*9* 一人と一匹と孫達、祖父の自宅改造計画③
サイラスのためのはずが、何だか自分の理想まで語ってしまった結果、忠太と金太郎だけでなく、輪太郎までもがさらなるやる気を発揮。途中休憩を勧めても聞く耳を持たない。
手始めに金太郎がゴ○ブリの如く外壁をよじ登り、どこからちぎってきたのかツル植物を垂らしたせいで、輪太郎がコテと残りのモルタルを手に屋根へと上り、これまでのノウハウを駆使して雨漏りの修繕を始め。
太郎コンビに負けじと忠太が【せいれい ですので つかれしらず】と打ち込み、サイラスまでもが「僕もほら、ゴーレムですから。マリは人間な上に女の子ですから、大事を取って休憩して下さいね」と言い出す始末。
しかしこんなに楽しい作業をそんな言葉で中断するつもりはない。それに出来ることなら明るいうちに完成させたい。そんなこんなで私も休憩せずに作業を続けた。アドレナリン全開ってやつだ。
まず完成した洗濯機空間活用スチールラック(以下スチールラック)を、棚がある右側を壁から30cmくらい空け、スチールラック全体は壁に添わせて設置。量産した箱と床板を合体させたベンチ(一台幅91cm長さ182cm)にニスを塗ったものを、スチールラック前面にぴったり寄せて四台並べる。
大体の寸法にして四畳くらいの縦360×横180。なのでベンチは床板の長い方が横、狭い方が縦の形になるように並ぶ。
ベンチ下の微妙な隙間にはキャスター付き衣装ケース(大4)を突っ込み、雑な床下収納を作った。これでサイラスが捨てられないという、ファンから届いたプレゼントの包装紙や、何度も読んだファンレターなどが収納可能に。
ベンチ上に厚手の洗える置き畳マット(範囲分)を敷きいて、実際にサイラスにベンチへかけてもらい、洗濯機を置くスペースに入れる机の長さを測る。書物中は机の上が手狭になるというので、少し長めに作って余裕を持たせた。抽斗も棚も何もない、シンプルで、ダックスフンドみたいな細長いやつだ。
机はスチールラックの横幅を無視して左側に突き出すので、突き出した端の方に長方形のワイヤーネット(大1)を、頭が少し出るくらいに打った釘に引っかけ、そこにS字フック(小2)を使って黒板セット(大1)を固定。これは執筆中のサイラスのマネっ子をしたくなった輪太郎のお絵かき用。
座って絵を描けるようにミニ脚立(黒)一台を設置し、ついでにS字フック(大3、小3)を空きスペースにかけた。子供って何かしら拾ってくるからな。
棚関連はスチールラックについているものを利用する。まず横にある細長い棚、たぶんバスタオルとかを置くことを想定している上下段に、組立式蓋つき収納ボックス(大2)を設置。ここには直近で届いたファンレターを収納する。
次に洗濯機の上から横の棚にかけてのカウンターになっている棚に、A4サイズのファイル、ファイルケース、ファイルボックス(各3)、ブックスタンド(大2)を置いて原稿整理スペースを確保。
同じ段の背面にある骨組み部分を利用して、ワイヤーネット正方形(大2)を結束バンドで固定。ネットにS字フック(小2)を使って黒板セット(大1)と、マグネット(中6個入り)を設置。これでここに簡単な創作メモを貼ったり、思いつきを黒板に書いたりも出来る。
さらに上にある、カウンターよりは少し奥行の狭い二段の棚に、残りのファイルケースやファイルボックス(各2)を設置。使用頻度の少ないネタメモや、過去の原稿類はここにまとめておける。
残りのワイヤーネット長方形(大3)を長い方を縦にして下に二枚、上に一枚、凹の片側がなくなるような形にして結束バンドで固定。それを棚がある右側の壁から30cmくらい空けた面に、これまた結束バンドで固定する。
ネット部分には残ったS字フック(大7、小3)を全部引っかける。何か吊るしたいものがあれば、そこに適当にかけてほしい。
最後にうっかり購入し忘れたフリークロス(40cm×80cm)を四枚と、不足しそうなレトロ調安全ピン(4個入り×2・計4)を買い足し、クロスの長い方を横に、短い方を縦にして、レトロ調安全ピンで繋いだ簡易式カーテンを作成。
それをフック型カーテンクリップ・アンティーク色(6個入り×2)を使って、スチールラックの一番上部にあるハンガーラックに引っかけた。これで来客時に見られたくないような原稿を書いていても、サッと目隠し出来る。まぁこの小屋への来客なんて私達だけなんだが――ってのはともかく。
早朝六時の作業開始から、昼食の十五分を除いて活動し続けること十二時間後の午後六時。まだ辛うじて空に明るさが残る頃、輪太郎が修繕してくれた箇所の水気を抜いた忠太が、金太郎におぶさった姿で屋根から降りてきた。
すぐにスマホを向ければ忠太はてきぱきと操作して、劇的ビ○ォー○フターのテーマソングを流しながら、華麗にサムズアップを決める。どれだけ土埃で黒く汚れてしまっても、演出にこだわる相棒だ。大変可愛い。
「この曲が流れるってことは――……完成で、良いよな? 流れ的に」
「ええ、勿論ですよ。これ以上ない、素晴らしい家だ。僕の理想を形にして下さって、ありがとうございます皆さん」
そう言って本当に嬉しそうに微笑むサイラスに「こっちの台詞だ。私の我儘に付き合ってくれてありがとな」と笑い返し、完成したばかりの小屋の中を全員で並んで覗き込む。
外側は石造りの西洋風なのに、中は微妙にインチキ臭い和風空間。部屋の家具は一人用のテーブルと椅子、唯一西洋風な暖炉周りと、調理器具の入った箱。やっぱり何だかへんてこだ。
けれど胸を張りすぎて後ろに倒れる金太郎と、それを助け起こす輪太郎。スマホの音楽に合わせて左右に揺れる忠太に、完成の気配を察して戻ってくるココを見ていたら、それも良いかなと思える。私のこの世界で得た家族は皆へんてこで、愛おしい。
「うーん……でもこうやって見ると、畳があるだけで気分上がるな。前世住んでたあのボロアパートにはなかったのに、不思議なもんだ」
「タタミとは、あのタイル型の敷物のことですか?」
「ん。前世あの敷物がある国って、私のいた国くらいだったからさ。まぁそうは言っても、畳がある家なんてもう当時でもかなり減ってたけど」
「おや、それはまたどうして?」
【たたみ ほんらいは そざいが しょくぶつなので こうおんたしつ かんきょうだと ていれ たいへん】
「ほう、本物は植物で出来ているのですか」
「そう。あれは塩化ビニールだったか、何かそういう人工素材。本物はもっと干し草みたいな良い匂いがする――いや、干し草より瑞々しい匂いかも? そういえばこっちの世界の植物で同じ匂いは嗅いだことがないな」
「成程、それは実に興味深いですねぇ。いつか僕も本物のタタミの匂いを嗅いでみたいものです」
【つぎ かうとき たたみに しますか】
「んー、でも耐久性と値段がなぁ。匂いだけならゴザの方が良いかも。素材同じだし、安くて処分が簡単だからさ」
こんなに土木作業に勤しんだのは、結構前になるが、父親にブルーカラーの恋人シグとの結婚を反対されていたサリアのために、結婚式用のティアラと大衆浴場を作って以来だ。思えばあの時はまだオニキスは紅葉だったな、なんて懐かしみながら、心地良い疲労感にほっと身体の力を抜いたものの――。
ふとこれまでの経験から水を差される気配を察知し、忠太をスマホから遠ざけたその直後。この気持ちの良い空気を吹き飛ばす、あの無粋なファンファーレが鳴り響く。でもまぁ、駄神の邪魔のタイミングを初めて見切って忠太を救えたことだけは、ほんの少し誇らしかった。




