84 原点を極めよう!
再会直後、険悪な関係だったはずのリーゼロッテの口から飛び出してきたのは、まさかの称賛の声だった。
……いやいや、意味が分からない!
なぜなら今回、俺は一切何もしていないからだ。
他者を経由して運命の強制力から逃れようとしたり、逆に意図的に善行を施したり、そうやって創意工夫を凝らしながら悪評を広めようとしてきたこれまでとは違う。
リーゼロッテとクラウスの関係性は、俺がこの体に転生する前の時点で既に完成していた話だ。そこに俺が手を入れたことなど、指の先ほども存在しない。
なのに、どうして今回も称賛されなければならないんだ!
なんで……
(なんでこうなったぁぁぁあああああ!)
俺はあまりの不遇さに思わず涙を流しながら、心の中でそう叫ぶのだった。
――――そこからしばらくの記憶はない。
◇◆◇
「お兄様、一緒にお茶をいただきましょう!」
「お兄様、鍛錬をご一緒してもよろしいですか?」
「お兄様、ぜひお兄様の素晴らしい執務を近くで見学させてください! 領主代理を任される身として、学べることがたくさんありますので!」
「――――――はっ!」
ショックのあまり朦朧としながら活動すること約一週間。
執務室にて、俺はようやく完全な意識を取り戻した。
……なんだ、これは。
一週間分の記憶を手繰り寄せると、隣には常にリーゼロッテがいた。
なぜか彼女はこちらに懐いているようで、失った時間を取り戻すとでも言わんばかりに、事あるごとに俺のそばへとやって来ていたのだ。
それに対して俺もほぼ無意識に応対していたようで、振り返ってみると比較的仲の良い兄妹のような生活を送ってしまっていた。
しかもそうこうしているうちに、王都に出発する前日になっていた。
「まずいぞ……このままでは本格的にまずい!」
思わず机を叩く。
そもそもリーゼロッテを呼び戻したのは、自分の不在時にクラウスの悪評を広めてもらうためだ。
だが、このままでは逆に良い評判が広まってしまいかねない。
実際ここ一週間、館内では仲睦まじく過ごすクラウスとリーゼロッテを見て、微笑ましい視線を向けてくる者たちばかりだったからだ。
使用人たちはもちろん、オリヴァーまでもが「それでこそクラウス様でございます」などと目を細める始末。
かつての険悪な二人を知っている者ほど、その傾向は顕著だった。
――なんて最悪な事態だ。ほとんど意識を失ってしまっていたのが痛すぎる!
この状況をひっくり返すチャンスがあるとすれば、明日のみ。
しかし今の自分に一体何ができるというのか。
下手なことをすれば、またどこかの誰かに深読みされ評判が上がりかねない。
これまでそのパターンを何度繰り返してきたことか。
俺は腕を組み、しばし深く考え込む。
(……そうだ)
やがて、一つの答えが形を成した。
これまで俺は様々な工夫を凝らしてきたが、そのどれもが最終的には裏目に出ることばかりだった。
ならばいっそ、発想を根本から変えてやろう。
工夫するのをやめる。読まれることを前提に動くのをやめる。
あえての、純粋な悪事を行うという原点回帰――否、それを遥かに凌駕する原点極致に至るとしよう!
「よし、そうと決まれば――」
俺は心の中で「はーはっはっは!」と高らかに笑いながら席を立つ。
そして自室で気持ちよさそうに眠っていたミリカトルを強制的に叩き起こし、計画の実現に向けて動き出すのだった。
次回は8月29日(土)12時頃、更新予定です。
どうぞ楽しみにお待ちください!!
それから本作のコミカライズ版が、現在ガンガンONLINE様にて連載中となっております。
村上メイシ先生の手によって最高のクオリティに仕上げていただいているので、楽しめること間違いなしです!
この機会にぜひご一読ください!




