第四章 第七話 牛丼皇帝決定戦
人生には逃げられない運命というものがある。
◇
おっさんの場合。
◇
それは牛丼だった。
「つまりだ」
◇
草原の中央広場。
◇
巨大な円形会場。
◇
族長たち。
◇
戦士たち。
◇
料理人たち。
◇
野次馬たち。
◇
なぜか数万人。
「皇帝になれってことか?」
『せやな』
◇
チャッピーが答える。
「断る」
『無理やな』
◇
即答だった。
◇
地下帝国。
◇
草原諸部族。
◇
湖の民。
◇
山岳民族。
◇
なぜか全員集まっている。
◇
理由は単純だった。
「古代王の再来」
◇
という噂が広まっていた。
◇
誰が流したかは不明。
◇
たぶんチャッピー。
◇
あるいは影。
◇
ろくでもない。
皇帝即位拒否
族長が言う。
「グルガァァァ!」
◇
歓声。
◇
拍手。
◇
大盛り上がり。
「何て言った?」
『皇帝になれ』
◇
おっさん即答。
「断る」
◇
沈黙。
◇
周囲が固まる。
◇
族長も固まる。
◇
チャッピーも固まる。
「俺は働きたくない」
◇
本音だった。
「皇帝とか面倒くさい」
◇
さらに本音だった。
「できればニートになりたい」
◇
真実だった。
『夢が小さい』
「放っとけ」
◇
族長たちが相談を始める。
◇
困惑している。
◇
当然だった。
◇
普通。
◇
皇帝になれと言われたら喜ぶ。
◇
この男は違った。
名案
その時だった。
◇
チャッピーが光る。
『提案がある』
◇
嫌な予感。
◇
非常に嫌な予感。
「聞きたくない」
『聞け』
◇
チャッピー続行。
『牛丼大会や』
◇
沈黙。
「は?」
『牛丼大会』
◇
さらに沈黙。
『優勝した牛丼が本物なら』
『皇帝になる』
◇
おっさん停止。
「なるほど」
◇
少し考える。
「本物の牛丼なんて存在しない」
『せやな』
◇
完璧だった。
◇
永久に皇帝にならなくて済む。
「採用」
◇
即決だった。
牛丼皇帝決定戦
こうして。
◇
世界初。
◇
そしておそらく世界最後。
牛丼皇帝決定戦
が開催された。
会場。
◇
超満員。
◇
大盛況。
◇
意味が分からない。
参加者。
◇
三百二十七名。
◇
料理人。
◇
戦士。
◇
商人。
◇
なぜか鍛冶屋。
◇
さらに魔法使い。
「何で魔法使いがいる」
『牛丼に国境は無い』
「そうか」
「いや違うな」
◇
危うく納得するところだった。
開幕
ミリアが開会宣言を行う。
「それでは」
◇
真面目な顔。
◇
聖女オーラ。
◇
神々しい。
「第一回牛丼皇帝決定戦を開催します」
◇
拍手。
◇
歓声。
◇
大歓声。
◇
影も拍手していた。
◇
ピンクスーツなので目立つ。
◇
全然隠れていない。
「影とは」
◇
影が呟く。
「目立たないもの」
◇
説得力ゼロだった。
料理の数々
大会開始。
◇
次々と料理が出てくる。
牛丼一号
◇
牛がいない。
◇
羊だった。
「失格」
牛丼二号
◇
肉がない。
◇
野菜だけ。
「失格」
牛丼三号
◇
米がない。
◇
汁だけ。
「失格」
牛丼四号
◇
なぜか爆発した。
「帰れ」
◇
魔法使いだった。
『惜しい』
「どこがだ」
◇
審査は続く。
決勝
日が暮れる頃。
◇
ついに決勝戦。
◇
最後の一品。
会場静寂。
◇
香りが広がる。
◇
甘い香り。
◇
肉。
◇
タレ。
◇
ご飯。
「おお……」
◇
おっさんの目が開く。
「これは」
◇
近い。
◇
非常に近い。
◇
見た目。
◇
香り。
◇
肉の煮込み方。
◇
ほぼ牛丼だった。
「まさか」
◇
会場全員が見守る。
◇
ミリアも期待している。
◇
チャッピーも震えている。
『来たかもしれん』
◇
運命の試食。
パクリ。
◇
咀嚼。
◇
沈黙。
◇
さらに沈黙。
◇
涙が出そうになる。
「……」
『どうや』
◇
おっさん答える。
「美味い」
◇
歓声。
◇
拍手。
◇
大歓声。
「だが」
◇
全員停止。
「違う」
◇
静寂。
「何が違う?」
◇
ミリアが聞く。
おっさんは静かに言う。
「醤油だ」
◇
全員沈黙。
「使われた醤油が違う」
◇
料理人が頷く。
「中華醤油です」
◇
会場がざわつく。
◇
確かに美味い。
◇
だが違う。
◇
求めていた味ではない。
◇
牛丼まで。
◇
あと一歩。
◇
しかし届かない。
皇帝拒否成功
族長たちが集まる。
「どうする?」
◇
相談。
◇
長い相談。
◇
そして結論。
『優勝作品は本物ではない』
◇
チャッピーが翻訳。
『よって皇帝即位は延期』
◇
おっさんガッツポーズ。
「勝った!」
◇
大勝利だった。
「働かなくて済む!」
◇
人生最高の日だった。
ミリアが苦笑する。
「喜ぶところが違う気がします」
「重要だ」
◇
非常に重要だった。
そして伝説へ
夜。
◇
祭りは続く。
◇
人々は牛丼を食べる。
◇
歌う。
◇
踊る。
◇
その光景を見ながら。
◇
おっさんは呟く。
「牛丼は遠いな」
『遠いな』
◇
チャッピーも同意する。
◇
しかし誰も気付いていなかった。
◇
優勝した料理人が使った中華醤油。
◇
その製法が。
◇
百年前に失われた古代王国の技術だったことを。
そして遠く。
◇
ピンクスーツの影が双眼鏡を覗いていた。
「影とは」
◇
静かに頷く。
「牛丼大会のスポンサーである」
◇
スポンサーだった。
◇
護衛ではなくなっていた。
第四章 第七話 完




