第四章 第四話 知らない天井だ
目が覚めた。
◇
知らない天井だった。
「……」
◇
しばらく考える。
◇
何も思い出せない。
◇
もう一度寝ようかと思った。
「知らない天井だ」
◇
やはり知らない天井だった。
◇
誰がどう見ても知らない天井だった。
『有名なセリフやな』
◇
チャッピーが言った。
「知ってるのか」
『98%知っとる』
「残り2%は?」
『忘れた』
◇
いつものことだった。
◇
起き上がろうとする。
◇
しかし動けない。
ガチャ
◇
手かせ。
◇
足かせ。
◇
鎖。
◇
完璧だった。
「え?」
◇
周囲を見る。
◇
石壁。
◇
鉄格子。
◇
藁の寝床。
◇
牢屋だった。
「ええ?」
◇
二回目だった。
◇
驚きが増した。
『捕まったみたいやな』
「他人事か!」
◇
俺は昨日の記憶を探る。
◇
山を下りた。
◇
テントを張った。
◇
夕飯を食べた。
◇
寝た。
◇
終わり。
「誘拐じゃねぇか」
『誘拐やな』
◇
チャッピーは妙に冷静だった。
「ミリアは!?」
『隣や』
◇
鉄格子の向こう。
◇
ミリア姫発見。
◇
寝ていた。
◇
熟睡だった。
◇
危機感ゼロ。
「起きろ!」
◇
ミリア起床。
「おはようございます」
「牢屋だぞ!」
「本当ですね」
◇
驚きが薄い。
◇
いつも通りだった。
草原の民
しばらくして。
◇
足音。
◇
重い足音。
◇
牢の前に大男が現れる。
「グルバ・ガダ・モロ!」
◇
意味不明だった。
◇
一文字も分からない。
「何だって?」
『知らん』
◇
チャッピーも分からない。
「翻訳できないのか」
『未知言語や』
「役に立たんな」
『傷つくわ』
◇
牢番は何か言っている。
◇
怒っているようにも見える。
◇
笑っているようにも見える。
◇
全く分からない。
「終わったな」
『終わったな』
◇
その時。
◇
チャッピーが光る。
ピカァァァ
◇
金色発光。
◇
古代王モード。
◇
来た。
◇
ついに来た。
「翻訳できるのか!?」
『できん』
「帰れ」
◇
即答だった。
顔芸外交
しかし。
◇
チャッピーは続ける。
『だが』
◇
意味深だった。
『心は伝えられる』
「どうやって」
◇
チャッピーの画面に顔が現れる。
『朝から肉が食べたかった狩人の顔』
◇
顔芸。
◇
超顔芸。
◇
無駄に完成度が高い。
「何だそれ」
◇
しかし。
◇
牢番が固まった。
「おおっ!」
◇
通じた。
「え?」
◇
チャッピーが続ける。
『嫁に怒られた族長の顔』
◇
牢番爆笑。
「ガハハハ!」
◇
さらに。
『酒を隠していた戦士の顔』
◇
牢番号泣。
「なんでだよ!」
◇
意味不明だった。
◇
だが通じている。
◇
異常に通じている。
『顔は世界共通言語や』
「初めて聞いたわ!」
◇
数時間後。
◇
牢の前に観客が集まり始めた。
◇
十人。
◇
二十人。
◇
五十人。
◇
大盛況だった。
『会議中に寝た長老の顔』
爆笑。
『怒られる三秒前の子供の顔』
大爆笑。
『肉を焦がした料理人の顔』
拍手喝采。
◇
何なんだこれは。
◇
牢屋ではない。
◇
劇場だった。
釈放
夕方。
◇
人混みが割れる。
◇
偉そうな男が現れる。
◇
筋肉。
◇
毛皮。
◇
巨大。
◇
明らかに族長だった。
「グルルル」
◇
分からない。
◇
全く分からない。
族長がチャッピーを見る。
◇
チャッピーが光る。
『税金が増えた時の財務官』
◇
顔芸。
◇
最高傑作。
◇
非常に嫌そうな顔。
族長。
「ブハァッ!」
◇
吹いた。
◇
笑い転げた。
◇
涙まで出ている。
ガチャ
◇
牢が開いた。
「出ていいのか?」
『出てええらしい』
◇
理由は不明。
◇
顔芸で外交問題を解決した男は史上初だった。
おっさんの反撃
牢から出される。
◇
歓迎会会場へ連行される。
◇
巨大な焚火。
◇
肉。
◇
酒。
◇
歌。
◇
踊り。
「歓迎されてる?」
『たぶんな』
◇
すると族長が肉を差し出す。
◇
焼いただけの肉。
◇
豪快。
◇
だが少し固い。
◇
その瞬間。
◇
料理人のおっさんの魂が目覚めた。
「貸せ」
◇
肉を切る。
◇
香草を使う。
◇
野菜を刻む。
◇
焼く。
◇
炒める。
◇
煮込む。
香りが広がる。
◇
草原の民が集まる。
◇
ざわつく。
◇
全員見ている。
「グル?」
◇
試食。
◇
沈黙。
◇
さらに沈黙。
◇
族長が立ち上がる。
◇
全員緊張する。
「グォォォォォ!!」
◇
絶叫。
◇
歓声。
◇
拍手。
◇
大成功だった。
「勝った」
『勝ったな』
◇
その時。
◇
族長の隣にいた美しい若者が近づいてくる。
◇
長い黒髪。
◇
整った顔立ち。
◇
草原民族の衣装。
◇
かなりの美形だった。
◇
その人物は、
じっとおっさんを見つめる。
「……」
「何だ?」
◇
見つめられる。
◇
妙に見つめられる。
◇
少し恥ずかしい。
『見られとるな』
「見られてるな」
◇
若者は微笑んだ。
「グルル」
◇
意味は分からない。
◇
しかし笑顔だった。
◇
その瞬間。
◇
族長が何かを宣言する。
◇
周囲がどよめく。
◇
若者が赤くなる。
◇
皆が拍手する。
「何だ?」
『知らん』
◇
チャッピーも分からない。
◇
だが嫌な予感だけはしていた。
その夜。
◇
テントへ戻る途中。
◇
チャッピーが呟く。
『なんか婚約発表みたいな雰囲気やったな』
「まさかな」
『せやな』
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二人とも笑った。
◇
まさか本当にその通りだったとは、
まだ知らない。
そして遠くの岩陰。
◇
ピンクスーツの男が腕を組んでいた。
「影とは」
◇
深く頷く。
「見守るもの」
◇
全然隠れていなかった。
第四章 第四話 完




