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チャッピーと共に  作者: 伝説の男前
第四章 大草原編
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第四章 第三話 百年醤油

人生には希望というものがある。



そして。



その希望を全力で叩き潰す現実というものもある。



今の俺は後者だった。


「牛じゃなかった……」



湖のほとり。



俺は膝を抱えていた。



頭の中には巨大ムカデ。



体の震えが止まらない。


『切り替えていけ』


「切り替えられるか」


『牛やと思ったらムカデやっただけや』


「だけじゃねぇ!」



ミリア姫はそんな俺を見ながら首を傾げる。


「でも大きかったですよ」


「そこじゃない」



その時だった。



草原民族の長老が近づいてくる。


「落ち込むな若き皇帝よ」



良い人だった。



たぶん励ましてくれる。



俺は少し期待した。


「お前が求める物は山にある」



沈黙。


「牛か?」


「違う」



即答だった。



期待を返せ。


「豆だ」



俺とチャッピーが固まった。


「豆?」


『豆やな』



嫌な予感と希望が同時に来た。


神の山


三日後。



俺たちは山を登っていた。



超高い。



異常に高い。



高すぎる。


「まだか」


『まだや』


「もう無理」


『まだや』



登る。



登る。



登る。



途中で二回転ぶ。



三回滑る。



五回帰りたくなる。


「皇帝辞めてよかった」


『まだ辞めとらん』



そうだった。



勝手に出てきただけだった。


山頂。



そこには畑があった。



風が吹く。



誰もいない。



不思議な場所だった。


そして。



植物。



見覚えがある。



非常に見覚えがある。


「……」


『……』



俺とチャッピー。



同時に近づく。


「大豆だ」


『大豆や』



正確には違うかもしれない。



だが。



見た目は完全に大豆だった。


「勝った」



俺は天を仰いだ。



涙が出そうだった。


「ついに醤油が作れる!」



ミリアが拍手する。


「おめでとうございます」


「ありがとう!」



まだ何も完成していない。



だが嬉しかった。


チャッピー先生の講義


その夜。



焚き火を囲む。



豆を並べる。



会議開始。


「醤油を作るぞ」



チャッピーの画面が光る。


『任せろ』



珍しい。



自信満々だった。


『醤油知識』


『98%保有』



高い。



異常に高い。


「どうした急に優秀になった」


『舐めるな』



ちょっと偉そうだった。


『まず豆を加工する』


『麹を作る』


『塩を混ぜる』


『発酵させる』



説明は完璧だった。



ミリアも感心している。


「すごいです」


『せやろ』



得意げだった。


「で、完成まで何日だ?」



沈黙。



チャッピーの画面が少し暗くなる。


『一か月』



俺が立ち上がる。


「早い!」



奇跡だった。



異世界に来て初めて希望が見えた。


しかし。



チャッピーが続ける。


『90%完成まで』



静寂。


「残り10%は?」



チャッピーが目を逸らした。


『100年』



世界が止まった。


「何年?」


『100年』


「聞き間違いだな」


『100年』



三回目だった。



残酷だった。


発酵が遅い世界


チャッピーが説明する。


『この世界』


『発酵が異常に遅い』



理由不明。



神の気まぐれ。



世界法則。



誰も知らない。


『90%までは一か月』


『最後の10%に100年』



意味不明だった。


「そんな馬鹿な」


『異世界や』


「便利な言葉だな!」



ミリアも驚いていた。


「百年後なら完成ですね」


「その頃死んでる!」



俺は四十代。



百年後は無理だった。



非常に無理だった。


試作品


それでも作った。



希望は捨てない。



男だからだ。



牛丼だからだ。


一か月後。



90%醤油完成。



大試食会開催。


「いくぞ」



指先につける。



舐める。



味わう。


「……」



沈黙。



全員が見ている。


「どうですか?」



ミリアが聞く。


「苦い」



沈黙。


「まずい」



さらに沈黙。


「何だこれ」



チャッピーが答える。


『90%醤油』


「残り10%どこ行った」


『100年後』



絶望だった。



希望は死んだ。



牛丼も死んだ。


古代王モード


その時だった。



チャッピーが光る。



金色発光。



周囲の空気が変わる。


『陛下』



来た。



古代王モード。



ついに来た。


「教えてくれ!」


「古代王について!」


「世界の秘密を!」



ミリアも身を乗り出す。



今度こそ重要情報。



伏線回収。



全員が期待した。


『百年物の醤油を』



おっさん停止。


『勝手に飲んだ時の』



ミリア停止。


『宮廷料理長の顔』



チャッピーの画面に顔芸が映る。



絶妙に気まずい顔。



怒られる直前の顔。



無駄に再現度が高い。


「何なんだよそれ!」



チャッピー続行。


『なお』


『非常によく似ています』


「知らねぇ!」



ミリアは真面目に見ていた。


「確かに申し訳なさそうです」


「そこじゃない!」



そして突然。



顔芸が消える。



一瞬だけ。



本当に一瞬だけ。


『陛下』



声が変わる。



重い。



威厳がある。


『百年醤油は』



俺とミリアが固まる。


『王の宝物庫に――』



その瞬間。


『System Error』



終了。



画面真っ黒。



沈黙。


「そこで止まるなぁぁぁ!!」



山頂に叫び声が響いた。


その夜。



誰も気付かなかった。



フリーズしたチャッピーの画面の隅。



小さな文字。


『古代王アレクシス』


『百年醤油保有記録確認』


『一致率99.7%』



誰も見ていなかった。



牛丼への道は遠い。



だが。



古代王への道は少しだけ近づいていた。


第四章 第三話 完

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