第四章 第五話 婿に来い
翌朝。
◇
おっさんは幸せだった。
◇
久しぶりにまともな飯を食った。
◇
牢屋からも出られた。
◇
草原の民とも仲良くなった。
◇
人生は順調だった。
「平和だな」
『その台詞やめろ』
◇
チャッピーが即座に否定した。
◇
最近のチャッピーは学習している。
◇
悪い方向に。
◇
草原の集落中央。
◇
巨大な焚火の跡。
◇
族長が待っていた。
◇
周囲には大勢の草原の民。
「何か始まるな」
『始まるな』
◇
嫌な予感しかしない。
族長の宣言
族長が立ち上がる。
◇
大声で何かを話し始めた。
「グルバ! ガダ! モロロロロ!」
◇
意味不明だった。
◇
しかし周囲は大歓声。
「何て言ってる?」
『分からん』
「役に立たんな」
『傷つくわ』
◇
すると。
◇
チャッピーが突然光った。
ピカァァァ
◇
古代王モード。
◇
久しぶりだった。
『言語解析開始』
◇
おっさん停止。
◇
ミリア停止。
「翻訳できるのか!?」
◇
チャッピー沈黙。
『成功率』
『2%』
「低っ!」
『頑張っとる』
◇
しかし解析は続く。
『推定』
『歓迎式典』
「ほう」
『推定』
『婚姻儀式』
「ほう?」
◇
嫌な予感。
◇
急激に嫌な予感。
『推定』
『お前の』
◇
沈黙。
『結婚式』
「帰る」
◇
即答だった。
美形の若者
その時だった。
◇
人混みが割れる。
◇
昨日の美形が現れる。
◇
黒髪。
◇
整った顔。
◇
長身。
◇
超美形。
「おお」
◇
おっさん感心する。
「イケメンだな」
『イケメンやな』
◇
ミリアも頷く。
「綺麗な方です」
◇
その美形が近づいてくる。
◇
そして。
◇
おっさんの手を取った。
「……」
◇
おっさん停止。
「近い」
◇
さらに近い。
◇
笑顔。
◇
妙に優しい。
『近いな』
「近いな」
◇
周囲が盛り上がる。
◇
拍手。
◇
歓声。
◇
笛まで鳴る。
「何だこれ」
『知らん』
◇
チャッピーも困惑していた。
婿に来い
族長が前に出る。
◇
胸を張る。
◇
そして。
◇
おっさんの肩を掴む。
「グォォォ!」
◇
意味は分からない。
◇
しかし迫力はある。
チャッピー。
『解析完了』
「おお!」
◇
ついに翻訳。
◇
文明の勝利。
『婿に来い』
◇
沈黙。
「何?」
『婿に来い』
「誰が?」
『お前』
◇
おっさん停止。
◇
ミリア停止。
◇
チャッピーだけ元気。
『おめでとう』
「めでたくねぇ!」
◇
周囲は大歓声。
◇
どうやら本当らしい。
ミリア姫
ミリアは不機嫌だった。
◇
珍しく。
◇
非常に珍しく。
「そうですか」
◇
無表情。
「おめでとうございます」
◇
無表情。
「良かったですね」
◇
無表情。
「全然良くない!」
◇
おっさんは叫んだ。
『嫉妬やな』
「違うだろ」
『嫉妬や』
◇
ミリア本人も気付いていなかった。
◇
鈍感だった。
運命の一言
その時。
◇
後ろの戦士がぼそっと呟いた。
「そいつ男だぞ」
◇
静寂。
「……」
◇
おっさん停止。
◇
チャッピー停止。
◇
ミリアだけ分かっていない。
「今何て?」
◇
戦士が答える。
「男だ」
◇
おっさん固まる。
「いやいや」
「男だ」
「嘘だろ?」
「男だ」
◇
三回目だった。
◇
残酷だった。
◇
おっさんは恐る恐る相手を見る。
◇
美形。
◇
超美形。
◇
どう見ても美人。
「……」
◇
確認してしまった。
◇
見てはいけないものを。
「あっ」
◇
蒼白。
◇
硬直。
◇
魂離脱。
『確認してもうたな』
◇
チャッピーが呟く。
「確認してしまった……」
『ドンマイ』
「ドンマイじゃねぇ!」
◇
族長が豪快に笑う。
「ガハハハハ!」
◇
通訳不要だった。
◇
笑っていることだけは分かった。
『息子やて』
「息子なのかよ!」
◇
会場大爆笑。
◇
おっさんだけ笑えない。
なぜか安心するミリア
その横で。
◇
ミリアが小さく息を吐く。
「良かったです」
「何が!?」
「結婚しなくて済みます」
◇
おっさん停止。
「そこか!?」
◇
ミリアも停止した。
◇
自分で言った意味を理解していない。
「え?」
◇
首を傾げる。
◇
鈍感だった。
『重症やな』
「重症だな」
◇
チャッピーと意見が一致した。
新たな約束
騒動の後。
◇
族長は笑いながら言う。
◇
もちろん何を言っているか分からない。
『解析結果』
◇
チャッピーが翻訳する。
『ならば牛を見つけたら娘をやる』
「娘いるのか?」
『おるらしい』
◇
おっさんの目が光る。
◇
牛。
◇
娘。
◇
重要なのは前者である。
「よし」
◇
拳を握る。
「牛を探そう」
◇
チャッピーが呆れる。
『そこなんやな』
◇
こうして。
◇
おっさんの第四階層での牛探しは続く。
◇
そして。
◇
次なる牛らしき情報が届く。
「空飛ぶ牛を見た者がいる」
◇
草原の民の証言だった。
◇
当然ながら。
◇
嫌な予感しかしなかった。
第四章 第五話 完




