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魔術の謎を紐解く学者が望む日常  作者: 咲月 sc
第1章 過去の面影と変わる日常
24/26

第24話(閑話) 暖かな記憶

だいぶ更新が遅れてしまいごめんなさい!

クリスマスということで、閑話も兼ねた本編です。

では、ごゆるりと!

「さて、手紙蜂(アピス)。ちょっとお仕事をしてもらうが…問題ないな?」


 手紙蜂(アピス)頷くかのように頭を倒し、自身の足を私の方に向ける。

 どうやら私の次の行動をわかっているようだ。


「この2通の手紙をギルマス…ミクトの秘書に渡してくれ。あいつは副ギルマスも兼任していたはずだ。今ごろはギルド長室でわたわたしてるだろうから、そこにいけば会えるだろう」


 2通の手紙。1つはヴォルクが私に当てた手紙。1つは私がしばらくの間ここにいないことを書いた物だな。

 別に直接手紙を渡しに行くことも可能ではあるが……万が一にも住民の誰かに顔を合わせるのは不味いしな。

 ……もちろん建前だな。ただ単にあのハイエルフ婆さんに会いたくないだけだ。想像しただけで背筋が冷える。


「忘れていたが、手紙を届けるときは誰にも見つからないようにしてくれ。窓を2・3・1でノックすれば、お前を殺そうとはしないはずだ。では頼んだ」


 足に2通の手紙を括り付けられた手紙蜂が夜闇に紛れて淡く灯る町へと飛んで行く。それを静かに見送ったあと、どこへ行くか検討するために地図を引っ張り出す。


 王都を中心としたその周辺には五大貴族とよばれる五人の公爵が治める領地がある。

 王都が持つ領地は少ないが、その分守りは強固となっている。もともと、王やその継承者・重要な物や会議場所………etcといった、国に関わる重大なものばかりが保管されているためこのような強固な守りに囲われた場所が必要だった。そのためだけに王都は存在する。

 昔は王都などなく、五大貴族等もおらず、すべての領地が一人の王によって統べられていた国だったぽい。ただ、さっきの理由と一人じゃ治めきれないということから、信頼できる五人の貴族に王と同等の力を持つ爵位を与えて、領地を治めさせるようにしたらしい。

 ちなみに、ミクトがいたギルドのある町は領地的には五大貴族の一人が治める、テオドール領となっている。比較的王都側によっているが。

 まぁ、私は王族でも大貴族でもないただの平民だから詳しくは知らないんだけどな。


「さてと……どこへ行こうかな?どれも王都からの距離は変わらないし…………いっそのこと国外とかに行ってみるか?」


 もちろん、国外に行くこともできる……が、この国以外に()として成立している場所は一つしかない。

 それは、魔王が治める国だ。

 遥か昔に魔王率いる魔族と人族や多種族との大きな争いがあったそうだが、いまやその影もない。

 その戦争が終わってから何かしらの出来事があったとは思うのだが…それについて書かれた書物がないので調べようがなかった。今では、その魔王が治める国と交易を行ない時々こっち側の国のイベントごとに魔王らが顔を出すので、仲は良好に見える。あくまでも表面では、の話だけどな。


「ん……やっぱり国外はなしだな。となると、五大貴族の領地のどこか……どこにしよう?」


 こうなったら適当に決めてしまうというのもいいかも知れない。そうと決まれば、早速行きますか。


「まずはどの場所も同等な確率であたるように指定して……っとと、王都とその周辺15kmは範囲外に設定して……と。後はこの地図の座標情報を全て把握し、範囲内に設定。上書きはしない…」


 よし、必要な条件はこれで揃ったから……この情報を空間転移魔法の情報に組み込んで……ってあれ?……あ、そうか。座標の範囲自体が変わるから魔方陣の接続場所も変更しなきゃいけないのか!


「なら、ここを……これに入れ換えて………組み込み場所の増設っと……よしっ、これで完了だな」


 んー、このまますぐに飛んでもいいんだけど……どこに着くか分からないし…何より最近の夜は冷えてきているからな……ん、夜が明けるまで待つ方が得策だな。

 おそらく、ここの家に戻ってくることもないだろうから…ここで寝るのもこれで最後か。……いろいろと危険なものがあるし出るときには焼却処分……いや、燃えないものもあるから消滅処分しないと。まぁ、使えそうなものは魔法袋に容れていくけど…。

 さて、そろそろ寝るか。



  ◆



「レインっ!今日は『Christmas』だ!!」

「うわぁっ!…………って、クレムか…吃驚するからいきなり飛び込んでくるなよな」


 勢いよくドアを開け放って部屋に入り込んできたのは予想通りのクレムだった。


 そこまで大きいとは言えない孤児院にある私専用の個室。陰では隔離部屋と呼ばれてるけど、毎日温かい食事がもらえるし水廻りや内装も整っている。たぶん、普通の家の個室よりかはいいんじゃないかな。

 今の時期、外はだいぶ冷えているけどこの部屋は暖かい。後二鐘くらいしたら、この暖かさを求めてミクトたちがこの部屋にくるはずだ。

 ちなみに暖かいのは私の作った魔道具の仕業なんだけど。


「で、なんでこんなところにクレムがいるんだよ?仕事とか依頼がきてるんじゃないのか?」

「ハッハッハ!……さっきも言ったように今日は『Christmas』だからな!仕事も依頼も全部休みなんだっ!」

「ん………さっきからいっている言葉は何?」

「ん?…あぁ!……えーと?………そうだな、クリスマス…なら通じるよな!」

「んで、結局それはなんなんだよ……ま~た、どっかの文化を引っ張ってきたのか?」

「……まっ、そういうことだ!………。」


 んー、なんか隠してるな…。まぁいっか、あのクレムが一人ではしゃぐなんて珍しいことだし。

 そう思って、初めてクレムの方を見たとき、驚くと言うより焦った。


「まてまてまてっ!…ク、クレム?……部屋になんで木を持ってきた?」

「いや……ね?その~、クリスマスには樅の木が欠かせなくてさ……何とかして……院長からも許可を…得た……んだけど………レイン、そんなに冷たい視線を寄越さないでくれ……決して私が馬鹿になったとかじゃないから…ね?」

「………院長から許可をもらったんならいいけどな……この部屋の天井の高さは考えたのか?」

「………(ニッコリ)」

「にっこりと微笑んでいても伝わらないぞ?」

「…すいません………まぁ、でもほら!大きいなら小さくすればいい話だしさ!」

()()じゃなくて大きい…だけどな。逆によく10mもある木をここまで運べたと思うよ?」

「……もとは35mくらいあったんだがな……」


 なるほどね、すでに小さくする魔法を使ってここまで運んできたってことか……魔法袋に中途半端に容れた状態で…。ちょっと待って、既に小さくする魔法を使ってるってことはだ……


「もしかしてさらに小さくしてほしいってこと?」

「………(ニッコリ)」

「はぁー………わかった。じゃあその間に…クリス…マス?ってなにか説明してくれ」

「いいだろう!新たな知識をレインに授けてやるぜ!」

「いいから、はやくしてな?そろそろミクトたちが帰ってくるだろうし……既に内容は話してるんだろ?」

「あら、ばれた?……といっても、特にすることなんてないんだよね……そうだなぁ、強いて言うならその木に特別な飾り付けをして、少し変わった晩御飯をみんなで食べる……くらいか?」

「んー、なんか曖昧だな。特別な~、とか変わった~とか……それって私たちにもできることなのか?」

「まぁ、飾り付けぐらいならできるんじゃないかなぁ?あっ!料理は任せとけよ?」

「えっ?………クレムって料理できたのか?」

「当たり前だろ?俺はこの世界でナンバーワンの冒険者だぜ?…そりゃあ野宿もするさ」


 そうか!……冒険者稼業をしている人は大抵のことは一人でできるんだよね……今思えばの話だけど。

 ……料理を自らするってことは自分しか作れないってことだよね?……うぅ…気になる。


「……なんならレインも調理場にくるか?今日の調理場は貸し切り状態だからな!」

「ん?……他の孤児たちのご飯は?」

「あぁ、それなら問題はない。予備の魔法袋を院長に渡して、そのなかに料理を保管するようにさせたからな!」


 …院長……今度なにかお礼を用意しとかないと…。

(まぁ、そんな私はクレムの言葉に甘えて行くつもり満々なんだけど…)


「もちろん!あっ、調理法とか解説しながらつくってね?んで、何が・どこが重要なのかも説明しながら作って!」

「あ、あぁ…わかった。(こういうときだけ年齢に合った表情をするんだよなぁ……子ども故の無邪気さが研究に注がれているのかなぁ…。)」

「ただいまー!レインはいるか~?」

「そりゃあいるでしょうね。クレムおじさんもいるみたいだし」


 もう帰ってきた……全然説明らしき説明を受けられなかったんだけど………まぁ、クレムの作る料理を見れるだけでも良かったかな。

 クレムの作るものって出来は普通なんだけど、発想が独特っていうかオリジナリティがあるんだよね。


「おっ!ミクトとユノかっ!今から飾り付けをするところなんだが…手伝ってくれるよな?」

「「もちろん(だぜ)!」」

  


 ◆



「んっ………あぁ、夢か…。確か10歳の今ごろの時期のことだったかな?」


 あの時の記憶は鮮明に覚えている。


 クレムの元で今までに見たことのない料理を見学し、ためしに作ってみるもうまくいかず、少し拗ねてたんだっけ。でも、パイというものだけは上手につくれたから機嫌は直ったんだけどね…。

 その後はみんなでわいわいわちゃわちゃして食べつつ、クレムの冒険譚を聞いて盛り上がって……最後にクレムが純白の綺麗なデザートを持ってきたんだよね。私と一緒にいるときには作ってなかったから、たぶん私がクレムについていくことを予想してたんだとおもう。

 ケーキ?だったかな。誰も作り方の知らないクレムだけが作れた最高のデザート。…冗談抜きで本当に美味しかったんだよね。

 クレムいわく、パイがあるから本当は邪道らしい。けどクレムの知る文化ではケーキが主流とかなんとか。

 なぜかその日は早く寝なければいけないとかで、樅の木に赤と白の靴下?を引っ掛けてから寝床についた。

 クレムが言うには、これをかけると明日の朝にはその靴下の中に贈り物が入ってるらしい。

 それを聞いたミクトはおおはしゃぎして朝まで起きてるって言ってたけど、早くに寝ない悪い子は貰えないと聞いた瞬間驚くほどの早さで寝床に入った。

 ちなみに、誰からの贈り物なのか聞いたところ

「正体不明の人物………その正体は正に神のみぞ知る…ってな!」

 と、よくわからない返事をされた。

 

「まだ、夜は明けてない……ってがっつり深夜だし……もう一回寝るか」



 レインがもう一度体を横たわらせ、睡魔に身を任せていく。

 そんな朧気な意識の中でレインは、鈴のようなどこか安心できる音色が遠くでなっている……ような気がした。



―――外はまだ冷えているが、レインの周りは暖かさで満ちていた。



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