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ゲーム世界のモブ悪役に転生したのでラスボスを目指してみた 〜なぜか歴代最高の名君と崇められているんですが、誰か理由を教えてください!〜  作者: 八又ナガト
第四章 王立学園編

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80 託された役割【クロード視点】

 クラウスが出発した、たった数時間後。

 領主が暮らす城の医務室で、彼――クロード・ローズミストは目を覚ました。


「ここは……うっ」


 鈍い頭痛に思わず手を当てる。

 しかし実際に体を確かめてみると、大した怪我は負っていなかった。

 全身の節々に疲労感はあるものの、決して動けないほどではない。


「どうして私が無事なのだ……?」


 覚えているのは、マルコヴァールに逆らった罰として捕らえられ、上位機の核とされるところまでだ。

 上位機が敗北すれば死。そうでなくても魔力を根こそぎ搾り取られ、衰弱状態となることは覚悟していた。

 それなのに、なぜ自分はこうして目を覚ましているのか。


 答えの出ない疑問を抱えたまま呆然としていると、突如して医務室の扉が開く。


「目が覚めましたか」


「貴方は……」


 姿を現したのは、精悍な顔立ちに知性的な眼差しが印象的な貴族の男性だった。

 その顔には見覚えがある。国王の懐刀とも称される、ウィンダム侯爵だ。


「ウィンダム侯爵……?」


「ええ。お久しぶりですね、クロード殿。ご無事なようで何よりです。さっそくですが、これまでの経緯をお伝えしましょう」


 椅子に腰を下ろしたウィンダムは、穏やかな口調でこれまでの経緯を語り始めた。


 その内容は、クロードの予想をはるかに超えるものだった。


 マルコヴァールがクラウスたちを狙って仕掛けた襲撃は完膚なきまでに打ち砕かれ、クロードの身も配下の手によって怪我一つなく救われた。

 さらに複数の貴族がレンフォード領への侵攻を試みるも、こちらもことごとく失敗に終わった。

 そして今この城は、その他にも様々な偉業を成し遂げた新たな領主――クラウス・レンフォードの管轄下に置かれているという。


「そんなことが……!」


 驚愕に、クロードは思わず身を乗り出した。


 クラウスの実力については噂で耳にしていた。

 しかし魔導騎兵を自ら開発してきた身として、それがどれほどの力を要するものかは誰よりよく分かっている。

 上位機や量産機を含め、その全てを無力化するなど、にわかには信じがたかった。


 それでも――


(良かった……)


 クロードの胸の奥から、静かな安堵が広がっていく。

 魔導騎兵は誰かを傷つけるためではなく、この地に暮らす人々を守るために造ったのだ。

 マルコヴァールの野望を打ち砕いてくれたクラウスへ感謝の念を抱いていると、ウィンダムが静かに切り出した。


「そんな貴方に、伝えなければならない大切なことがあります」


「っ」


 思わず身が強張る。

 経緯はどうあれ、自分がクラウスや王女ソフィアを襲ったのは事実だ。

 どのような罰が下されようと、甘んじて受け入れるつもりだった。


 しかし、続けてウィンダムの口から告げられた言葉はあまりにも信じがたい内容だった。


「帰還したレンフォード卿より、貴方がこの地の領主代理として任命されました」


「……は?」


 瞬間、クロードの思考が止まった。

 ウィンダムの言葉の意味を理解しようと努めるも、しばらくの間、言葉が出てこなかった。


「……それは、どういう意味でしょうか?」


「言葉の通りです。レンフォード卿は帰り際、貴方をこの地の領主代理に指名されました」


「そんな、それは……私にはできかねます」


 クロードは首を横に振った。

 自分のような者が領主代理など、できるはずがない。


 そもそもローズミスト家とは何か。百年以上前にこの大領地を治めていたものの、家臣であったマルコヴァール家の策略によって統治権を奪われた、愚かな一族だ。

 再びこの地を治める資格などあるはずがない。


 それに、顔を合わせたことすらない人物が、なぜ自分に任せると言ったのか。

 そんなクロードの疑問を見透かしたように、ウィンダムは口の端をわずかに上げた。


「言付けはそれだけではございません。今回捕らえられ、旧マルコヴァール領内での処分が決定した貴族についての扱いは、レンフォード卿より貴方に一任されました……これがどういうことか、分かりますね?」


「……まさか」


「ええ、その通りです」


 ウィンダムの静かな頷きに、クロードは息を呑んだ。


 クラウスにとって、自身の領地を襲おうとした貴族の処分は最優先事項のはず。

 にもかかわらずその役目をクロードに任せるなど、思い当たる理由は一つしか存在しない。


 そう、これは試練なのだ。

 大変極まりない罪を犯した者たちをどう扱うか。その判断を通じて、クロードという人間の資質そのものを試されているに違いない。


 だが、それが分かったところで理解できない点がある。


「しかし……なぜレンフォード卿は私にそのような機会を? このような大役を任せる理由が、私には思い当たりません」


「簡単なことですよ」


 ウィンダムは続ける。

 クラウスはクロードが――否、ローズミスト家が抱える過去を理解した上で、その罪悪感を拭うためにこの任務を与えたのだと。


 それを聞いたクロードは、これまでで一番の衝撃を受けた。


「そんなことがありえるのですか……! ローズミスト家の過去を知っている者など、王家と領内の貴族合わせても極僅かだけだというのに……」


「もちろんです。なにせレンフォード卿は偉大なる策略家。過去にもマルコヴァールの狙いをことごとく看破し打破してきたのに加え、様々な奇跡を当然のように成し遂げてこられた方ですから」


「伝わってくる噂は、全て本当だったのか……」


 衝撃が、波のようにクロードの胸を打つ。

 一度も顔を合わせていない自分の内情まで見抜き、必要な試練を与えてくれる。

 そんな人物が本当に存在するとは信じがたかった。



 しばしの沈黙の後、クロードはゆっくりと顔を上げた。

 これだけお膳立てされて応じないなど、一貴族として、一男として恥だ。

 それに――もう一つ、胸の奥にある理由があった。


 クロードには夢があった。

 黒髪という理由だけで、生まれたばかりの頃に辺境の孤児院へ預けざるを得なかった妹。

 いつの日か彼女を呼び戻し、家族として共に暮らすという夢。


 マルコヴァールがいなくなった今なら、それも叶えられるかもしれない。

 もっともそれは、自分の為すべきことを全て為してからの話だ。


(……クロエ、少しだけ待っていてくれ)


 心の中でそう呟き、クロードは目を細める。

 溢れそうになる涙を堪えながら、クロードはウィンダムに向き直った。


「……お受けします。不束者ですが、精一杯務めさせていただきます」


「それがよいでしょう。レンフォード卿もきっと、そう望んでいるはずです」


 ウィンダムの言葉を背に受けながら、クロードは深く息を吐いた。


 クラウス・レンフォードという人物に、まだ会ったことすらない。

 それでも今この瞬間、彼への深い感謝と尊敬が、クロードの胸に確かに根を張るのだった。

次回は8月22日(土)12時頃、更新予定です。

どうぞ楽しみにお待ちください!!


それから本作のコミカライズ版が、現在ガンガンONLINE様にて連載中となっております。

村上メイシ先生の手によって最高のクオリティに仕上げていただいているので、楽しめること間違いなしです!

この機会にぜひご一読ください!

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