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チャッピーと共に  作者: 伝説の男前
第四章 大草原編
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第四章 第二話 湖の牛

牛だった。



どう見ても牛だった。



遠くから見る限り。



少なくとも俺にはそう見えた。


「牛だ」


『牛やな』



俺とチャッピーは固く握手した。



正確にはスマホなので握手はしていない。



気持ちの問題である。


「ついに見つけた」



第四階層到着初日。



ついに牛発見。



長かった。



本当に長かった。



異世界転生してからずっと探していた。



牛丼への第一歩。


「ありがとう神様」


『まだ早い』



チャッピーが珍しく冷静だった。


「何がだ」


『今まで何回騙された』



思い出した。



キノコ豚。



オーク。



謎肉。



魚醤。



数々の悲劇。


「今回は違う」



俺は断言した。


「今回は牛だ」



チャッピーは黙った。



その沈黙が怖い。


問題発生


牛は島にいた。



湖の中央。



橋なし。



船なし。



泳ぐには遠い。


「どうするのですか?」



ミリアが聞く。


「簡単だ」



俺は草原を見渡した。



草。



大量の草。


「船を作る」



ミリア沈黙。



チャッピー沈黙。


『大丈夫か?』


「任せろ」



任せてはいけなかった。


草船計画


まず草を刈る。



刈る。



ひたすら刈る。



腰が痛い。


「文明の力が欲しい」


『鎌くらい作れ』


「面倒だ」



そして束ねる。



縄を編む。



さらに束ねる。



何となく船っぽくする。


完成。


「どうだ」



沈黙。


『棺桶やな』


「船だ」


『棺桶や』



ミリアも困っていた。


「乗るのですか?」


「乗る」


「本当に?」


「乗る」



男には行かなければならない時がある。



牛が待っている。


出航


浮いた。



奇跡だった。



本当に奇跡だった。


「浮いたぞ!」


『浮いたな』



進む。



ギシギシ。



ミシミシ。



嫌な音しかしない。


「大丈夫だ」


『その台詞やめろ』



湖の中央。



巨大な魚影。



見えた。


「魚だな」


『でかいな』



魚影。



船より大きい。



見なかったことにした。


「気のせいだ」


『現実逃避や』



何とか進む。



何とか生きている。



何とか到着。


孤島上陸


島だった。



本当に島だった。



草も生えている。



木もある。



牛らしき影もいる。


「勝った」



俺は感動した。



牛まであと少し。


『まだ早い』



チャッピーは冷静だった。


距離百メートル。


「牛だ」


距離五十メートル。


「牛だ」


距離二十メートル。


「牛だよな?」


『知らん』



何かおかしい。



嫌な予感。



非常に嫌な予感。


距離十メートル。



足が見えた。



小さい。



やたら小さい。



しかも。



いっぱいある。


「……」



俺停止。



ミリア停止。



チャッピー停止。


「足多くない?」



ミリアが言った。


「多いですね」



さらに近づく。



確認する。



現実を見る。


「多いな」


『多いな』



百本くらいあった。



数えたくない。


「牛じゃない」



チャッピー。


『牛ちゃう』



顔が見える。



触角が見える。



牙が見える。



目がいっぱいある。


「……」


『……』



数秒。



誰も何も言わない。


「ムカデだ」



チャッピー。


『ムカデや』



巨大ムカデだった。



島の大部分を占領していた。



遠目には牛に見えた。



近くでは絶対見えない。


ギチギチギチギチ



巨大ムカデが動く。



島が揺れる。



木が倒れる。


「帰るぞ」


『全力や』



振り返る。



全力疾走。



人生最速。


「ぎゃあああああ!」



皇帝とは思えない悲鳴。


「船!」



草船へ飛び乗る。



その瞬間。


バキッ



壊れた。


「嘘だろ!」


『知ってた』



沈む。



船沈没。



終了。


「泳げぇぇぇ!」



湖へ飛び込む。



ミリアも飛び込む。



巨大ムカデも追ってくる。


ギチギチギチギチ!



怖い。



とても怖い。



牛丼どころではない。


「助けてくれぇぇぇ!」



全力で泳ぐ。



水しぶき。



涙。



鼻水。



尊厳消滅。


その時。



湖岸の岩陰。



ピンク色。


「影とは」



ピンクスーツの男が立っていた。



なぜか釣りをしている。


「見守るもの」



意味が分からない。


シュッ



糸が飛ぶ。



巨大ムカデの目に刺さる。


ギャァァァァ!



ムカデ暴走。



反対方向へ突進。



島へ戻る。


「影とは」



ピンク男が頷く。


「自然な支援」



全然自然ではない。


帰還


数十分後。



岸へ到着。



俺は倒れた。


「牛じゃない……」



涙声だった。


『牛ちゃうな』



チャッピーも疲れていた。



スマホなのに疲れていた。


ミリアが遠くを見る。


「あの生物」


「何だ」


「牛に似ていました」


「似てない」



すると近くを通った草原民族の老人が言った。


「ああ」



老人は頷く。


「あれはモーモー様じゃ」



沈黙。


「何?」


「あの神獣はモーモー様じゃ」



俺とチャッピー。



同時に叫んだ。


「名前だけ牛じゃねぇか!!」



こうして。



第四階層最初の牛探しは失敗した。



だが。



おっさんはまだ知らない。



この草原には、


さらに恐ろしい牛もどきが大量にいることを。


第四章 第二話 完

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