70 聖地巡礼しよう!
エルフ族に大樹林の管理権を無理やり押し付け、悠々自適に余暇を堪能し始めてからしばらく経った頃。
諜報部隊に所属するリンシアという金髪セミロングのエルフから報告したいことがあるとのことだったので執務室に通すと、彼女は俺の前にさっと跪いた。
「我が主に重大な報告がございます」
「言ってみろ」
俺の命令によってしたくもない汚れ仕事をさせられているにもかかわらず、呼び方や口調を取り繕えている姿に感心しながら先に促す(なぜマスター呼びなのかは不明だが)。
するとリンシアはコクリと頷いた。
「我が主の命に従いマルコヴァール辺境伯の近辺を調べていたところ、非常に怪しい地下空間が発見されたのです」
なんでもリンシアいわく、マルコヴァールが暮らす城の地下には巨大な空間が広がっており、そこには魔石で作られた巨大な人形が幾つも並んでいたとのこと。
発見に至る経緯として、ここ数日マルコヴァールは一部の側近以外に隠しながら度々その空間に足を踏み入れ、怪しい動きを見せていた。
そんなマルコヴァールの姿に最大限警戒しながら張り込みをしているシンシアたちは、警備の隙をつき、昨日初めて中の様子を確認できた。
その結果、中に巨大な人形が幾つも並んでいるという不可解な光景を目撃するも、その目的までを看破するには至らず一旦俺への報告に来たとのことだった。
「巨大な人形か……」
その正体には心当たりがあった。
十中八九、魔導騎兵のことを言っているのだろう。
マルコヴァールはゲームにも登場したキャラクターであり、ボスとして現れた際は魔導騎兵を使っていたのだ。
城の地下空間で開発していたというのは初耳であり、なかなか興味深い。
しかし、ここでふと俺は諜報部隊にマルコヴァールの情報を集めるように言った理由を思い出す。
(俺が欲しいのは、マルコヴァールを配下にするための脅……説得に使える情報だ。魔導騎兵そのものはただの保有兵力に過ぎないため、領民を守るために開発したと言われれば説得材料としては弱いかもしれん)
これだけでは、『幻影の手』のような強力な手札には及ばない。
別の弱みを見つける必要があるのは間違いないだろう。
(とはいえ、だ。せっかく得た情報を利用しないというのももったいない)
ゲームでは、戦闘シーンでしか魔導騎兵を見ることがなかった。
開発中の光景がどのようなものか気になるのは、ゲーマーとして仕方ないだろう。
初めて王都に滞在した時も同じ理由で街中を散策したことを思い出しながら、俺はリンシアに向かって告げる。
「なかなか興味深い情報であった。あとはこちらで上手く活用させてもらおう」
「っ! 我が主のお力になれたこと、心より嬉しく思います!」
エルフ族らしい長い両耳をピクピクと動かしながら、満面の笑みを浮かべるリンシア。
俺としてはただ『アルテナ・ファンタジア』に関連する聖地巡礼に行こうと思っただけで、何かを勘違いしているようにしか見えないが……
わざわざ訂正してやる必要も特にはないだろう。
その後、俺は少しこの場を離れるとリンシアに伝えた後、一人マルコヴァールが暮らす城へ向かうことにしたのだった。
◇◆◇
リンシアの報告をもとに、俺は軽快しながらマルコヴァール城の地下空間へと向かった。
しかし、
「ふむ。思ったよりもすんなり侵入できたな」
事前に聞いていた話と異なり見張りの数は少なく、地下空間の存在さえ知っていれば呆気なく入ることができた。
俺は侵入用の魔術を使えないため、最悪力づくで突破しようと考えていたのだが、そうせずに済んだ。
そんなことを考えつつ、内部の様子を窺う。
するとこちらも報告とは大きく異なり、この場にあるはずの魔導騎兵が見当たらなかった。
人が全くいないせいもあるが、ガラーンとした物寂しい雰囲気が漂っている。
「いったいどうなってるんだ……?」
顔を隠していたフードを外し(隠密用の魔術は継続中)、中を散策する。
どこをどう見ても大量の魔導騎兵があるようには見えない。
「はっ! まさか、ここに俺を誘い込んで闇討ちするために、嘘の情報を教えられたのか!?」
俺がマリーやリンシアたち諜報部隊にしてきた数々の残虐非道を思い返せば、そうだったとしても全く不思議ではない。
いったいどのようにして仕掛けてくるのかと内心ワクワクしながら待つも、残念ながらその瞬間が訪れることはなく――
その代わり、俺は《《それ》》を見つけることとなった。
「これ、は……」
地下空間の最奥に待ち構えていたのは、紛れもなく俺が探していた魔導騎兵そのものだった。
薄暗い照明の中、全高約10メートルの、魔石によって構成された巨大な姿が浮かび上がる。
頭部は古代の騎士を思わせる形状で、重厚な装甲に覆われた体は圧倒的な威圧感を放っていた。
特に目を引くのは胸元の半球状の透明なコクピットで、中には一人分の座席と操作盤らしきものが設置されている。
そんな一体の魔導騎兵を前にし、俺は自身の体が震えるのを抑えきれなかった。
「間違いない! これは、『アルテナ・ファンタジア』にも登場した特別機だ!」
そう。なにせこの魔導騎兵には見覚えがあったから。
興奮冷めやらぬ中、俺は『アルテナ・ファンタジア』屈指の感動シーンを思い出す。
そのシーンについて語るには、まずある一人のメインヒロインについて振り返らなければならない。
そのメインヒロインとはずばり、クロエ・ローズミスト――メインヒロインの中で唯一、黒髪持ちの少女である。
差別や偏見と戦っていくストーリーは各ルートの中でも特に重たい内容となっており、その分だけ深みのあるシナリオだった。
そしてそんなクロエルートでは、何を隠そうマルコヴァール辺境伯が中ボスとして立ちはだかることとなる。
彼と敵対する中で、必然的に魔導騎兵とも戦う羽目になるわけだ。
ここで少し、クロエ・ローズミストというヒロインの境遇についても少し触れるとしよう。
クロエの両親は既にこの世にいない。
父親が年若くなくなったことで、彼女の兄であるクロード・ローズミストが家督を継ぎ、さらにその半年後には母親もクロエの出産と同時に命を落とした。
さらに、生まれたクロエの髪はなんと黒色であり、黒髪持ちを嫌悪するマルコヴァール領で妹が満足に生きていくことはできないとクロードは判断。
彼は母親と一緒に赤ん坊も死産したと説明した後、クロエを孤児院に預けた過去を持つ。
いつの日か、共に暮らせるようになる日を信じて――
しかしクロエルート終盤、クロードはマルコヴァールに特別機の核として使われ、クロエと敵対することになる。
戦闘の結果、クロードは死亡。
死に際、クロエとクロードが最後に兄妹の言葉を交わすシーンは名シーンとして有名だった。
「俺だって、あのシーンには何回も泣かされたからな」
思い出すだけで、鼻奥が痛くなってくる。
そしてそんな感動エピソードは、この魔導騎兵によって生み出されたといっても過言ではなく――
そわっ
瞬間、ある発想と共に俺の体がうずく。
俺は周囲に人影がないのを確認し、ある決意を固めるのだった。
本日からしばらく、火・木・土・日の週4日更新の予定です。
それから本作のコミカライズ版が、現在ガンガンONLINE様にて連載中となっております。
村上メイシ先生の手によって最高のクオリティに仕上げていただいているので、楽しめること間違いなしです!
どうぞよろしくお願いいたします!




