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ゲーム世界のモブ悪役に転生したのでラスボスを目指してみた 〜なぜか歴代最高の名君と崇められているんですが、誰か理由を教えてください!〜  作者: 八又ナガト
第三章 冥府の大樹林編

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69 苦難と決断【マルコヴァール視点】

大変長らくお待たせいたしました。

本日から『モブ悪役』連載再開となります。

いきなり敵視点からで申し訳ありませんが、どうぞよろしくお願いいたします!

「なぜだ……いったいなぜ、このようなことになっている!?」


 クラウスの行いによってセディーアたちが歓喜している一方。

 この地を支配するマルコヴァール辺境伯は、自身にとって良くない方向に状況が変わり続ける続けている事実に苦悩していた。


 全ての始まりは、ウィンダム侯爵の当主就任10周年パーティーまで遡る。

 あの日、本来であればマルコヴァールは『幻影の手』を使い、国王の懐刀とも名高いウィンダムを処分するつもりでいた。

 近い将来にソルスティア王国を転覆させ、新たなる国家を作り出すという計画の邪魔になる可能性が高いからだ。


 しかし、慎重に事を進めていたにもかかわらず、驚くことにウィンダムは完璧な対応で被害を最小に抑えてみせた。

 なんとか極刑だけは免れたものの、強く関与を疑われたマルコヴァールは議会での発言権を失う羽目になった。


 いったい、どこから情報が漏れたのか――


 苛立ちと疑問に苛まれるマルコヴァールのもとに、続けて一つ命が下されることとなる。

 その内容は、クラウス・レンフォードに【冥府の大樹林】の開拓を命じるため、その拠点として領地の一部を貸し出せというものだった。


「そうだ……クラウス・レンフォード……奴が現れたことで、何もかもが狂い始めたのだ……」


 マルコヴァールは思わず、憎々しいと言わんばかりの声色で小さくそう呟く。


 クラウス・レンフォードとは、マルコヴァール領と隣接する領地であるレンフォード領の現領主。

 両親を事故で失ったことにより、まだ王立学園に通う年齢で当主を任されることになった若輩者だ。

 両親に似た無能だという噂はマルコヴァールのもとにも聞こえており、レンフォード領自体が資源に乏しい土地ということもあり放置していた。


 しかしここ最近、彼にまつわる噂話には変化が起こり始めていた。

 何でも以前とは打って変わったかのように善政を行うようになり、領民からの評価が好転。

 さらに、どのような手段を用いたのか領内の収穫物が激増し、特産品が生まれたことによってマルコヴァール領を含む周辺地域から移住者が出るほど。

 そして驚くことに、本人の武力的にも申し分なく、なんと単独で魔王軍幹部を二人も討伐してみせたという。


 とても信じがたい眉唾物の情報の数々だが、国王直々に【冥府の大樹林】という広大な領地の管理を任されたという事実からも、それが本当である可能性は高い。

 しかしマルコヴァールにとって、その命令はとても素直に頷けるものではなかった。

 【冥府の大樹林】には彼の配下である『幻影の手』が拠点を作っており、マルコヴァールにとって非常に都合のいい土地だからだ。


 加え、クラウス襲来とほとんど時を同じくして、希少種であるエルフ族が発見される。

 彼女たちを支配下に置けば優秀な部下となる他、場合によっては関わりのある貴族に高値で売ることも可能。

 クラウスたちが大樹林の厳しい環境に困惑しているうちにエルフ族を捕え、『幻影の手』の拠点を変えよう――マルコヴァールはそう考えていた。


 しかし、その計画が達成されることはなかった。

 なぜか? エルフ族を追っていたはずの『幻影の手』から、突如として報告が途絶えたからだ。

 数日後、奇跡的に生還できたという魔族の部下から聞いた話によると、襲撃中に強力な炎魔術が放たれ自分たちを焼き尽くしたのだという。

 そしてそれは、【冥府の大樹林】開拓のためクラウスが使用していた魔術と同じものだったという話だった。


 すなわち、奴は驚くことに秘密裏に動いていた『幻影の手』の狙いを看破した上で無力化してみせたのだ。

 それはまるで、先日の当主就任10周年パーティーを彷彿とさせるような手際の良さ。

 彼と共にこの地へ訪れたウィンダム侯爵とも親しげに話していたという報告もあることから、マルコヴァールはあの日の裏にもクラウスがいたのだと推察し、怒りに打ち震えた。

 自分の部下たちに思い入れがあったわけではないが、貴重な手駒を失うことだけは避けたかったからだ。



 マルコヴァールにとっての屈辱は続く。

 『幻影の手』が滅んだあと、なんと【冥府の大樹林】の管理権がクラウスからエルフ族に明け渡されたのだ。


 エルフは他種族の下につくことを嫌っているはずだったが、これまたどのような手段を用いてか見事に配下へ加えることに成功。

 彼女たちは喜んでクラウスの命令を聞き、日に日に発展を遂げていることが明らかとなった。

 さらに憎たらしいのが、エルフ族という秘匿すべき存在を支配下に置いたことを隠しもせず、当たり前のように大樹林の管理を任せたと周知していたこと。

 それを知った領地の人々は、マルコヴァールではなく他領の領主の手によってそれが実現したと知り、マルコヴァールへの支持が失われつつあった。


 そしてそれは領地内の貴族間でも同じで、城にいる際にも針のむしろに座る気持ちが続いており――


「クラウス・レンフォード……貴様さえいなければ、このようなことにはなっていなかった。憎きウィンダムどもを処分し、エルフ族を支配下に加え、《《あのお方》》からの覚えもよくなったというのに……」


 これ以上この状況が続くことはマルコヴァールが所属する陣営にとって――そして何より、彼のプライドが許せることではなかった。

 今すぐに奴を処分しなければ気が済まない。

 マルコヴァールの頭の中は苛立ちに支配されつつあった。


(そうだ。あのような不届き者が存在することを、これ以上許すわけにはいかない……奴を処分することこそ、今の私にできる最大の貢献なのだ)


 自身の感情を大義に置き換え、マルコヴァールは決心する。

 『幻影の手』という貴重な駒は失ったが、彼が抱えている戦力は決してそれだけではない。


「――――決まりだな」


 マルコヴァールは、現状を打破するため一つの決意を固めた。



 ◇◆◇



 数十分後。

 信頼のおける数名の騎士だけを連れたマルコヴァールは、城内の隠し通路と隠し階段を幾つも通った末、広大な地下室へと辿り着いた。


 この地下室は巨大な魔導工房となっており、一部の貴族にしか知られていない。

 そんな秘密の空間では現在、とある兵器――魔導機兵ゴーレムの開発が行われていた。


 そして今、マルコヴァールの目の前に並ぶのは、数十年の年月をかけて生み出された百体を超える魔導機兵ゴーレムたち。

 そのほとんどが量産機だが、なんと一体につきBランク魔物に匹敵する実力を発揮する。

 これだけでも非常に優秀な戦力になることは間違いないが、彼は首を横に振る。


「魔王軍幹部を討伐したという噂が本当であれば、この程度の量産機がいくらあろうと奴には通用しないであろう」


 今求めているのは、数ではなく質。

 その点、この場所には二つほど適した個体が存在していた。


 一つは長年蓄えた膨大な魔力によって、魔王軍幹部にも匹敵する力を発揮する上位機エクストラ

 そして、さらにそれを上回る現在開発中の特別機スペシャル・ワンだ。


 量産機と異なる点は、事前に大量の魔力を溜めておく必要がある他、核に生きた人間を必要するという点。

 面倒な過程は多々あるが、それだけの力を秘めていることは間違いない。

 特別機スペシャル・ワンは完成まであと一年近く要する見込みで、現時点ではまだ魔力効率に課題があるため今回は使用できないが……上位機エクストラでも十分に通用するだろう。


「それに、隠し玉はそれだけではないのだからな……」


 ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべながら、マルコヴァールは脳内で目算を立て始める。

 今の彼には上位機エクストラの他、それに匹敵する手駒が存在する。

 上位機エクストラだけでも事足りる計算だが、それが難しかった場合の保険もしっかりあるというわけだ。

 貴族社会を長年生き抜くことで得たこの老獪さに敵う者など存在するはずがない。


 そんな風に考えながら計画を立てている途中、


「おや、これはマルコヴァール様。今日はどうしてこちらに?」


「レヤードか」


 声をかけられて振り向くと、そこには魔導機兵ゴーレムの開発責任者であるレヤードが立っていた。

 レヤードは昔からマルコヴァールに仕える優秀な部下であり、信頼を置く貴族の一人でもあった。


 そして彼の協力を得なければ、魔導機兵ゴーレムを持ち出すことはできない。

 そのためマルコヴァールは、迷うことなく現状を説明した後、魔導機兵ゴーレムを利用してクラウスを襲うことを伝えた。

 すると、同じく現状に不満を抱いていたレヤードは喜んで頷いた。


「なんと……! 長年研究を続けていた我が子の見せ場が訪れるだけではなく、それがマルコヴァール様の領地に仇をなす不届き者の排除に使っていただけるとは! とても素晴らしい計画です」


「そうであろう?」


「はい! ただ、今の話ですと使用するのは上位機エクストラだけなのですよね? 量産機の出番がないことだけは残念でなりませんが……」


「今回の目的には数だけを揃えても意味がないのだ。そもそも、我らだけでは一度に扱える数にも限界がある……いや、待て」


 ここでふと、マルコヴァールはクラウスに不満を抱いている貴族が他にも数多くいたことを思い出す。

 彼らは特に、自分たちの資源や領民が次々とレンフォード領に奪われていることに不満を抱いていた。 


 その鬱憤を利用してやれば、ことは上手く運べるはず。


「ならば、こういうのはいかがか?」


「ほほう、なかなか興味深いですな」


 マルコヴァールが閃きを口にすると、レヤードや周囲に控えていた騎士たちが満足そうに頷く。

 徐々に計画が完成へと近づこうとしていた、まさにその直後だった。


「お待ちください! ここに並ぶ魔導騎兵は、民たちを守るために作っているのではなかったのですか!?」


「……貴様は」


 声が聞こえた先にいたのは、30代前半ほどに見える茶髪の男だった。

 マルコヴァールも良く知っている人物だ。


 名をクロード・ローズミスト。

 ローズミスト家は百年以上前、マルコヴァール家が領地を手に入れる前にこの地を治めていた前領主一族である。

 当時、配下の一人であったマルコヴァール家の策略によって統治権を明け渡すことになった過去を持つ愚かな一族だ。

 しかし、仮にもこの大領地を任されていた実績を持つだけあって才には恵まれており、特に魔力操作と技術開発、そして手先の器用さには長けている。今回の魔導機兵ゴーレムにしても、彼の協力がなければまだ開発できていなかったことだろう。


 そんな経緯から分かるように、クロードとマルコヴァールの間にはただならぬ因縁が存在する。

 それでもなお魔導機兵ゴーレムの開発に協力してくれたのは、これが領地を周囲の襲撃から守るために利用されると伝えられていたからだ。

 それ自体は決して嘘ではなく、特にまだ『幻影の手』が配下でなかった頃、隣接する【冥府の大樹林】からやってくる魔物の脅威を振り払うための力が必要だった。


 しかし実際のところ、マルコヴァールが魔導機兵ゴーレムを開発する理由はこれだけではなかった。

 もう一つ――むしろこちらが本命だが、他領への襲撃目的だ。


(そうだ。これだけの貴重な戦力を、領土拡大のために使用しないなど許されるはずがない。この愚か者には、その崇高さも理解できぬだろうが……っ、そうだ)


 ここでふと、マルコヴァールは良案を思いつく。

 そして彼は笑みを浮かべながら、まっすぐクロードを見つめた


「ちょうどいい。この上位機エクストラを動かすには核となる人物が必要だった」


「? 何を言って……」


「貴様ら! 我の決定に歯向かう反逆者を捕えよ!」


「「「はっ!」」」


「っ!? これはいったい――」


 この際だ。特別機スペシャル・ワンの完成も近づく今、こいつがいなくなったところで特に困ることはない。

 そんな考えによって下した命令だったが、騎士たちの協力により、見事にクロードを捕えることに成功する。

 あとはクロードを核とした上位機エクストラを使い、奴らのねじろを襲わせさえすればすべてうまく行くであろう。


「まさに完璧な作戦ではないか! あーはっはっは!」


 マルコヴァールは高らかに笑い声を上げる。


「……すまない、《《クロ》》――」


 騎士たちに捉えられたクロードが昏睡前、最後に何かを呟くも、マルコヴァールは気にすることなく笑い続けるのだった。


次回更新は7月26日(日)の12時頃の予定です。

そこから更新ペースをガンガンいく予定なので(週4話程度)、もしよろしければそれまでに改めて、本作を読み直すなどしていただけるとありがたいです!


それも難しいという方は、もしよろしければガンガンONLINE様にて大好評連載中のコミカライズ版などをご確認していただけたらなと!

村上メイシ先生の手によって最高のクオリティに仕上げていただいているので、楽しめること間違いなしです! 既に第一章ラストまで進行しているので、復習という意味でもちょうどいいと思います!

どうぞよろしくお願いいたします!

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