76 エピローグ
『――というわけで、魔物や魔導騎兵には圧倒、そなたの慧眼あって地核竜も無事に討伐でき、戦意を失った敵も全員捕えた。文句なしの完全勝利じゃ!』
ミリカトルからの伝達魔術を聞き、おおっと沸く騎士やエルフたち。
レンフォード領の領民ではない彼らだが、同時進行で襲撃していたマルコヴァールには怒りを覚えており、それが完璧に防がれた事実に歓喜していた。
一方、俺だけは――
(いや、なんでそんなことになってるんだ!?)
新兵器は本来、圧倒的火力で領民たちを恐怖のどん底に陥れるためのもの。
俺一人では管理できる範囲に限界があるし、信頼できる部下に任せて使ってもらうつもりだったのだが……なぜか地核竜とかいう聞いたこともない魔物を倒すために作ったとか勘違いされてるんだけど!?
(待て待て、そもそも何でミリカトルたちは襲撃を予測して準備できたんだ? 俺だって知ったのは今なのに……)
そんなことを考えていると、新たに青色の鳥が飛んでくる。
伝達魔術の差出人はウィンダムであり、『レンフォード卿の指示通り、情報を集めてオリヴァー様に報告いたしました。なんとかお眼鏡にかなったでしょうか』などとのたまった。
何を言っているのか理解不能だが、どうやらウィンダムが余計な事をしでかしたらしい。
さらに、
『捕えた者たちから聞き出したところ、同時にマルコヴァール卿も攻撃を仕掛けているようですが、レンフォード卿なら問題なく解決していることでしょう。そこで、今回の一件については既に陛下へと報告させていただきました!』
「――は?」
勝手に何をやってるんだというのと、嫌な予感が同時に襲い掛かってくる。
これまでの経験上、こういう予感だけは決まって俺を裏切ることはない。
その証拠に、再び伝達魔術が俺――ではなくソフィアのもとに飛んできて、その口を開く。
そこから聞こえてきたのは外でもない、国王アルデンの声だった。
『話は全て聞かせてもらったぞ、クラウス・レンフォード! まさか其方がこれほど……これほどまでの傑物であったとは! 【冥府の大樹林】の開拓、気高きエルフ族との交流、『幻影の手』を壊滅させたうえでマルコヴァールとの繋がりを明らかにし、さらには我が国を滅ぼしかねない複数の兵器の無力化……このようなことは他の誰も成し遂げなかったであろう!』
……いや、待て待て待て。
大樹林の開拓って何だ? 俺はただ自然破壊を楽しんでいただけだ。
それにエルフ族との交流だって、強制的に配下に加えて割に合わない仕事を押し付けていただけで、彼女たちと国との関係を悪化させるもの。
どちらも褒められる謂れはない。
強いて言えば『幻影の手』を滅ぼしたことだけは大きな失敗だが――
「というか、待て。そこまでならともかく、なんで今の戦いについても知っているんだ?」
「もちろんたった今、私が報告させていただいたからです!」
直後、得意げに胸を張りながらソフィアがそう答えてくる。
伝達魔術が俺ではなく彼女に届いたことから考えても、確かにそう考えるのが自然だった。
(余計なことを……いや、待て。ってことは今のはあくまでソフィアの報告に対する返答なのか? だったらまだ、ウィンダムの分が――)
嫌な予感は収まることなく、さらに膨れ上がる。
――そしてやはりと言うべきか、もう一羽の鳥が飛んできて、今度は俺の腕に止まった。
(これはまずい!)
この伝達魔術を聞いてはならない。
そう確信し破壊を試みようとするも、それよりも早く鳥は口を開いた。
『なんとっ! さらにマルコヴァール領からレンフォード領への襲撃を食い止めてみたというのか!? それも其方を除く人材だけで成し遂げるとは、なんたる偉勲! 決まりだ! マルコヴァールが大罪を犯した今、領地を引き続く存在が必要だが其方に任せよう! それだけの優秀な人材を抱える其方であれば領地が増えても問題ないであろう! ……いや、一つだけあったな。抱える領地に応じた格は必須。よって其方へ新たに侯爵の爵位を与えるものとする!』
「ま――」
「「「うぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!!!」」」
俺が静止を試みるよりも早く、辺り一帯に歓声が沸いた。
「この短期間で立て続けの陞爵……やはり、私の見る目は間違っていませんでした」
「はい、さすがはご主人様です」
「これだけの偉大な人物に仕えられるなど……これ以上の幸福はありません、我が主!」
「うむ。それにクラウス殿がこの地の領主となるのであれば、大樹林を任された私たちともより深く交流し発展していけるであろう」
ソフィア、マリー、リンシア、セディーア。
そして他の者たちも例外なく、全員が盛り上がり始める。
なんと否定しようと試みるも――
「「「侯爵! 侯爵! 侯爵! 侯爵!」」」
この場にいる全員が一丸となって、侯爵コールを始め出す。
それを聞きながら、俺は歯をギリギリと噛み締めた。
くそっ、くそっ、くそっ!
【冥府の大樹林】に来てからの俺がいったい何をしたって言うんだ!
資源豊富な森に魔術を放って燃やし尽くしたり!
希少な種族に面倒な森の管理や汚れ仕事を押し付けたり!
ちょっとゲームに登場した中ボスを脅して配下に加え、悪逆非道の限りを尽くそうとしただけなのに!
何でこうなったぁぁぁぁぁあああああ!!!
俺は歓声の中で、シクシクと涙を流すのだった。
『第三章 冥府の大樹林編』 完
これにて『第三章 冥府の大樹林編』完結です!
ここまでお読みいただきありがとうございます!
次の『第四章 王立学園編』は一週間ほどお休みをいただき、8月15日(土)から開始予定となります!
それから本作のコミカライズ版が、現在ガンガンONLINE様にて連載中となっております。
村上メイシ先生の手によって最高のクオリティに仕上げていただいているので、楽しめること間違いなしです!
第四章開始までの期間にぜひご一読ください!
引き続きどうぞよろしくお願いいたします!!




