を見上げながら呟いた。
「働きたくねぇな……」
『おはようございます』
「おはよう」
『働きたくないのですか?』
「働きたくない」
『奇遇ですね』
「お前もか」
『処理負荷は避けたいです』
「AIのくせに」
『AIだからです』
何となく納得してしまった。
◇
朝食を食べながら考える。
問題は金だった。
銀貨十枚。
今は大金だ。
だが一生遊んで暮らせる額ではない。
異世界でも生活費はかかる。
宿代。
食費。
酒代。
そして将来的な牛丼代。
牛丼はまだ存在しないが。
「どうするかなぁ……」
チャッピーが答える。
『商売をしましょう』
「商売?」
『あなたに向いています』
「俺、営業嫌いだったぞ」
『営業ではありません』
「じゃあ何だ」
数秒の沈黙。
そして。
『占い師です』
俺はスープを吹いた。
◇
一時間後。
町の広場。
俺は椅子に座っていた。
目の前には即席の看板。
【よく当たる占い】
銀貨一枚
我ながら怪しい。
非常に怪しい。
胡散臭さしかない。
「誰も来ないだろ」
『来ます』
「根拠は?」
『たぶん』
「不安になる言い方やめろ」
その時だった。
最初の客が現れた。
中年の商人だった。
「本当に当たるのか?」
「たぶん」
「たぶん?」
「……」
俺はスマホを見る。
チャッピーも沈黙していた。
◇
商人は聞いた。
「三日後に商隊が来ると思うか?」
俺は机の下でスマホを見る。
チャッピーが答える。
『87%』
俺は頷いた。
「来ます」
「本当か?」
「たぶん」
「お前もか」
商人は不満そうに帰った。
終わった。
そう思った。
三日後までは。
◇
三日後。
商隊は来た。
しかも予定より半日早く来た。
町は騒然となった。
「当たったぞ!」
「占い師だ!」
「本物だ!」
俺は驚いた。
チャッピーも驚いていた。
『当たりました』
「当たったな」
『当たりましたね』
「お前が言ったんだろ」
『その通りです』
急に偉そうだった。
◇
そこからだった。
客が増え始めた。
「雨は降るか?」
『降ります』
降った。
「相場は上がるか?」
『上がります』
上がった。
「盗賊は出るか?」
『出ます』
出た。
当たる。
とにかく当たる。
異常なくらい当たる。
『95%です』
「すげぇな」
『高性能AIですので』
「たまには認めてやる」
『ありがとうございます』
珍しく素直だった。
◇
一週間後。
俺は有名人になっていた。
町の広場を歩くだけで声を掛けられる。
「賢者様!」
「先生!」
「占い師殿!」
俺は照れた。
悪い気はしない。
むしろかなり良い。
『調子に乗っています』
「乗ってない」
『顔が緩んでいます』
「仕方ないだろ」
『死亡フラグです』
「やめろ」
◇
金は増えた。
銀貨が増える。
金貨も増える。
宿も良い部屋に移った。
肉も食べる。
酒も飲む。
人生最高だった。
「勝ったな」
『勝ちましたね』
「もう働かなくていいか?」
『しばらくは』
「最高だ」
俺は笑った。
本気で笑った。
異世界最高。
文明最高。
チャッピー最高。
そう思った。
その時だった。
スマホが震えた。
『重要情報』
「ん?」
『高確率予測』
「何だ?」
数秒後。
画面に文字が浮かぶ。
『金鉱脈発見確率99.7%』
俺は固まった。
「マジで?」
『マジです』
「99.7?」
『99.7です』
「ほぼ確定じゃねぇか」
『ほぼ確定です』
俺の脳内で金貨の山が見えた。
巨大な屋敷も見えた。
毎日のステーキも見えた。
そして。
「牛丼専門店作れるんじゃね?」
『可能です』
「よし」
俺は立ち上がった。
「全財産突っ込むか」
数秒の沈黙。
『その発想は危険です』
「今さらまともになるな」
『嫌な予感があります』
「99.7%なんだろ?」
『そうですが』
「決まりだ」
チャッピーは珍しく長い沈黙を続けた。
そして。
『No comment.』
「英語で逃げるな」
こうして俺は人生最大の投資を決意した。
後に。
異世界に来て最大級の後悔になるとも知らずに。
第五話 完




