表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/7

第5話 砂浜でゴミ拾い。わがまま女に振り回されて......

 大学生活2回目の夏休みが訪れた......というのに。

俺はバラ色の学園生活どころか、死神とランデブーする日々がスタートしようとしている。

俺と黒井詩織は色々考えた結果、プラゴミが大量に捨てられている砂浜へ訪れた。

この砂浜海岸は数年前までは有名な観光名所だったそうだが、今は見る影もない。

白かった砂浜が見えなくなるほど、プラごみが一面に広がっている。

ここを清掃する活動をSNSにアップすれば、イメージアップになるのではと提案した次第だ。

なのだが……。


「黒井さん、その格好でゴミ拾いするの?」


 待ち合わせ場所へ来たのは、白いワンピースと麦わら帽子を被った黒井詩織。

彼女はサングラスを外し、見下すような視線を向ける。


「ふん、私はただそこで見ているだけ! あなたが捨てるのよ」


「なんで俺だけ? 自分のイメージアップしたいんでしょ?」


 俺は少し語気を強め、そう返した。

すると彼女はTwitterの画面を見せ、口を開く。


「私はSNS担当だから、あなたに活動した写真を送ってもらってそれをここに上げるだけ。私はここで拾っている写真を撮るのと、気晴らしに来ただけよ。15分ぐらいしたら帰るから、じゃ」


 この女、良い人イメージ作る意味あんのかな。

いや、下手に挑発すればまた包丁持って襲ってきそうだからやめとくか。


 俺はトングをカチカチさせ、空き缶やプラスチックのゴミを拾い上げる。

その横で黒井は清涼飲料水のCM撮影でもしているのかと思うような、キャピキャピしたポージングをしていた。

スマホを流木の窪みに乗せ、何度かパシャパシャと音が鳴り響く。

で、写真を確認して無事任務完了......てか?

俺はトングを砂に突き刺し、その辺にあった石ころを海へ投げ捨てる。


 ふざけんじゃねぇ!


 大学2年の夏休みっていうのは、大学生活でまともに楽しめる最後の夏だぞ?

3年、4年は就活で忙しくなるっていうのに!

恋人欲しいという俺の切実な願いは、叶えられないというのか?

ただメシモク女に復讐しただけで、こんなのあんまりだろ。

おまけに明日からは1人で作業?

嫌だ、俺だけがこんな惨めな夏休みで終わるなんて。

こうなったら、またあの女をこっちに引きずり込むか?


「じゃあ私は帰るから、ちゃんとゴミ拾っといてねぇ」


 彼女はそういって、手を振り砂浜を離れようとした。

俺は一か八か、奇策に出る。


「あっ500円玉ゲット! ん、こっちにも!」


 財布からなけなしの小銭を取り出し、あたかも拾った風に演技をしてみた。

あいつは貧乏だし、メシモクをするぐらい金にガメツイはずだ。

この作戦にきっと、食いつく。

俺は口笛を吹きながら、ゴミ拾いを継続した。

するとやはり餌として最適だったのか、黒井は目をドルにして踵を返す。

俺のところに駆け寄り、ゴミ拾いを観察し始めた。

彼女が接近したのを確認し、事前に埋めていた500円玉を拾う。


「えぇ!? 嘘でしょ......こんなあっさり1500円も」


 俺は彼女の目の前に500円玉を掲げ、砂を落とした。

500という数字がくっきりすると、黒井は物欲しそうに涎を垂らす。


「上げねぇよ? これは俺のだから」


 そういって財布にしまうと、彼女は砂浜を見渡した。


「か、かねぇ!!! どりゃぁぁ!」


 黒井はそう叫び、ゴミの中を漁り出した。

俺は彼女の手に、自然にゴミ袋を握らせることに成功する。


「かね! かね! かね!」


 黒井はそう念仏のように呟きながら、ゴミを袋に詰め込んでいく。

ハハハ、こんな見事にやる気を出すとはなぁ。

まぁいい、とりあえずこれであの女も貴重な夏休みの1日を台無しにした訳だ。

よーし、俺も時間をドブに捨てる仲間が増えてやる気復活!

そう思い、ゴミを一つ拾い上げた直後だった。


「きゃあ!」


 黒井の悲鳴が耳に入り、俺は咄嗟に振り返った。

片目を閉じ、左手をさすってる様子を見るに怪我をしたようだ。

尻餅をついた彼女の背から左手を覗くと、手の甲から肘にかけて切ったような傷が。

血が生々しく垂れており、彼女の目の前にある白い砂を赤く変色させるほどだ。


「だから言わんこっちゃない。ちょっと待ってて」


 俺はリュックサックから医療キットを取り出し、消毒液を彼女の腕に垂らした。


「いっ……たぁ……」


 黒井は片目から涙を落とし、消毒液の刺激に耐える。

俺はと言うと、彼女の腕に包帯を巻きつけて処置を継続した。

のだが途中で気づいたが、俺今……腕触っちゃってる。

アクシデントとはいえ、セクハラとか騒がれないだろうか?

俺が巻きながらビクついていると、そっと手が重なる。


「あっ、ごめんなさい! すぐ離れます!」


 咄嗟に腕から手をどけると、彼女は包帯を自ら巻き直した。

処置が完了し、黒井は手をグーパーして痛みの程度を測る。

そしてむすっとした顔でこちらを見上げてきた。

かと思えば、大学で見せるような全力の笑顔に変わる。


「ありがとう、ヤマハルさん」


「へぇ?」


 先ほどまでの態度と180度変わった姿に、俺は訳がわからずそう発した。

数秒ほど沈黙が続き、彼女は顔を逸らす。


「あぁもう、これは演技に見えるからぁ私!」


 と、よくわからないことをブツブツ呟いている。

そして何やら決心したように、もう一度こちらを見つめてきた。

深呼吸し、黒井はそっと口を開く。


「……ありがと、ヤマハル……さ……ん」


 もしかしてその言葉言うのに、めっちゃ照れてる?

あの黒井詩織が?

あぁ、普段から演技し過ぎて営業スマイルが最初出たからか。

俺にはバレてるからか、それだと嘘になると思ってもう一度……。


「あっ、私あそこで探そう! か〜ねっかね〜」


 そう言い残し、黒井は歩き出した。

遠くへ行く彼女の耳は、ほんのり赤くなっている。

黒井詩織……クズなくせにそういう仕草するのやめてくれ。

うぜぇ……うぜぇチクショウ!

俺は走り出し、彼女にスペアの軍手とトングを差し出す。


「なにこれ?」


 彼女はキョトンとしたまま、差し出したそれを抱きかかえた。

別にさっきのがドキッときたからではなく、これはゴミ拾いの安全を配慮してのこと。

彼女が傷だらけになったら、逆恨みしかねない。

と、心の中で御宅を並べていると、彼女はこめかみに青筋を立てている。


「あんたねぇ、私の分あるなら最初に出しなさいよ」


「いやだから、その格好で大丈夫って確認取ったじゃん」


「はぁ!? あの時はゴミ拾いする気なかったし! 今はする気だから言ってるんだけど、頭大丈夫?」


 くっ、クソうぜぇ!

さっきのトキメキ返せやこの女。


「あっそうですか! 以後気をつけます!」


 俺は彼女と距離を数十メートル離し、ゴミ拾いを再開した。

黒井も不貞腐れた様子だったが、同じく作業を始める。


 そして時刻が夕方になり、今回は終了することに。

これ、全部近くのゴミ捨て場まで運ぶのか。

俺は集めたごみ袋の山に辟易とし、ため息を吐く。

その傍らで黒井は500円玉を嬉しそうに、自身のポケットにしまった。

たくっ、運が良いことに本当に埋もれていた小銭を見つけるなんてな。

でも、あんな小銭1つ探すのに何時間かかっていると思ってるんだ?

よくそれで喜べるよな。

はぁ、まったくため息が止まらないよ。

黒井の事といい、全然減らないプラゴミの山といい。


「じゃあ、私帰るから。早くスマホ出して?」


 彼女は突如スマホを取り出し、QRコードを見せつけてきた。


「早くしてよ!」


 俺が困惑していると、黒井は頬を膨らませてイラつきを露にした。

仕方なく、コードを読み取ると彼女のラインが追加される。


「あぁ、勘違いするなよ? 画像そこに送ってくれた方が、こっちもTwitterに投稿しやすいからよ。じゃ、さいならぁ」


 そういって照れる素振りもなく、黒井は帰っていった。

残された俺は段々と、彼女と連絡先が繋がった実感が湧いてくる。

いやいやピアーズでもマッチするまではやり取りしていたし。

それに、黒井はメシモク女だ。

そう、メシモク女が連絡先に増えただけ......。

と思っていると通知音が鳴る。

スマホの画面を見ると、黒井が画像送れとスタンプを連投していた。

すぐさまゴミ袋の写真を送ると、既読スルーで数分が過ぎる。

あ、まぁ仲良くなるわけではないよな。

そうだ......明日からどうせあいつは来ないんだし。


 はぁ、何浮かれてんだよ俺。

そうじゃん......これから夏休みずーっと、1人でゴミ拾いだ。


 そして翌日、雲一つない晴天になった。

同じ砂浜に訪れているはずだが、日差しが遮蔽物無しで直接肌に突き刺さる。

数秒ここに立ち尽くすだけで、汗がじんわり滲み出てしまう暑さだ。

あぁ、クーラーボックスに飲み物パンパンに詰め込んだのになぁ。

これじゃあ半日で空になるぞ。

今日から毎日、ここで一人作業かぁ......。

俺は冷たいペットボトルを頬にあて、ぼんやり空を眺める。


「おっはー」


 すると突然、幻聴のように黒井詩織の声がした。

まさかと疑いつつ、俺は声の主を探す。

ど、どうやら錯覚したわけではないようだ。

目の前には昨日と同じ格好をした、黒井詩織がいる。


「え、今日から来ないんじゃ......」


 俺は何を考えるでもなく、そう呟いてしまった。

そう口にして数秒、すごい寂しがり屋な発言をしたと気づく。

は......恥ずかしい!

真顔で冷静を装うが、内心悟られないかと焦る。


「そりゃ、銭探すため......でしょ」


 どうやら態度を見るに、本気でそれを口にしているらしい。

悟られなかったのはいいが、こいつは驚いた。

仮にも大学生1人が、500円玉探しごときにお熱になるとは。


「へぇ、バイトした方が効率良いんじゃないの?」


 俺がそう素朴な疑問をぶつけると、彼女はカラっと答える。


「あぁ......良い人でいるの疲れるからねぇ。大学だけでも大変なのに、バイトでもするってストレス溜まりすぎるのよ」


「ふっ、バイトしたら余計にメシモクの餌食が増えるのか?」


「あぁ? うるさいなぁ。ネチネチずっと根に持って。私だってストレス溜まらなきゃ、そんなことしてないのよ。夏服だって、これだけなのよ?」


 とまぁ、俺は黒井詩織と言い争いをしながら作業を開始。

そして何故だかわからないが、彼女と口喧嘩していると、暑さも時間も早く過ぎる気がした。

どうやら俺はまた、黒井詩織が好きになってしまったのかもしれない。

理想の女性とはほぼ遠く、メシモクしていたクズなのに......。

あぁ、嫌いになりてぇ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ