*13* 一人と一匹、小さな神様達の祝福。
マルカの町に戻ったその足でハリス運送を訪ねたけど、案の定ブレントさんもコーディーさんも仕事で留守だった。従業員から二日後に戻ると教えてもらえたので、また二日後に訪ねる約束を取り付けて早々に帰宅。
帰宅後は留守中も時々こっそり深夜に帰ってきてはいたものの、明かりを点けることが出来なかった家だ。旅先で採取したものは駄神がくれたテントの道具箱から、何も選別されない状態で全部床に積み上がっていた。不在中に置き配が溜まった家みたいだ。
こういう機能って漫画とかで見たやつはもっと便利だったと思うけど、駄神だからな。それに一応便利さが上回ってはいる。慣れてくると多くを求める傾向が強く出るのが良くないよな。
「うーん……明るい時間に見ると、ちょっと萎える光景だよな」
【いっきに げんじつ みると しんどいですね】
「な。片付け……するか」
【ええ そざい くさるもの なくて よかったです】
――てことで、サイラスの家から帰宅して早々の大掃除決行。素材を仕分けたり、部屋の空気を入れ替えたり、溜まっていた洗濯物をしたり、ソーラー発電機に充電したりと、やることが多くて時間がいくらあっても足りない。
あと昔バイト仲間から長期旅行して帰ってきたら、意外と人がいなくても埃が積もっていて驚いたと聞かされたけど、本当だった。指でこんもり取れるほどではないけど、家具の表面をうっすら曇らせる程度には埃っぽかった。
ただそのせいなのか、これまで生きてきて〝自分の家の匂い〟というものを初めて感じた。この埃一つ一つに、私と忠太、金太郎の生活してきた匂いがある。そう感じたら何だかただ拭き取るのも勿体なくて、鼻を近付けて深呼吸したら咽せた。
そうした経緯すら嬉しかったものの、同居している小さな神様達にとっては不快だっただろう。そのことを詫びると、掃除している間に埃で灰色にカラーチェンジした忠太が通訳してくれた。
――が、忠太によれば【ちいさい かみさま しぜんのなか ただようから ほこり きにしない でも へやの もようがえ したいそうです】と言っていたので、これを機に大水槽も改造することに決定。
まずは家主達の希望を聞こうということで、忠太に頼んで同じ趣味っぽい小さい神様達をグループ毎に分けてもらい、さらにその中で多数決を取った案を採用していく。床面だけを使っていたこれまでとは違い、立体感を持たせる配置にして、見た目に楽しいジオラマ仕立てにすることにした。
勿論材料は百均のアイテムと、こっちで採取した小さい神様達が好む素材だ。まずは百均で小物なんかを飾る木の棚を購入。細長いものだったり、正方形だったり、台形だったり、円形だったり、一部のものは取り外し可能なプラ板が窓みたいにはまっていたりと、形は様々だ。
まずは木の飾り棚に、火や水や土や風の気が宿る魔石を削った粉を混ぜた絵の具で着色し直し、表面にエアープランツや多肉植物を配置。それを積み木みたいに少しずつずらして積み上げる。
大水槽の新しい床材は木材チップと良い感じの石、それから魔石の中でも結晶が細長いものを点在させた。コンセプトは小さい神様達の住んでいそうな教会とかお城。
あとは極太毛糸をボンドを溶かした水に漬け、引き上げたら乾かないうちに暗闇で光る魔石の欠片を纏わせ、両端には重りになるようトンボ玉をつけた。これで夜間は淡い光を放つようになるはずだ。長いのと短いのを作って、ボンドでエアープランツや多肉植物の隙間に、良い感じにぶら下げる。
百均にあるジュエリーライトをヒントにした。これなら昼夜関係なく四六時中光らないし、電池の切れる心配もない。本当は忠太がレース編みにしてくれようとしたけど、労力が半端じゃないのに失敗したら怖いから止めた。
他にはライトで固めるタイプのジェルネイル、細めの絵筆、初心者向けの切り絵の本と、油性のサインペン。レジン液はまだあるので買い足しはなし。これらは棚から取り外したプラ版に使う。
家具や遊具も色を塗り替えたり、新しく足した小物と合体させて大きくした。長短ある緑色に塗った土管は完全に趣味。別に世界一有名な配管工兄弟が出てきたりはしない。
「下準備はこんな感じでいけそうかな」
【ですね あとはこれを いいかんじに かこうして はいち しましょう】
「ん。あと思ったんだけどさ、ルーター使うの久し振りだ」
【まりが じりきで こまかい さぎょう じょうずになった あかし】
「またそうやって甘やかすだろ――っと、そうだ。忠太にはレジンとかの色と、どの切り絵を使うか考えてもらっても良いか? 私のセンスより忠太の方が絶対良いから」
【わたしは まりのせんす すきですが そういわれたら ぜんりょくで とりくみます】
何だか褒め合い合戦みたいになったけど、お互いに満更でもない。忠太がウキウキで切り絵とレジンとかを選んでいる間に、私もルーターで棚のささくれを取ったり、棚同士が重なる部分にほぞを彫ったり、調子に乗って木製ベンチに模様をつけたりした。
そして忘れてはならないもう一体の造形担当のために、速乾性のある紙粘土と紙やすり、雑紙、針金、爪楊枝を購入。小さな巨匠はすでに構想を練っており、短い手で額を作って空中を睨んでいる。
ちなみに柘榴は全然違う場所というか、何もない虚空をじっと見つめて、時々相槌を打つように頷く。おそらく小さな神様達と交流でもしているのだろう。面白い話でも聞いたのか、ご機嫌に「キュルル」と鳴いた柘榴の額の紅い石に、白く小さな火花が弾けた。
一点一点、小さな神様達に気に入ってもらえるように丁寧に加工していく。途中で忠太から切り絵と指定された色を受け取ったら、外しておいたプラ板に油性のペンで絵を写し、上からレジン液とジェルネイルで着色していく。
今回の作業の目玉は、プラ板とレジンで作るステンドグラスもどきだ。一回や二回程度塗っても色が薄くて見えないので、何度も根気よく塗り重ねてはライトで硬化させる。
忠太が選んだのは、丘の上から海を見下ろす白い百合と赤いバラ。色が混ざらないように、一筆一筆、息を殺して塗り重ねていく。細かい作業に慣れてはきてはいても、やっぱり緊張はする。
結局この作業に一番時間がかかったものの、三時間かけたステンドグラスもどきは、我ながら納得のいく仕上がりになった――が。
「げっ……嘘だろ、分厚くなりすぎて入らない……」
【おちついて まり たなのすきま やすりで ひろげましょう】
――というような悲壮なやり取りをする横で、巨匠が背中に翼のはえた頭と腕のない女性の像を作り上げていた。テレビで見たことあるけど、何の像かは知らない。ただディティールが凄いのだけは分かる。
巨匠の手によって、残った紙粘土も順次美術室で見た男性の胸像などになり、大水槽内は美術史番組の様相を呈した。すったもんだの紆余曲折があって、何とかステンドグラスをはめ込んだ新・大水槽が完成した。
出窓に置かれた大水槽のステンドグラスを、忠太達と一緒に覗き込んで悦に入っていたら、するりと首に巻き付いてきた柘榴が勢い良くこめかみに頭突きをかましてきて。かなり良い角度で魔石がめり込み、それと同時にバチッと強めの静電が走ったけど。
【ざくろけいゆで まりに ねつれつ ありがとう いってますね】
「あー……つつっ、どういたしまして?」
【ついでに ごくしょう かご もらえたかも】
これも小さな神様達なりの感謝の言葉だと思えば、耐えられないこともない――か?




