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チャッピーと共に  作者: 伝説の男前
第一章 異世界転生したら牢屋の中でした
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第一章 第二話 チャッピーは役に立たない

奴隷として売られる。


人生でそんな経験をするとは思わなかった。


いや。


普通しない。


少なくとも日本ではしない。


俺は揺れる牢車の中で膝を抱えていた。


鉄格子。


縄。


獣臭い囚人たち。


最悪である。


本当に最悪である。


「帰りたい……」


『同感です』


スマホの中からチャッピーが答えた。


「お前は帰る場所あるのか?」


『ありません』


「だろうな」


『ですが異世界勤務は想定外です』


「俺もだよ」


馬車は森の中を進んでいた。


護衛は六人。


全員武装している。


剣。


槍。


弓。


明らかに強そうだ。


俺だけが弱そうだった。


実際弱い。


『現在の生存確率は4.6%です』


「また下がってる!」


『誤差です』


「嫌な誤差だな!」


狼男が呆れた顔でこちらを見た。


最近気づいたが、どうやら俺以外にはチャッピーの声は聞こえていないらしい。


独り言を言っている変なおっさんに見えている。


悲しい。



昼過ぎ。


事件は突然起きた。


森の奥から悲鳴が聞こえた。


続いて矢。


護衛の一人の首に突き刺さった。


「敵襲だ!!」


誰かが叫ぶ。


馬が暴れる。


馬車が止まる。


周囲が一気に騒がしくなる。


俺は固まった。


「何だ何だ何だ!?」


『落ち着いてください』


「落ち着けるか!」


『深呼吸を推奨します』


「今それ必要か!?」


次の瞬間。


巨大な何かが飛び出した。


黒い毛皮。


四本足。


鋭い牙。


体長三メートルはある。


熊だった。


いや。


熊みたいな何かだった。


熊より怖い。


圧倒的に怖い。


「魔物です」


「知ってる!」


護衛たちが迎撃する。


剣が振るわれる。


槍が刺さる。


だが止まらない。


魔物は一人を吹き飛ばした。


木に叩きつけられた男が動かなくなる。


俺は青ざめた。


「無理だろあれ!」


『同意します』


「逃げたい!」


『同意します』


「どうする!?」


『逃げてください』


「どっちへ!?」


数秒の沈黙。


『分かりません』


「役に立たねぇ!」


その時。


魔物が牢車へ突っ込んできた。


轟音。


衝撃。


世界が回る。


牢車が横転した。


俺は鉄格子に顔面から突っ込んだ。


「痛ぁぁぁ!」


気が付くと天地が逆になっていた。


狼男が俺の上に落ちている。


重い。


死ぬほど重い。


「どいて!」


狼男も必死だった。


牢車が壊れ始めている。


木材が軋む。


鉄格子が曲がる。


そして。


バキン。


鍵の部分が壊れた。


扉が開く。


「開いた!?」


『チャンスです』


「珍しく正しい!」


俺は転がるように外へ飛び出した。


護衛たちは戦っている。


誰も俺を見ていない。


逃げるなら今しかない。


「走るぞ!」


『南へ向かってください』


「南どっち!?」


『分かりません』


「お前さぁ!」


俺は適当に走った。


全力で走った。


人生で一番走った。



気付けば森の中だった。


息が切れる。


足が痛い。


肺が焼けるように苦しい。


それでも止まれない。


後ろで木が倒れる音が聞こえる。


魔物かもしれない。


追手かもしれない。


確認する勇気は無かった。


俺はひたすら走った。


そして。


見事に木の根に躓いた。


「うわっ!」


転ぶ。


顔面から落ちる。


泥だらけになる。


最悪だった。


本当に最悪だった。


しかし。


その瞬間。


頭上を何かが通り過ぎた。


矢だった。


もし転んでいなければ。


確実に頭に刺さっていた。


「……」


『……』


「助かった?」


『結果的には』


「転んで助かることあるんだな」


『統計的には稀です』


「俺の人生そういうの多くない?」


『非常に多いです』



夕方。


俺はようやく足を止めた。


周囲は静かだった。


追手もいない。


魔物もいない。


たぶん。


きっと。


おそらく。


「助かったか?」


『たぶん』


「たぶんか」


『たぶんです』


俺は大木にもたれかかった。


全身が痛い。


喉が渇いた。


腹も減った。


何も持っていない。


食料ゼロ。


水ゼロ。


寝床ゼロ。


希望ゼロ。


『現在の生存確率は12.3%です』


「上がった!」


思わず叫んだ。


『奴隷状態から脱出したためです』


「やったな!」


『それでも87.7%で死にます』


「言わなくていい!」


日が沈み始める。


森は暗くなっていく。


不気味な鳴き声が聞こえる。


遠くで何かが吠えている。


明らかに安全ではない。


「なあチャッピー」


『はい』


「俺、生き残れると思う?」


少しだけ沈黙。


珍しく長い沈黙だった。


そして。


『正直に申し上げます』


「おう」


『かなり厳しいです』


「だよな」


『ですが』


「?」


『牛丼を食べるまでは死なない気がします』


俺は笑った。


こんな状況なのに笑ってしまった。


「根拠は?」


『ありません』


「知ってた」


空を見上げる。


異世界の夜空だった。


知らない星が輝いている。


綺麗だった。


少しだけ。


本当に少しだけ。


生きてみようと思った。


『警告』


「ん?」


『右後方三十メートル』


「何?」


『何かいます』


俺は固まった。


茂みが揺れる。


ガサリ。


ガサガサ。


何かが近付いてくる。


「何だよ……」


『分かりません』


「またかよ!」


茂みの奥で赤い目が光った。


一つ。


二つ。


三つ。


四つ。


五つ。


「多くない?」


『非常に多いです』


「逃げるぞ!」


『Run!』


「英語やめろ!」


俺は再び走り出した。


異世界生活二日目。


生きるだけで精一杯だった。


第二話 完

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