第25話 プロローグ:不屈のルディ
ここは、五大貴族が一人アーディ=スペイデル公爵領にある街の一つ―――[港街マレーア]である。
スペイデル公爵領有数の都市の一つである[港街マレーア]であるが、なにも公爵自らが統治しているわけではない。王都が国を治めるため、五人の公爵に土地の管理を分担させたように、公爵もまた幾人の貴族に土地の管理を任せているのである。
そのため、スペイデル公爵領にはいくつもの街が存在しているのだ。
しかし、公爵領の領地を管理する貴族にも能力の優劣はやはり存在した。
例えば、いつまでたっても発展しない小さな町であったり、暴力や強奪等の治安の悪い町であったりというのは大概が、その土地を管理する貴族の能力が低いか私利私欲に奔る者である。
では、どうするか?
答えは至って単純で、その町を見捨てればいい。
有能な貴族が治める街は公爵直々に治める街から恩恵を与え、無能な貴族が治める町は完全に無視する。
その結果、腐敗した町の住民は良い街に流れ、捨てられた町の領土はそこに吸収される。
一時的に盗賊や魔物の巣窟になる場合もあるが、それを解決できる存在がいれば問題はない。
つまり、冒険者と呼ばれるものたちの仕事だ。
そして、その冒険者をうまく管理しつつ、自身の治める街だけではなくその回りに気を配ることのできるところが、都市まで発展できるのである。
そのような、都市の一つである[港街マレーア]はその名の通り、海産物や塩、造船技術で発展した街である。
また、周囲には木々で覆われた山が一つあり、そこにはいくつかの迷宮があるが、その最奥にある核を外に持ち出されると、迷宮そのものが崩壊してしまうため、街が管理する迷宮となっている。それでも、魔物の素材や魔石………等の迷宮から採れるものはやはりこの街に多くの利益をもたらしている。
他にも、この街に隣接する海の向こうに魔王が治める国があるため、王都の行事等ではこの街を必ずこととなる。故に、異文化交流の盛んな場となり、いろんな文化が存在している。
近くには多数の町や村があるためかこの都市の存在の需要は高く、非常に潤っている街といえるだろう。
しかし、やはりというべきかどんなところにも魔物は存在する訳で、管理迷宮だけでなく、この都市の主力ともいえる海産物の捕る海にももちろん多くの魔物が潜んでいる。
前置きが長くなったが、こういった魔物に関することや街の住民・周囲の町村の悩み事を解決するのが、冒険者と呼ばれる職業に就く者たちなのである。
―――そして、ここ[港街マレーア]には“不屈”という称号を持つ、一人の優秀な冒険者がいる。
その者の名は“ルディ=アナスタシオ”
この先の彼女の物語に大きく関与する人物の一人である。
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□ ≪港街マレーアの冒険者ギルドにて≫
「はぁ、相変わらず朝がお早いことで」
「ふん、この時間帯が一番人の少ねぇ時間だからな」
「あのですね、我が物顔でこんな時間にギルドにいますけど、本来は空いてない時間ですからね!まず、ギルドというものは酒場で―――」
今ギルドの蘊蓄を長々と語りかけているこいつは一応立派なギルド長さまだ。まぁ、俺よりも人生経験の乏しい小童なんだが……優秀であることに代わりはないからな。
何だかんだ言って一番付き合いの長い人でもある。事実、本来なら空いてない時間でも俺を入れてくれるからな。ってか、こいつは俺よりも早く来てるんだよな?……一体いつ寝てるんだか。
ってなわけで現在の時刻はそろそろ2の時鐘が鳴るくらいの頃だ。深夜も深夜、辺り一面真っ暗だ。
さて、今日はなんの依頼を受けようか……
「って、ちゃんと私の話を聞いてるんですか!」
「おう、聞いてるぜ?あー、あれだろ、ギルドは個人の所有物じゃなく公共の場であるから、誰か一人を優遇するなんてことは本来は駄目なことだ――」
「あ、聞いてるんですね……わかってくれればいいんです、わかってくれれば…」
「でもよぉ、俺は謙遜してもこの街一の冒険者だぜ?逆に優遇しないといけないんじゃないのか?」
「その優遇を突っぱねたのはどこのどいつですか!まったく、ほとほと呆れますからね?!」
「まぁ、堅苦しいのは嫌いなもんでな。それでもいつのまにかSランクになって称号まで付けられた。これは溜息ものだぜ?」
「仕方ないですよそれは。一応あなたは救国の英雄なんですから」
「はっ、その呼び方はやめてくれ。虫酸が走る。」
はぁ、本当に面倒だな。俺としてはただ一人の冒険者として迷宮を攻略したってだけなのによ。俺の回りにハエがたかるかのようにして貴族が飛びまわってやがる。
「なんかすみません。権力を持ってしてもまだ私は若僧と見られてるみたいで……」
「実際に小童だからな。ところでなにかいい依頼はきてないか?」
「依頼にいいも悪いもないって教えてくれたのはあなたですよね」
「ふん、そんな遠い昔のことなんて忘れたな。いくら生涯現役といえども老いには逆らえねぇもんだよ」
「そうは言いますけどまだ三十代ですよね?」
「後半に差し掛かっている…な?
それによぉ、貴族の打算や悪巧みが混じった依頼がどうして悪い依頼じゃないなんて言えるんだ?」
「あー、確かにそうなんですけど………あっ、そうですよ!」
「ん、どうした?急に大声なんて出して」
「いやぁ、そう言えばそろそろ新米冒険者や冒険者登録予定者に対して行われる講義があるじゃないですか」
「あぁ、あの教育合宿のことか?」
「はい!……えー、それでですね。他支部のギルドからは先生役の冒険者が決まってるのですが……恥ずかしいことに私の支部ではまだ決まっていなくてですね…」
他支部の連中……つまりこの街にある残りの4つの冒険者組合のことだ。確かにあそこの支部にはそれぞれお抱えの冒険者がいるが…もう依頼から帰ってきてるのか。
「ってこたぁ、他の支部のお抱さんは帰ってきてるのか?」
「それがですね、どうやら依頼を受けないようにしてるようでして……」
「あぁん?じゃあどうやってあいつらは生計を立ててるんだ?」
「ほら、他の支部にはバックになる貴族がいますから………お金は余っているでしょうし……」
「はぁん、つまりただ飯ぐらいをしてるって訳だ。」
「すみません……私がこの街の政治に介入することができていれば問題はなかったのですが」
「あー、俺は別に気にしてねぇんだがな。それより、親父さんはご壮健か?必要ならまた採集の依頼さえ出してくれりゃあ取りに行くが……」
「ご壮健……とは言えませんが前のときと比べるとだいぶ良くなりました。後は意識さえ戻ってくれれば…」
「まぁ、直に戻るだろう。お前の親父さんは頑強だからな」
「……っ………はい、そうですね」
「まぁ、そんなに自分を責めんなや。なにもお前が悪かったわけじゃねぇ……それよりもその教育合宿の依頼、もちろん俺が受けてもいいんだよな?」
「えっ!いいんですか?」
「はっ!…先に尋ねてきたのはそっちじゃなかったか?
それによぉ、俺はここんとこのお抱え冒険者だ。言われなくても出てたろうな」
「ルディさん……ありがとうございます!!」
さて、誰かを指導するなんざ何年ぶりだ?……とりあえず、今の新米の態度や装備、考え方なんかは調べといた方がいいかもな。後は……覚悟とかも試した方がいいのか?
「ところで、教育の方針のようなものってあるのか?」
「それがないそうなんです。どうやら完全にその人のやり方に一任するようでして、もし教育した人材が優秀に育てば何か報奨が与えられるそうですが……」
「それをどうやって判断するかってことだな?
もしかしたら、他のお貴族様が俺の評判を落とすためだけに動くかもしれない……違うか?」
「……その通りです。それでもルディさんを頼らなければいけない私をどうか許してください!」
「いや、いいんだ別に。ただなぁ……もし俺の育てた人材のなかで優秀なやつが出た場合……どうなるのかが気になってな」
「暗殺とかはされないでしょうが……もしかしたら傀儡状態になるかもしれません。」
「はっ、最近の弱小貴族どもは恐ろしいこった。で、どういう感じの合宿だ?」
「それが、まず初日に講義を二回行い、次の日に準備、三日目から山の中腹にある管理迷宮に向かうらしく……計13日を予定しているそうです。最初の2日には迷宮にたどり着き6日を迷宮探索に費やすとのことでして……」
講義を二回か……教材を使いたいところだが、貧しい暮らしから脱するために冒険者になるやつもいる……なら、簡単な走り書き用の紙を数枚こっちで用意しておいて、配布。内容は話だけじゃつまらんから、冗談を交えた実技のようなものがいいか。
んで、準備の内容も講義の時間に話せば問題はない……ついでにそこで篩いに掛けておくか。
問題は山の中腹にある管理迷宮………つまり、火砕山の亜竜型迷宮か……新米にしては重たい場所になるな。
「ところで質問なんだが、準備や教材等のお金は出てるのか?」
「はい……出てるにはすでに出てるのですが………他の支部よりも明らかに金額が少ないんです。十分な教材と装備を揃えるには持って4人が限界かと……。」
「なるほどなぁ、こいつぁなかなかに疎まれてんなぁ」
「すみません……今からでも交渉しにいった方が」
「いんや、気にすんな。ただ…そうだな、ちっとばかし俺を敵に回したことを後悔はさせてやる」
ここにすむ貴族の大半はばかやつしかいない。目先の利益にとらわれて、後の利益を見ることすらできない阿呆だ。さんざんこの俺を勧誘もとい引き抜きを行おうとしてるってんのに、わざわざその本人を敵にまわすんだからな。ほとほと呆れるぜ?
しっかし四人が限度か……この前ここを覗いた限りじゃあ新米冒険者に該当するやつらは少なくても10人はいたはずだ。
しゃあねえ。自腹切るとするか。
「なぁ、その教育合宿はいつから始まるんだ?まさか、明日からですなんて言わないだろうな……忘れてたわりには余裕を持って話せてたしある程度の猶予はあるんだろうが」
「その通りでなにも言えないです………まだ詳しい日程は決まってないのですが、後一月ほど時間はありますね」
「そうか……じゃあ、あの山の魔物を金に変えておきたいから、討伐の許可をくれ」
「ま、まさか自腹を切るつもりですか?!
そんなことをしてはルディさんの生活が…」
はぁ、こいつってほんとに頭いいのかねぇ?俺がSランク…もとい特級下位の冒険者だってことを忘れてねぇか?
「なに、俺個人の資金はなんの問題もねぇよ。今の俺のランクを忘れたのか?
あくまでも今回狩りに行くのは合宿用のお金を工面するためだ。自分の資金じゃねえよ。だから許可を出してくれ。」
「わ、わかりました。ですが、魔物でない動物はあまり狩らないようにしてくださいね?」
「はっ、俺の心配はしねぇのか?」
「だって万が一のことが起きてもなんとかするじゃないですか……“不屈”さんは」
「お?……言ってくれるねぇ…」
「え?じゃあ救国の英雄と呼べばよかったでしょうか」
ほぉ……にやにやと笑いながらこの俺を煽るとはなかなかいい度胸してんじゃねぇか…。
よぉし、その喧嘩買ってやるぜ?
「へぇ……なかなか言うようになったもんだな、この年齢詐欺師がよぉ?え?前あったときと比べて全然身長が伸びてねぇじゃねぇか?ちゃんと食うもん食ってんのかねぇ?」
「なっ?!………いいでしょう…その喧嘩、買ってあげますよ?……あなたの黒歴史はすべてこの頭のなかに入っていますからね……フフフ」
「ほぉ、なら聞かせてもらおうかその黒歴史とやらをなっ!」
そうして、いつものように荒々しくもお互いが楽しんでいる空気が流れたとき、ドアを開ける音がギルドの中を駆け抜ける。




