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【5/15 書籍、電子書籍発売】この結婚が終わる時  作者: ねここ
第二章 ロラン・ジュベール

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冷たい月

 辺境に着いたロランは山を越えカパネル王国に侵攻する宿敵ブルレック軍を見て舌打ちした。


 国境に跨る岩で覆われた険しい山肌を敵の魔法使いが攻撃している。両国の往来を閉ざしていた危険な岩が粉々に崩れ、なだらかになった山道を敵兵が駆け下りる。領地は火の海。領地民は逃げ惑い大混乱に陥っていた。


 ロランはランスロット率いる五人の影に領地民を安全な場所に誘導するよう命令を下し、敵の魔力を見極めた。魔法使いの数は十五人、魔力は六十前後、百を超えるポテンシャルがあるロランに比べればその差は歴然。ただ、大きな問題があった。ブルレックの白魔法使いが使う防御魔法が強力なのだ。防御だけに特化した十二人の白魔法使いに、三人の黒魔法使い。


(攻撃主体じゃないのか? バランスが悪い。何かあるかもしれない)


 ロランは黒魔法使いを見つめ警戒レベルを上げる。味方兵はまだ到着していない。

 だが、一刻を争う非常事態、味方を待つ時間は無い。

 ロランは覚悟を決め髪を結んだ。ロランの周囲の空気がピンと張り詰める。


 敵の魔法使い達は大魔法使いの圧に気圧される。息を飲みロランの出方を探りながら防御魔法を強化した。

 

 ロランは山を背に陣形を組んでいる魔法使い達と向き合うように立ち、手始めに炎の攻撃魔法を放った。しかし幾重にも張られた防御魔法がロランの攻撃を弾く。それと同時に敵もロランに攻撃をかけた。


 自らを守りながらの攻撃では敵の防御魔法を壊すことができない。普段はグレアムと共に攻防を行うが一人ではその全てが難しい。

 

 味方が到着しない状況での戦いになった今、ロランはこの戦いの要となる山を見た。敵兵がどんどんと山を駆け下りる姿が見える。今この領地に侵入した敵の数はおおよそ一千。この険しい山の両脇にはジュベールの防御壁があり兵士は侵攻できない。


 侵攻を食い止めるにはこの山を守るしかない。


 ダークネスドラゴンを使い敵ごと山を吹き飛ばすこともできるが、それこそ侵攻を食い止めることはできなくなる。目の前に聳える山が逆にロランの魔法を十分に活かせない状況を生んでいる。


ロランはため息を吐き、領地民を避難させ戻ってきたランスロットに指示をした。


「ランスロット、全ての敵を南東に追い詰めて欲しい。敵の背後に山がある今、ダークネスドラゴンを使えない。だが、南東を背にすればその背後にはジュベールの強力な防御壁がある。できるか?」


ランスロットは頭を下げる。影の魔力は七十以上。ジュベールの精鋭として存在する彼らの能力はロランにとって心強い。


 ランスロット達はまず武器攻撃する兵士達を白魔法使いの周りに移動させるように攻撃を繰り返し、指揮をしている兵士を殺した。指揮官を失った兵士たちは混乱し、陣形を組んでいた白魔法使いの元に集まり出す。白魔法使い達は傾れ込む味方兵に押され、南東に後退し、黒魔法使いは兵士の後方に移動した。


「ランスロット! 引け!! 敵の相手は私がする。その間崩れた山にこれ以上敵が侵入しないよう結界を張り、壁を作るんだ!」


「ですがロラン様お一人にするわけには!!」


「ランスロット! 最優先は山だ!いいから行け!!」


 ランスロットはロランの言葉に仲間と共に山へと走った。


 ロランは敵を見つめる。

 敵の背後にはジュベールの防御壁。ロランは防御を解き敵と向き合った。


 敵兵は大魔法使いの威圧感にたじろぐ。大規模攻撃の前かもしれないと、敵兵も攻撃をやめ身構え、戦場は静けさに包まれた。


 ロランは月を仰ぐ。真っ暗な夜空に青白く輝く月。その冷たさがロランの心に静寂を与えた。

 夜中に近い時間。静けさの中、虫の音が聞こえる。次第にその冷たさが孤独を運ぶ。


 本来なら、ジゼルと肌を合わせ、その温かさに心まで癒され孤独など感じることはなかった。だが今は死と隣り合わせのこの場所で、ここにいない愛しい人を思い浮かべる。


『バジルよ、ダークネスドラゴンの破壊消滅魔法を使いたい。危険なのはわかっている。精神の揺らぎがあればあの時のように全てを壊し尽くしてしまう。だが今の私はそのプレッシャーに耐えられる。だが問題は魔力。あの強靭な防御魔法を吹き飛ばすほどの力がいる』


 ロランはバジルに問いかけた。

 

『ロラン、今お前の魔力は百、破壊消滅は一度にお前の魔力を二十奪う。そして三度が限度だ。それ以上はロラン、お前の魔力は四十を切る。そうなると魔力が復活するまで数ヶ月がかかるだろう。その間思うような魔法が使えない。今後ジゼルを守りたくば二回が限度だ』


 ロランは黙って頷いた。

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