第四章 第六話 王の悪夢
その夜。
◇
おっさんは眠れなかった。
◇
正確には眠った。
◇
しかし問題があった。
「ううう……」
◇
魘されていた。
◇
非常に魘されていた。
「やめろ……」
◇
寝言。
◇
冷や汗。
◇
顔面蒼白。
少し離れた場所。
◇
ミリア姫が目を覚ます。
「大丈夫でしょうか」
◇
心配そうだった。
『大丈夫やない』
◇
チャッピーが断言する。
『完全にトラウマや』
◇
原因は明白だった。
◇
昨日の出来事である。
◇
超美人。
◇
婿入り騒動。
◇
そして。
「そいつ男だぞ」
◇
あの一言。
◇
精神的ダメージが大きすぎた。
「重症ですね」
『重症やな』
◇
二人は静かに頷いた。
悪夢
夢だった。
◇
美しい花畑。
◇
青空。
◇
風。
◇
そして。
◇
超美人。
「好きです」
◇
おっさん固まる。
「俺?」
「はい」
◇
美人が近づいてくる。
◇
笑顔。
◇
理想的な笑顔。
◇
人生最高の笑顔。
「結婚してください」
◇
おっさん感動。
◇
ついに春が来た。
◇
異世界最高。
「もちろん――」
◇
その瞬間。
◇
どこからか声。
「そいつ男だぞ」
◇
世界停止。
◇
空停止。
◇
時間停止。
「え?」
◇
超美人が微笑む。
「よろしく兄弟」
◇
声が低かった。
◇
非常に低かった。
「ぎゃああああああ!!」
◇
飛び起きた。
真夜中
汗だくだった。
◇
心臓が暴れている。
◇
息苦しい。
「夢か……」
『夢や』
◇
チャッピーが答える。
「最悪だ」
『せやな』
◇
珍しく意見が一致した。
ミリアが覗き込む。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃない」
◇
即答だった。
「もう人間が信じられない」
『そこまでか』
◇
そこまでだった。
金色の光
その時。
◇
チャッピーが震える。
◇
画面が明るくなる。
◇
金色。
◇
古代王モード。
ピカァァァ
◇
おっさん停止。
◇
ミリア停止。
「来た!」
◇
久しぶりだった。
◇
重要情報の時間。
◇
たぶん。
『記憶断片検出』
◇
チャッピーが言う。
「記憶?」
『王の記憶』
◇
世界が揺れる。
◇
景色が変わる。
◇
夢の中に引き込まれる。
古代王
巨大な宮殿だった。
◇
黄金の柱。
◇
巨大な玉座。
◇
豪華絢爛。
◇
地下帝国の最盛期。
そして。
◇
玉座に座る男。
「……」
◇
若い。
◇
二十代後半。
◇
金髪。
◇
威厳。
◇
カリスマ。
◇
そして。
顔だけはおっさんだった。
「俺だ」
『俺やな』
「俺じゃねぇ」
◇
否定した。
◇
説得力は無かった。
玉座の男が立ち上がる。
◇
臣下達を見る。
「会議を始める」
◇
大臣達が緊張する。
◇
国政会議だった。
◇
重要な議題。
◇
国家の未来。
「まず醤油だ」
◇
沈黙。
「百年醤油の在庫は?」
◇
さらに沈黙。
「足りん」
◇
大臣達絶望。
「増産しろ」
◇
会議終了。
「馬鹿だろ」
『馬鹿やな』
◇
おっさんとチャッピーが頷く。
牛丼帝国
映像は続く。
◇
王は歩く。
◇
豪華な廊下。
◇
巨大な厨房へ向かう。
料理長。
「陛下」
◇
王は真顔で言う。
「牛丼を持て」
◇
料理長沈黙。
「今ですか」
「今だ」
◇
料理長さらに沈黙。
「戦争中ですが」
「牛丼だ」
◇
会話終了。
「本当に俺じゃねぇか」
『否定できんな』
◇
否定できなかった。
王の言葉
その時だった。
◇
映像の王が止まる。
◇
こちらを見る。
◇
目が合う。
「……」
◇
おっさん凍る。
「見えてる?」
『見えとる』
◇
記憶映像のはずだった。
◇
だが王は見ていた。
王が笑う。
「まだ見つからないのか」
◇
おっさん固まる。
「何がだ」
「牛丼」
◇
即答だった。
「お前も探してたのか」
◇
王は頷く。
「余も一生探した」
◇
沈黙。
「見つからなかった」
◇
さらに沈黙。
「お前も大変だな」
◇
優しい顔だった。
◇
だが絶望的な情報だった。
「嫌な未来予想するな!」
◇
王は笑う。
そして。
◇
何か言おうとする。
「お前は――」
◇
世界が揺れる。
◇
映像が崩れる。
「待て!」
◇
おっさん叫ぶ。
「続き!」
「俺は何なんだ!」
◇
王が口を開く。
「お前は――」
『System Error』
◇
終了。
◇
真っ暗。
◇
静寂。
「そこで切れるなぁぁぁ!!」
◇
草原中に叫び声が響いた。
朝
翌朝。
◇
おっさんの目の下には隈。
◇
ひどい隈。
◇
非常にひどい隈。
ミリアが心配する。
「眠れなかったのですか?」
「悪夢を見た」
「どんな夢ですか?」
◇
おっさん沈黙。
「超美人が出てきた」
「良い夢ですね」
「男だった」
◇
ミリア沈黙。
◇
チャッピー沈黙。
◇
風だけが吹いた。
『忘れろ』
「無理だ」
◇
その日。
◇
おっさんは一日中元気がなかった。
◇
しかし。
◇
頭の中には別の疑問も残っていた。
古代王アレクシス。
百年醤油。
牛丼。
そして。
「お前は――」
◇
その続きだけが。
◇
どうしても思い出せなかった。
遠くの丘の上。
◇
ピンクスーツの男が双眼鏡を覗く。
「影とは」
◇
深く頷く。
「悪夢を見守るもの」
◇
意味が分からなかった。
◇
だが本人は満足そうだった。
第四章 第六話 完




