第二章 第四話 なんかでっかいのが来た
人生には三種類の災害がある。
天災。
人災。
そして。
自分には関係ないと思っていた災害である。
今の俺がまさにそれだった。
「なんかでっかいのが来た?」
『来た』
「どれくらい?」
『でっかい』
「雑だな」
『すんごいでっかい』
「東北弁混じってるぞ」
◇
広場は騒然としていた。
オークが走る。
リザードマンが走る。
戦士たちが武器を持つ。
子供たちは避難する。
完全に非常事態だった。
◇
酋長が怒鳴る。
将軍も怒鳴る。
周囲の空気が張り詰める。
◇
俺だけ状況が分からない。
「説明してくれ」
『なんかでっかいの』
「だから雑!」
◇
しばらくして。
俺は高台へ連れて行かれた。
嫌だった。
非常に嫌だった。
こういう時はろくなことがない。
◇
そして。
見えた。
「……」
『……』
「チャッピー」
『はい』
「山が動いてる」
『動いてますね』
遠く。
第二階層の地平線。
そこに巨大な影があった。
◇
山だった。
そうとしか思えなかった。
◇
しかし。
動いている。
ゆっくり。
確実に。
こちらへ向かっている。
◇
俺はしばらく黙った。
現実逃避である。
◇
そして。
「帰りたい」
『同意します』
◇
その時だった。
オークの酋長が現れる。
何か説明している。
必死だった。
◇
チャッピーが翻訳する。
『大地竜』
「おお」
『第二階層最強』
「おお」
『食物連鎖の頂点』
「嫌だな」
『みんな食われる』
「もっと嫌だな」
◇
どうやら。
大地竜というらしい。
数十年に一度目覚める。
◇
起きる。
食う。
壊す。
寝る。
以上。
◇
迷惑極まりない。
◇
リザードマンの将軍も説明する。
「シャァァァ!」
『前回は集落七つ壊滅』
「うわぁ」
『オーク五百匹死亡』
「うわぁ」
『リザードマン三百匹死亡』
「うわぁ」
『牛はいない』
「そこはいい」
◇
その夜。
緊急会議になった。
また会議である。
異世界に来ても会議から逃げられない。
◇
俺は本気で悲しくなった。
「転生した意味ある?」
『微妙ですね』
「否定してくれ」
◇
会議では様々な案が出た。
戦う。
逃げる。
祈る。
隠れる。
全部無理そうだった。
◇
オークの戦士長が胸を叩く。
「ブゴォ!」
『戦う』
リザードマンの隊長も叫ぶ。
「シャァ!」
『戦う』
◇
俺はため息をついた。
「勝てるのか?」
沈黙。
◇
全員が目を逸らした。
◇
勝てないらしい。
◇
チャッピーだけが正直だった。
『無理です』
「即答だな」
『95%死にます』
「高いな!」
◇
そこで。
全員が俺を見る。
嫌な予感しかしない。
◇
俺は首を振った。
「嫌だぞ」
全員が見る。
◇
俺はさらに首を振る。
「本当に嫌だぞ」
全員が見る。
◇
俺は立ち上がった。
「戦えないぞ」
全員が見る。
◇
俺は叫んだ。
「剣使えないぞ!」
全員が見る。
◇
さらに叫ぶ。
「魔法も使えないぞ!」
全員が見る。
◇
最後に。
「料理しかできないぞ!」
その瞬間。
全員の顔が輝いた。
◇
嫌な予感がした。
非常に嫌な予感がした。
◇
チャッピーが小さく呟く。
『あかん』
「何が?」
『みんな期待しとる』
「なんで!?」
『料理で倒せると思っとる』
「無理だろ!」
◇
しかし。
オークも。
リザードマンも。
本気だった。
◇
彼らの目は語っていた。
「この男なら何とかしてくれる」
と。
◇
俺は頭を抱えた。
完全に誤解だった。
◇
その夜。
寝床で横になる。
眠れない。
当然だった。
◇
大地竜。
第二階層最強。
数百人を殺す怪物。
◇
俺。
四十歳。
バツ一。
借金持ち。
牛丼好き。
◇
勝てる要素が一つもない。
◇
チャッピーが静かに言う。
『生存確率17.4%』
「下がったな」
『大地竜込みです』
「そうだろうな」
しばらく沈黙。
◇
そして。
チャッピーが珍しく真面目な声で言った。
『でも』
「ん?」
『今まで全部生き残ってます』
俺は少し笑った。
◇
確かにそうだった。
牢屋。
狼。
野盗。
毒キノコ。
借金。
迷宮。
スケルトン。
戦争。
全部何とかなった。
◇
たぶん。
今回も何とかなる。
根拠はない。
いつも通りだ。
◇
その時だった。
遠くで地鳴りが響く。
ゴゴゴゴゴゴ……
大地が揺れる。
空気が震える。
◇
大地竜が近付いていた。
確実に。
ゆっくりと。
そして絶望的なほど巨大なまま。
「牛丼食うまでは死ねないな……」
『それ一生無理かもしれません』
「縁起でもないこと言うな」
チャッピーは何も答えなかった。
珍しく。
本当に何も答えなかった。
第二章 第四話 完




