マチアスとの対峙
「ロラン・ジュベールの首を取ればマチアス王が褒美をくれるぞ! それに聖女を連れ帰ったら平民でも爵位がもらえる!」
静けさを破る敵の声が響いた。
その言葉が合図となり敵兵は武器を捨て、魔力の攻撃を始めた。一般的な魔力でも束になれば中級の魔法使いと同じ攻撃力がある。
ロランは防御魔法を使い攻撃を凌ぐ。炎の魔法がメインの攻撃はロランの周りを焼き尽くす。
ロランのローブは終わりのない攻撃に燻り始める。
ロランは攻撃を防ぎながらランスロット達の動きを見た。崩れていた山が影の魔法によって復活し侵入しようとする敵兵を迎え撃っている。
その中、ロランは一身に魔法攻撃を受け続けた。敵兵もロランが大魔法使いであると知っている。けれどロランさえ倒せば、この領地もこの国も、魔力のない娘ジゼルも手に入れられると知っているのだ。
ロランを攻撃する敵は、さらに強い魔法を放つ。ロランの姿が見えなくなるほど激しい攻撃。炎が上がり、暗闇が一転し空が焼け、太陽が落ちたようにロランの周りが真っ白になった。ローブは灼熱に焦げ始め、ジゼルが愛するしなやかな髪がちりつく。
(髪を束ねておいて良かった……)
戦いの中でそんなことを考える自分に呆れる。ただ、灼熱の中でもジゼルを思い浮かべると心に涼しい風が吹いた。
(――相手の魔力を放出させたい。だが、あの黒魔法使いは……)
敵の魔力を削るため、ロランは耐えている。その理由はダークネスドラゴンを召喚する回数を減らすためだ。白魔法使い達は強固な防御を張り続け、兵士は協力し合い魔法攻撃を繰り返す。だがそのうち魔力量が低下し、隙が生まれる。それが反撃の時。
圧倒的な力は、代償がある。ロランの魔力が下がれば復活するまでジゼルを守れない。せめて五十%は残さなければならない。そして、この魔力が著しく下がったことを誰にも悟らせるわけにはいかない。
気が遠くなるほどの時間、ロランは魔法攻撃を受けた。
最初こそ強かった敵の魔法が乱れ始める。魔力の低下が見えた。
ロランはすぐさま魔法陣を描きダークネスドラゴンを召喚した。
ダークネスドラゴンを召喚したロランの瞳は燃えている。反撃の時が来た。
「……先ほど、妻をどこかに連れて行くと聞こえたがまさか私がそれを許すと? 随分と舐められているようだな、マチアス!!」
ロランは後方にいる黒魔法使いを指差した。
「ロラン・ジュベール。噂どおり美しい男だな」
後方にいたフードを被った黒魔法使いがフードを外す。真っ赤な短い髪に金色の瞳。顔は整っているがどこか野生的な雰囲気がある。王座に就くために親兄弟を手にかけた男は今、ジゼルを狙っている。
「……警告したにも関わらずここまで来るとは」
ロランは感情を交えず淡々と言う。
一方マチアスはロランを見て金色の瞳が輝いた。狩りに出たら黄金の神獣に出会えたような畏敬の念とそれをこの手で仕留めたいという真逆な感情。
「ダークネスドラゴンを従える大魔法使い……。俺は欲しいものは絶対に手に入れる。ロラン・ジュベールの美しい首と、聖女ジゼル……」
ロランはマチアスの言葉を遮るように片手を上げ呪文を唱え始める。周囲の気圧が変わるほど膨大な魔力がロランを包み、ダークネスドラゴンの体が闇に包まれた。
兵士たちは強烈なプレッシャーに逃げようとし白魔法使いはすぐさま防御魔法でマチアスを守る。マチアスは歓喜の笑を浮かべロランを見た。圧倒的に強い人間に出会えた喜び。
その瞬間ダークネスドラゴンが破壊消滅魔法を繰り出した。
ガガガ、ズッカーン!!
ニコラ一族を消した時の十倍の強さ、強烈なエネルギーがダークネスドラゴンから放出され、敵兵が一瞬で灰になる。それでも防御に特化した白魔法はブルレックの王マチアスをかろうじて守っている。流石にマチアスも顔を顰め隣の黒魔法使いに耳打ちをした。ロランは間髪入れず破壊消滅魔法を唱える。
『ロラン! 想像以上に魔力の消耗が激しい!これで決着をつけるんだ!』
ダークネスドラゴンが叫ぶ。ロランは頷き魔法を放つ。圧倒的な力を示さねばジゼルが狙われる。その意欲さえ削ぐほどの恐怖を与えねばならない!
その瞬間、危険を感じたマチアスは移動魔法で消え、強烈なエネルギーは目の前の全てを消し去った。
それでも有り余るエネルギーはジュベールの防御壁を破壊し国境を越えブルレック王国の街を破壊した。
絶大な力を行使した代償は肉体と精神の限界を超える。
ロランはその場で崩れ落ちた。




