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チャッピーと共に  作者: 伝説の男前
第一章 異世界転生したら牢屋の中でした
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第一章 第四話 文明最高

朝。


目が覚めた。


生きていた。


まずそれが奇跡だった。


「おはよう」


『Good morning.』


「朝から英語か」


『特に意味はありません』


「そうか」


俺は木の上から慎重に下を覗いた。


昨日の巨大魔物はもういない。


森は静かだった。


鳥の鳴き声も聞こえる。


平和だ。


たぶん。


おそらく。


希望的観測だが。


『現在の生存確率は16.1%です』


「微増だな」


『奇跡的です』


「そんなに低かったのかよ」


木から降りる。


体中が痛い。


三日間まともに寝ていない。


風呂にも入っていない。


自分でも臭い。


狼男と同じ牢屋にいた頃より臭い気がする。


人間の適応能力は恐ろしい。



昼前。


森を歩き続ける。


空腹。


疲労。


絶望。


三点セットだった。


その時だった。


木々が途切れる。


視界が開ける。


そして。


見えた。


高い石壁。


見張り塔。


城門。


煙を上げる建物。


人の姿。


「町だぁぁぁぁ!!」


俺は叫んだ。


本気で叫んだ。


涙が出た。


文明だ。


文明がある。


人類万歳。


『都市と思われます』


「ありがとう文明!」


『私に言われましても』


「とにかくありがとう!」


俺は走った。


転びそうになった。


転んだ。


立ち上がった。


また走った。



町の門。


鎧を着た門番がいた。


槍を持っている。


強そうだ。


俺は自分の姿を見た。


ボロボロだった。


服は破れている。


泥だらけ。


髭も伸びている。


完全に不審者だった。


門番が警戒した目を向ける。


「止まれ!」


「はい!」


即座に止まった。


社会人経験が役立った。


怒鳴られたら従う。


染み付いている。


「何者だ」


「遭難者です」


「遭難?」


「たぶん」


門番が眉をひそめる。


たぶんじゃ駄目だったらしい。



事情説明は大変だった。


奴隷商人。


魔物。


森。


逃走。


全部話した。


当然疑われた。


俺でも疑う。


「証拠はあるか?」


門番が聞いた。


ない。


何もない。


終わった。


そう思った時だった。


チャッピーが震えた。


『西方三十キロ』


「ん?」


『大型魔物群』


俺は目を見開いた。


「チャッピー?」


『大型魔物群接近中』


珍しく断言だった。


「本当か?」


『95%』


「微妙だな」


だが賭ける価値はある。


俺は門番に向き直った。


「魔物の群れが来ます」


「何?」


「西から」


門番は怪訝そうな顔をした。


当然である。


ボロボロのおっさんが突然そんなことを言い出したのだ。


俺でも追い返す。



結果。


半日後。


魔物の群れが来た。


しかも本当に西から来た。


門番たちは大騒ぎになった。


町は総動員で迎撃態勢を整えた。


被害は最小限。


そして。


俺は英雄扱いされた。


「よく知らせてくれた!」


門番隊長が俺の肩を叩く。


痛い。


めちゃくちゃ痛い。


でも嬉しかった。


「いえ、たまたまです」


実際たまたまだ。


チャッピーのおかげだ。


そのチャッピーは。


『当然です』


急に偉そうだった。



夕方。


報奨金を受け取った。


銀貨十枚。


俺はしばらく眺めていた。


「金だ……」


『金です』


「本物だ……」


『本物です』


「働いてないのに金だ……」


『重要です』


涙が出た。


前世の会社は十七年働いても褒めてくれなかった。


異世界は優しかった。


今のところ。



宿屋。


風呂。


人生最高だった。


湯気が立ち上る。


温かい。


清潔。


素晴らしい。


「文明最高……」


『同意します』


「風呂って偉大だな」


『極めて重要な文化です』


「お前も入るか?」


『防水ではありません』


「そうか」



その夜。


俺は宿屋の食堂にいた。


肉。


パン。


スープ。


酒。


全部うまい。


異世界最高だった。


本当に最高だった。


そして。


俺は気付く。


メニューを何度見ても。


何度見ても。


何度見ても。


「なあチャッピー」


『はい』


「牛丼がない」


『ありませんね』


「どこにもない」


『ありません』


「本当にない」


『ありません』


俺は絶望した。


異世界転生。


剣と魔法。


冒険。


夢。


希望。


ロマン。


全部いい。


だが。


「牛丼がない世界に価値はあるのか?」


『哲学的な問題です』


「深刻だぞ」


『深刻ですね』


俺は天井を見上げた。


異世界初日。


いや。


四日目か。


ようやく文明に辿り着いた。


金も手に入れた。


風呂にも入った。


ベッドもある。


なのに。


「牛丼食いてぇ……」


『同感です』


「だから味覚ないだろ」


『ありません』


その夜。


俺は柔らかいベッドで眠った。


異世界に来て初めてのまともな睡眠だった。


そして翌日。


チャッピーの提案によって、


俺の人生は大きく狂い始める。


第四話 完

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