91 原作シナリオを高みの見物しよう! ①
エレノアに続きソフィアと、随分と慌ただしい展開だなと思いながら俺は応じる。
「ソフィアか、久しいな」
「はい! 大樹林で別れてから、再会できるこの瞬間をどれほど待ち望んでいたことでしょう……!」
「ほう」
そういうからには、この短期間にも随分と実力を磨いているのかもしれない。
将来戦う相手として、感心感心。
そんなことを考えていると、エレノアが驚いた様子で会話に割り込んでくる。
「驚いた、クラウスくんとソフィアは既に交流があったのか?」
「あら、エレノアには伝えていなかったでしょうか? 数か月前、ゲートリンクによる襲撃があった日の前夜、クラウス様と初めて出会ったのです」
「む、言われてみれば確かに、君がクラウスくんの名前を口にしていたような……ん? 前夜?」
不意に、何かに気付いたような素振りを見せるエレノア。
その視線がソフィアの左手薬指へと向けられるのを、俺は何気なく追う。
そこには当然、以前俺が渡した【王家一族の指輪】がキラリと輝いていた。
エレノアはぷるぷると、戸惑った様子で口を開く。
「ソ、ソフィア、私の記憶では君がそれを付け始めたのはあの日からだ。ということは、まさか……」
「おや、バレてしまいましたか……こうなっては隠す必要もありませんね。その通りです。こちらはあの日の前夜、クラウス様から頂いたものです」
「なあっ!?」
驚愕の声を上げるエレノア。
耐え切れないとばかりに、そのままソフィアの両肩を掴んだ。
「正気か、ソフィア!? 第一王女ともあろう君が、いったい何を考えている!? そ、それとももしや、王族の間では既に内密で確約されていたりするのか……!?」
「いいえ、残念ながらそれはまだです。私にはまだ、それに応えるだけの資格がありませんから……ですが、私はもう覚悟できていますよ。なにせクラウス様から頂いたのはこれだけではありませんから」
「なんだと?」
ソフィアは慈愛に満ちた笑みを浮かべると、自分の胸に手を当てながら告げる。
「私たちは幾つもの夜を同じ天井の下で過ごし……そして何より、クラウス様はこの身に大切なものを齎してくれましたから」
「な、な、ななっ……」
みるみるうちに顔が真っ赤に染まるエレノア。
「み、未婚の、それも未成年の乙女がそんな……! ふ、不埒な! 破廉恥なー!」
なぜかそんなことを叫びながら、彼女は駆け足でその場を去っていく。
その後ろ姿を眺めたソフィアが「あら? まだ話はここからだったのですが……」と残念そうに呟く。
(二人して、いったい何をそんなに盛り上がっていたんだ?)
首を傾げながら考える。
話の流れからして、ソフィアに渡した【王家一族の指輪】が関係しているのは分かった。
(――っ、そうか!)
そこでようやく、俺の天才的頭脳が答えを弾き出した。
【王家一族の指輪】はソフィア専用の超強力な装備。
恐らくそれがソフィアだけの手に渡ったことに、エレノアは不満を抱いているのだろう。
しかしその点に関しては問題ない。
【王家一族の指輪】を入手した【エルトリア大迷宮】には、エレノア専用の装備も存在する。
今度、どうにかしてそれを入手させてやれば解決することだろう。
そう計画を練っていると、俺の背後に控えていたマリーが、笑みを浮かべたまま静かに前へと出た。
「ソフィア様?」
「あら、マリーさん。ご挨拶が遅れて申し訳ございません。お久しぶり……ど、どうかされたのですか? ご様子が少し……」
「先ほどのお話ですが、同じ天井の下で過ごしたというのは【冥府の大樹林】にて同じ館内で滞在する日があったということ。ご主人様が齎した大切な物とは、教えていただいた魔術のことですよね?」
「え、ええ。もちろん、そのつもりでの発言だったのですが――」
「どうやらエレノア様とすれ違いがあったようです。しっかりと、一から、丁寧に、詳細に、説明差し上げた方がよろしいかと存じます」
「そ、そうですね。マリーさんがそう言うのであれば」
完全に状況を理解できたわけではなさそうだが、マリーの圧に押されこくこくと頷くソフィア。
主人である俺でさえ時折理解しがたい威圧感を放つのがマリーだ。そうなってしまうのも仕方がないだろう。
やがてソフィアはエレノアの後を追おうと踵を返し――
「そうでした、これだけは伝えておかなければ」
――ふと足を止め、こちらへと振り向いた。
「クラウス様、明日の合同授業で私の活躍をご覧ください! クラウス様の期待に応えられるよう頑張ります!」
そう言い残し、去っていくソフィア。
その後ろ姿を見送りながら、俺はいま飛び出した言葉を頭の中で繰り返した。
(合同授業、か)
『アルテナ・ファンタジア』において、その授業は非常に重要な役割を担っている。
俺は明日の訪れるイベントの数々を想像し、にやりと笑みを浮かべるのだった。
◇◆◇
翌日。
合同授業当日。
闘技場には一学年と二学年の全員が集められていた。
授業の内容としては、まず一年同士の模擬戦が行われ、続いて二年同士の模擬戦が行われる。
二年生は一年生の戦う姿を見て刺激を受け、一年生は二年生の実力を見て目標を新たにするといった形で、お互いに刺激を与え合うのが目的だ。
まず二年生は観客席に座ることになり、俺は所定の席へと移動した。
隣にはアリエルと、そしてもう一人――
「き、昨日はすまなかった、クラウスくん。私が勘違いしたばかりに、妙なことを口走ってしまい……」
――顔を赤らめたまま、何やら弁解するエレノアの姿があった。
どうやらあの後ソフィアの説明を受け、自分の失態に気付いたとのことだ。
どんな勘違いをしていたのかは少し気になるが、今の俺にとってはそれ以上に重要なことがある。
俺は真剣な眼差しで舞台袖にいる一年生たちへと視線をやる。
そして――
「――――いた」
ようやく、その人物を見つけることができた。
茶色の髪と瞳を持ち、万人受けする中性的な容姿をした男子生徒。
その名も、ルーク。
まごうことなき『アルテナ・ファンタジア』の主人公にして、やがて俺――ラスボスと相対することになる存在だ。
ようやくその姿を一目できたことに、感動の涙を流しそうになる。
「ご主人様、いかがなされましたか?」
「いや、何でもない」
従者として背後に控えるマリーからの問いにそう返すも、内心は穏やかではなかった。
クラウス・レンフォードに転生してから約半年。ついにこの瞬間がやってきたのだから、感動も一入というものだ。
舞台袖に視線を戻すと、ルークのすぐそばにソフィアの姿も見つけることができた。
(せっかくだ、原作のシナリオを振り返っておくとするか)
この合同授業では、大きく二つのメインイベントが存在する。
その一つこそ、何を隠そう主人公ルークと第一王女ソフィアの決闘である。
元々、王族としてのプライドに満ちた性格だったソフィア。
そんな彼女は入学式当日、平民でありながら特別試験を突破し入学を果たしたルークと、とあるきっかけから揉めることとなる。
偶然にも翌日の合同授業における対戦相手がルークだったことから、そこで決闘を行うことに。
その段階ではソフィアの方が格上だったものの、ルークは油断の隙を突いて勝利。
その敗北をきっかけにソフィアは心機一転し、作中屈指の人格者かつ実力者へと成長することとなる。
同時にルークの存在が学園中に知れ渡り、後に生徒会長候補として立候補するにまで至るという超重要イベントだ。
すなわちこの合同授業はソフィアはもちろん、ルークの成長を語る上でも欠かすことのできない場面。
原作シナリオ通りに遂行してもらう必要があるというわけだ。
「次! ソフィア・フォン・ソルスティア対ルーク!」
原作通りの組み合わせ。
第一王女VS平民という取り合わせに、一年二年関係なく身を乗り出す生徒が続出している。
もっとも、結果を知っている俺だけは優雅に構えていた。
(今回ばかりは俺が手を出すことなく、高みの見物といこうではないか!)
そう考えた俺は、心の中で「はーはっはっは!」と盛大に笑い声を上げる。
しかしこの時の俺は、忘れていた。
既にシナリオは、とんでもない形で変わっていることを――――
◇◆◇
――――数分後。
「勝者、ソフィア・フォン・ソルスティア!」
闘技場内に審判の声が響き渡る。
舞台にはルークが横たわっており、そんな彼を打ち倒したソフィアはというと――
「やりました、クラウス様! 見ていてくれましたか!?」
傷一つない姿のまま、満面の笑みでこちらを向き、大きく手を振っていた。
……………………
――――なんでぇぇぇええええええええ!?
次回は9月10日(木)12時頃、更新予定です。
どうぞこちらへ楽しみにお待ちください!!
そして幾つか告知がございます。
今週、なんと本作の小説版第3巻および、コミックス第1巻が発売となります!
小説版第3巻は9月12日(土)発売予定。
コミックス第1巻は9月11日(金)発売予定となっております。
小説版は早めに並ぶところも多いようなので、11日に両方揃っている書店様も多いと思います!
小説版、コミックス版、ともに最高のクオリティに仕上がっております!
小説版はエレノアとアリエルの嬉しい番外編が(カラーイラスト付き!)、コミックス版は村上メイシ先生による嬉しいおまけ要素が満載となっております!
紙版、電子版、どちらでも嬉しいのでぜひお手にとっていただけると幸いです!!




