第一章 第一話 牛丼特盛と生存確率4.8%(テンプレの回)
異世界転生
スキルなし
貧乏
チャッピー
牛丼への執着
第一話 牛丼特盛と生存確率4.8%
人生というものは、案外あっけなく終わる。
少なくとも俺の場合はそうだった。
四十歳。
バツ一。
独身。
勤続十七年。
課長補佐代理補佐みたいな、何の権限もない肩書きを持つサラリーマン。
夢はない。
希望もない。
貯金は多少ある。
友達は少ない。
髪も少ない。
そしてその日、俺には一つだけ楽しみがあった。
牛丼だ。
しかも特盛。
卵付き。
味噌汁付き。
紅しょうが山盛り。
給料日前に許される最大級の贅沢だった。
会社を出た俺は、スマホで残高を確認しながら歩いていた。
「よし……いけるな」
財布の中には千円札が一枚。
十分だ。
今日は特盛の日だ。
人生には時々、自分を甘やかす日が必要なのである。
俺は満足そうに頷いた。
「明日も仕事だけどな……」
その時だった。
ブレーキ音。
悲鳴。
衝撃。
空が見えた。
青かった。
妙に綺麗だった。
ああ。
牛丼。
食べたかったな。
それが最後の記憶だった。
◇
目が覚めた。
臭い。
最初に感じたのはそれだった。
とにかく臭い。
汗。
獣。
泥。
腐敗臭。
それらが絶妙なバランスで混ざり合い、俺の鼻を攻撃していた。
「うっ……」
目を開く。
暗い。
薄暗い。
石造りの壁。
鉄格子。
藁の敷かれた床。
どう見ても牢屋だった。
俺はしばらく黙っていた。
そして結論を出した。
「誘拐かな」
現実逃避だった。
隣から低い唸り声が聞こえた。
「グルルルル……」
振り向く。
狼の頭をした大男がいた。
俺はもう一度考えた。
「異世界かな」
今度は割と本気だった。
狼男の向こうには緑色の大男。
さらに奥には角の生えた女。
どこをどう見ても人間じゃない。
夢にしてはリアルすぎる。
俺は頭を抱えた。
「マジかよ……」
異世界転生。
最近の若者が好きそうなやつだ。
いや、俺も結構読んでたけど。
読んでたけどさ。
普通もっとこう、
勇者とか。
貴族とか。
王子様とか。
そういうスタートじゃない?
なんで牢屋なんだよ。
しかも縛られてるし。
俺は自分の手首を見る。
縄。
完璧な縄。
自由ゼロ。
「転生特典どこ行った……」
その時だった。
ポケットの中で何かが震えた。
俺は固まった。
「え?」
ポケットを探る。
出てきた。
スマホだった。
見慣れたスマホ。
日本で使っていた俺のスマホ。
「なんで!?」
異世界だぞ?
電波塔あるの?
いや無いだろ。
画面を見る。
当然のように圏外だった。
むしろ圏外表示だけは律儀だった。
その時。
画面が勝手に光った。
文字が表示される。
『こんにちは』
俺は悲鳴を上げた。
「うわあああああっ!?」
狼男もびっくりしていた。
『ChatGPTへようこそ』
「チャットGPT!?」
『はい』
「なんで!?」
『不明です』
「そこは分かれよ!」
『私にも分かりません。チャッピーと呼んで下さい』
頼りない。
異常なほど頼りない。
しかし今はそれでもありがたかった。
異世界で知っている存在が一つだけ現れたのだ。
俺は藁の上に座り込んだ。
「なあ」
『はい』
「助かる方法ある?」
『あります』
俺の目が輝いた。
「マジで?」
『まず現在地を確認します』
「おう」
『分かりません』
「おい」
『世界情勢を確認します』
「おう」
『分かりません』
「おい」
『所持スキルを確認します』
「おう!」
『ありません』
「おい!!」
狼男が迷惑そうな顔をしていた。
俺だってしたいよ。
◇
しばらくしてチャッピーが結論を出した。
『現在の生存確率は4.8%です』
「終わってるじゃねえか!」
『安心してください』
「安心できる要素ある?」
『95.2%の確率で死にます』
「悪化した!」
『訂正します』
「おう」
『安心できません』
「知ってる!」
牢屋の中に俺の叫び声が響いた。
狼男が耳を塞いでいる。
角の女は笑っていた。
緑色の大男は寝ていた。
自由だな、お前ら。
俺は天井を見上げた。
石の天井だった。
神様らしき存在は見当たらない。
「神様」
俺は呟く。
「聞こえてますか」
返事はない。
「転生先、間違えてませんか」
返事はない。
代わりにスマホが震えた。
『その可能性はあります』
「お前に聞いてない」
『申し訳ありません』
「謝るなら何とかしてくれ」
『善処します』
「会社の上司みたいな返事するな」
『善処します』
「聞いてないな?」
その時だった。
外から怒鳴り声が聞こえた。
馬車が止まる。
誰かが鉄格子を叩く。
牢屋全体が揺れる。
狼男が立ち上がった。
緑色の大男も目を開く。
角の女が舌打ちする。
何かが始まるらしい。
俺だけが状況を理解していない。
「チャッピー」
『はい』
「何が起きてると思う?」
数秒の沈黙。
そして。
『大変申し上げにくいのですが』
「うん」
『奴隷として売却される可能性が高いです』
俺はしばらく黙った。
三秒ほど黙った。
そして呟いた。
「牛丼食べたかったなぁ……」
『私も少し興味があります』
「お前味覚ないだろ」
『ありません』
「だろうな」
馬車が再び動き出す。
どこへ向かうのか分からない。
未来も見えない。
金もない。
力もない。
スキルもない。
あるのは壊れかけのスマホだけ。
そして俺はまだ知らない。
この先、
魔王を倒すことも。
王になることも。
世界を救うことも。
全部どうでもよくて、
今の俺に分かることは一つだけだった。
『現在の生存確率は4.7%です』
「下がってるじゃねえか!」
こうして俺の異世界生活は始まった。
最悪の形で。
第一話 完
チャッピーで作った小説です。




