第二章 第三話 働きたくない王様候補
人生には関わってはいけないものがある。
借金。
保証人。
そして食糧問題である。
俺はそう思う。
なぜなら。
「なんで俺が会議してるんだ……」
『知らんけど』
チャッピーは今日も役に立たなかった。
◇
巨大な洞窟広場。
中央には大きな石のテーブル。
その周囲には。
オークの酋長。
リザードマンの将軍。
部族長たち。
戦士たち。
長老たち。
そして俺。
◇
完全に場違いだった。
「帰りたい」
『どちらへ?』
「宿屋」
『ありません』
「そうだった」
◇
会議は続く。
当然ながら言葉は分からない。
ブゴブゴ。
シャアシャア。
時々怒鳴る。
時々殴り合う。
平和ではなかった。
◇
俺はチャッピーを見る。
「何話してる?」
『飯がない』
「それは知ってる」
『飯を寄越せ』
「なるほど」
『飯がない』
「それも知ってる」
『飯』
「雑!」
◇
だが。
何となく理解できた。
食料が足りない。
それは本当らしい。
◇
オーク側。
狩りに失敗。
保存食なし。
毎年飢える。
◇
リザードマン側。
魚はいる。
だが保存技術がない。
大量に腐る。
◇
つまり。
双方とも馬鹿だった。
「なんで交換しないんだ?」
静まり返る。
◇
全員が俺を見る。
嫌な予感しかしない。
◇
酋長が首を傾げる。
将軍も首を傾げる。
そして。
何か話し始める。
「ブゴ?」
「シャ?」
◇
チャッピーが翻訳する。
『敵だから』
俺は頭を抱えた。
「小学生か」
『たぶん文化的問題です』
「もっと深刻な言い方しろ」
◇
俺は地面に絵を描いた。
魚。
肉。
矢印。
交換。
以上。
◇
沈黙。
◇
さらに沈黙。
◇
もっと沈黙。
◇
そして。
オークたちが驚く。
リザードマンも驚く。
まるで世界の真理を見た顔だった。
「え?」
『気付いてなかったみたいです』
「嘘だろ」
『本当です』
「嘘だろ」
『本当です』
◇
その日の午後。
試験的な交易が始まった。
オークの肉。
リザードマンの魚。
交換。
以上。
◇
結果。
大成功だった。
◇
みんな喜ぶ。
みんな食べる。
みんな笑う。
「解決したじゃん」
『しましたね』
「俺帰っていい?」
『駄目です』
◇
翌日。
さらに問題が発生した。
今度は保存だった。
◇
肉が腐る。
魚も腐る。
大量に腐る。
◇
オークたちは困る。
リザードマンたちも困る。
◇
俺は思わず言った。
「干せば?」
また静まり返る。
◇
全員が俺を見る。
やめてほしい。
本当にやめてほしい。
◇
その後。
干し肉作りが始まった。
干し魚も始まった。
◇
数日後。
保存期間が劇的に伸びた。
食料不足が改善し始める。
◇
部族たちは大騒ぎだった。
「ブゴォ!」
「シャァァ!」
意味は分からない。
だが。
「天才!」
と言っている気がする。
◇
俺は全力で否定した。
「違う」
『違わんやろ』
「チャッピー!」
『普通思いつかへんで』
「思いつくだろ!」
『思いついてなかったで』
反論できなかった。
◇
夜。
焚き火の前。
俺は肉を焼いていた。
最近こればかりだ。
◇
すると。
オークの子供たちが集まってくる。
リザードマンの子供たちも来る。
みんな笑顔だった。
前より顔色も良い。
◇
俺は少しだけ安心した。
「飯は大事だな」
『せやな』
珍しくまともな返事だった。
◇
その時。
チャッピーが突然震えた。
画面が点滅する。
「おい?」
『んだ』
「また始まった」
『おめぇ』
「誰だよ」
『そったらことより』
「全然分からん」
チャッピーはさらに震える。
そして。
『Warning.』
「英語に逃げた」
『New problem detected.』
「嫌な予感しかしないな」
◇
その瞬間。
遠くで悲鳴が上がった。
◇
戦士たちが走る。
オークも。
リザードマンも。
全員慌てている。
◇
酋長の顔色が変わる。
将軍の顔色も変わる。
◇
俺は嫌な予感しかしなかった。
「何だ?」
チャッピーは沈黙した。
数秒後。
小さく答える。
『食料問題よりもっとやばい』
「具体的に言え」
『なんかでっかいの来た』
「雑だな!」
だが。
その表現は案外正しかった。
◇
第二階層の奥地。
誰も近付かない禁域。
そこから。
巨大な何かが動き始めていた。
◇
そしてそれは。
オークも。
リザードマンも。
戦争を忘れるほど恐れている存在だった。
「なんで俺がいる時に来るんだよ……」
誰も答えてくれなかった。
チャッピーすら。
『知らんけど』
としか言わなかった。
第二章 第三話 完




