*10* 一人と一匹と孫達、祖父の自宅改造計画④
早速爆音ファンファーレが鳴り止んだのに、駄神のマシンガントークが聞こえないスマホを、出来上がったばかりの座敷に置いて皆で囲む。ちなみに忠太を救えたことに安堵した直後、うっかり野放しにしてしまった一番の問題児は、先見の能力がある柘榴に首根っこを咥えて捕獲されていた。
まぁ単にキャラ被りの騒がしいいらんことしい同士なので、先見をしなくても分かっただけかもしれないが。輪太郎はファンファーレの音に驚き座敷の下に逃げ混んだココを、腹ばいになって懸命に宥めている。
そんな二匹と二体を横目に見つつ、気を取り直して忠太とサイラスと一緒にスマホを覗き込んだところ、そこには久々に駄神の説明臭いビジネス構文がつらつらと書かれていた。曰く――。
『生存目標である第一難関〝住居を手に入れる〟を達成してから、今日まで行った住居修繕で、修復スキルが一定数値を超え、特種条件である〝住居を改造・拡張する〟を達成しました。これにより【称号=加護持ち++ハンドクラフター】から【称号=加護持ちクラフトマン】にランクアップされます。それに伴い一部の取得済みスキルがレベルアップ、新たに特種条件クリアオプションが解放されました』
――とのことらしい。まだそんなゲームの隠しパロみたいなのがあるのかと呆れつつ、新しいスキルへの期待もあるので続きに目を通すことにした。
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素材コピー上級(一日に二回まで複雑な構造の素材コピーが可能)←up
一度作ったアイテムの複製☆9(一日二十四個まで。高レア品は一個まで)←up
レアアイテム拾得率の上昇。☆8←up
体力強化(体調不良時に微回復)☆8←up
手作り商品を売るフリマアプリで新着に三十分居座り続けられる。☆
着色・塗装(簡単な模様、二色までに限る)☆7←up
製品耐久力微上昇。☆6←up
対象者の内包魔力量の増加。☆3←up
アイテムに対しての全属性付与可能。☆3←up
中レベルのレアアイテムを使った作品の複製が可能。←up
今までに訪れた場所であれば転移出来る。一度に五ヵ所まで選択可能。←up
悪意ある第三者の干渉が認められる場合、守護精霊ポイントに加算。☆3←up
現地の言葉を話せるようになる。
現地の文字を書けるようになる。
現地の計算方法を身に付けられる。
現地の歴史について身に付けられる。
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【トリックスター】
【バーサーカー】
【精霊テイマー++】
【ここを我がキャンプ地とする!】
【守護精霊能力育成・巨大化能力】
【世界の捕食者】
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【特種条件クリアオプション】
守護精霊の能力育成。
異世界思念のポイント化。
異世界食材入手での身体強化。
鑑定眼。
技能【大工】の項目が一部解除されました。←New!
ライブラリーの一部閲覧範囲が少し広がりました。
ライブラリーに【家具・収納】の項目が増えました。←New!
ライブラリー内容に【空間デザイン(狭小)】が加わりました。←New!
商品カタログ作成が可能(手元にアイテムがなくても複製が可能になる)
テイムした精霊達からのランダム加護(小)。←New!
生きとし生けるものなら何でも調理出来る&食べられる。
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スクロールしていくものの、途中から情報量に思わず目がシパシパし始めた。この量の文字を追うにはスマホの画面では小さすぎる。こういう時はタブレットくらいのサイズが欲しいと切実に思う。というか、今気にするのはそこじゃないか。
「え……これ本当に駄神からのメール? あいつアカウントを乗っ取られて、なりすましとかされてないか? しかも【悪食】もらったのつい二日前だろ。この短時間でレベルアップって、これが初めてな気がするんだけど」
【それに よけいな でんごんなし きゅうな おおばん ぶるまい ぶきみですね たんとうがえ でしょうか】
たった二日であれが意識を入れ替えるはずがない。一番考えられることとして、これは何らかの罠だ。糠喜びをさせおいて、予告なしの紐なしバンジージャンプをさせる気に違いない。疑心暗鬼? いや、経験則だ。
「まぁまぁ二人ともそう結果を焦らずに。一応上級精霊がこの世界で担当するのは一度に一人のはずですし、その可能性は低いと思いますよ。ひとまずここにあるライブラリーというのを閲覧してみてはどうでしょう?」
オロつく私と忠太を前にして年の功が成せるのか、単に過去に振り回され過ぎて慣れっこなのか、一人落ち着いているサイラスに促され、一旦メールを閉じてライブラリーを開く。
するとライブラリーの過去の守護対象者欄に、知らない名前がちらほら増えていた。それでも増えた全員の本名が全部読めるわけじゃなくて、ほとんどは文字化けしているが。
その中で一人、陸亀の守護精霊を持ち、巨大な建築物を造ることに生涯をかけた大工がいた。名前の一部しか分からないけど、アントニとある。そこから金色の線が伸び、途中で枝のように別れて頁を跨いでいるっぽい。
どの頁に伸びているのか分からないので一度ライブラリーを閉じると、辞書と同じで各種の項目を分ける付箋のうち、二項目が光っていた。こうしてみるとまんま電子辞書なんだが、個人的に辞書での調べ物は紙の方がしやすい。
まぁ不満を抱いても仕方ないのでそこを選んで開く。予想通り新しい項目が出てきた。ここでも項目のほとんどは文字化けしているものの、取り敢えず【大工】から派生した先に【家具・収納】があり、さらに【空間デザイン(狭小)】に繋がっている。
これは……家と家具を含む大工仕事全般ってくくりなんだろうか。だとしたら仕事のくくりの大きさが江戸時代過ぎる。私が知らないだけで大工が簞笥作れるのって普通だったりするのか? 絶対違うよな。違う……よな?
というか今更すぎだけど、これまでに作ってきた収納家具は、商品カタログに入ってなかったらしい。
確かに最初から売ることを念頭に置いてなかったし、鑑定したところでこっちの世界の素材を使ってないからレア度もない、特別な付与能力もない、さらに大きさや重量の問題や、使う場所に合わせて作っていた。それにこの世界の家具の質はかなり高い。その辺を総合して考えても商品にはならないだろう。
でも使っているうちに愛着は湧くし、引っ越しのたびにいちいちバラしたり作ったりするのは正直面倒な上に、新しく木材を買い足したりとお金もかかったので地味にありがたい。しかもこの家具・収納、一度作ったものなら大きさはある程度自由に変えられるっぽいんだよ。これは熱い――と。
【しょくぎょう はば ひろがり すぎますね】
「そうだよな。大工ってそんなに万能職なのか」
【ここまでくると ひとりおやかた れべる】
「いえ、待って下さいマリ。この項目にはまだ〝建築〟がありません。だとするとこれは本来の【大工】技能までは至らないのでしょう」
「あ、成程。言われてみれば【空間デザイン(狭小)】だけだもんな」
【さいしょから てきせいが だいく でないと さいごの れべるまで いたれない かもしれない ですね】
「んー……てことは私のこれはたぶん、古い団地の内装を改造するDIYレベルの初級〜中級ってとこだな。大工にまではなれない、でもスキルが派生するってことは、得意なことを固定しすぎないで色々経験した方が良いってことか」
「ええ、そういうことかもしれません。マリやチュータのような若人が視野を広く持つことは、悪いことではありませんからねぇ」
こういう時にサイラスと忠太という賢い人材が揃えば、あまり賢くない私でも多少実りのある答えに辿り着けるのは非常に助かる。それに適正がなくて最後までは至れない中途半端なスキルでも、数があれば役立つ場面は多い。取っていて損はないだろう。
そこで先輩であるサイラスに経験からの仮説を立ててもらい、今後のスキルの派生や成長方針について疲れも忘れて話し合っていると、途中から飽きた輪太郎とココ達が作業机のボードで絵を描き始めたり、暗くなった室内に気付いた金太郎がランプを灯してくれた。
そうしてあれこれと話を詰めた頃、やっと胃袋が空腹を訴えたので。改造したばかりのサイラス《祖父》の家で、豪勢な打ち上げをしたのだった。




