第二章 第五話 作戦会議は嫌いです
翌朝。
第二階層はお通夜状態だった。
大地竜が近付いている。
それだけで空気が重い。
◇
オークは武器を研ぐ。
リザードマンは槍を作る。
子供たちは避難準備。
老人たちは祈る。
◇
俺は。
「帰りたい」
『知っとる』
チャッピーは関西弁だった。
もう驚かない。
◇
その時。
酋長がやって来た。
将軍も来た。
二人とも真剣な顔だった。
嫌な予感しかしない。
◇
案の定。
連行された。
「嫌だ」
『無駄です』
「知ってる」
◇
巨大な広場。
また会議だった。
異世界に来てまで会議に参加するとは思わなかった。
◇
石の机の周りには、
各部族の代表が集まっていた。
オーク。
リザードマン。
ゴブリン。
コボルト。
その他いろいろ。
◇
俺は初めて知った。
第二階層には結構住民がいたらしい。
◇
全員の視線が痛い。
非常に痛い。
◇
酋長が何か話す。
「ブゴォォ!」
将軍も続く。
「シャァァ!」
周囲も頷く。
◇
チャッピーが翻訳する。
『助けてください』
「無理だ」
即答した。
◇
全員が落ち込んだ。
◇
俺も落ち込んだ。
なんで俺が罪悪感を感じるんだ。
◇
その後。
地面に地図が描かれた。
第二階層の地図らしい。
◇
中央に集落。
北に森。
南に川。
西に崖。
東に山。
そして。
『ここ』
チャッピーが指す。
『大地竜』
「近いな」
かなり近かった。
嫌になるほど近かった。
◇
俺は地図を見る。
しばらく見る。
さらに見る。
◇
ふと思った。
「なんでここに住んでるんだ?」
静まり返る。
◇
全員が俺を見る。
やめてほしい。
◇
俺は地図を指差した。
「川沿いの方が良くないか?」
さらに静まり返る。
◇
嫌な予感しかしない。
◇
チャッピーが翻訳する。
◇
数分後。
大騒ぎになった。
「ブゴォ!?」
「シャァァ!?」
「ギャァ!?」
◇
俺は困惑した。
「何だ?」
『誰も考えたことなかったらしい』
「嘘だろ」
『本当です』
◇
どうやら。
代々ここに住んでいたから。
という理由だけだった。
◇
誰も地形を見直していなかった。
◇
俺は頭を抱えた。
「マジか」
『マジです』
◇
結果。
集落の一部を移動。
避難路も整備。
食料倉庫も分散。
◇
みんな感動していた。
◇
俺は理解できなかった。
会社員時代なら普通だった。
◇
避難訓練。
危機管理。
物流整理。
◇
散々やらされた。
◇
しかし。
この世界には無かったらしい。
◇
気付けば。
会議の中心に座らされていた。
◇
俺は嫌だった。
本当に嫌だった。
◇
だが。
皆は違った。
◇
オークたちの目が変わっていた。
リザードマンも変わっていた。
◇
昨日までの
「料理人」
ではない。
◇
今日からは
「頼れる人」
を見る目になっていた。
◇
本人だけが気付いていない。
◇
チャッピーだけが呟く。
『向いてるんちゃう?』
「何が?」
『王様』
「嫌だ」
『知っとる』
◇
その夜。
避難準備は順調だった。
食料も運ばれた。
子供たちも安全地帯へ。
◇
被害はかなり減らせそうだった。
◇
そして。
遠くから地鳴りが響く。
ゴゴゴゴゴゴ……
◇
大地竜はさらに近付いていた。
◇
高台へ登る。
遠くを見る。
◇
巨大な影。
山のような巨体。
歩くたびに大地が揺れる。
◇
俺は呟いた。
「でかいな……」
『でっかいな』
「勝てるか?」
長い沈黙。
◇
チャッピーは計算しているようだった。
珍しく真面目だった。
◇
数十秒後。
答える。
『無理や』
「だよな」
『百回戦って百回負ける』
「だよな」
◇
だが。
その直後。
チャッピーが小さく付け加えた。
『正面からなら』
「ん?」
『運が絡んだら分からん』
◇
俺は嫌な予感がした。
◇
今までの人生。
良い意味でも。
悪い意味でも。
運だけで生き残ってきた。
◇
そして。
大体そういう時は、
ろくでもないことが起きる。
◇
地鳴りが近付く。
夜空が震える。
第二階層の住民たちが息を呑む。
◇
決戦の日は近かった。
◇
そして俺はまだ。
戦う方法を一つも思いついていなかった。
「牛丼食いてぇ……」
『現実逃避やな』
「うるさい」
第二章 第五話 完




