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午後の微睡み

 暖かな日差し、食後の満たされた体と心、

気がつけば微睡みに誘われる。


 どうやらすっかり眠ってしまったようだ。起きなければ、と目を薄く開く。すると目にぼんやりと誰かの顔が映った。瞬きをしてよく目を凝らすとそこにはこちらを見るあの男、老辺境伯がいた。私の顔を覗き込むようにみつめている、心配そうな表情で。


「ああ、よかった。目が覚めたかい?」

 私が無言で頷くと男はほっとしたような表情を見せる。

「日が落ちると寒くなるから入りなさい」

 そう言いながらおずおずと手を伸ばすので思わずその手を取ってしまう。そういえば私の肩には膝掛けがショールのようにかけられていた。夕暮れになり肌寒くなったが、これがあると温かい。

「あの、この膝掛けは旦那様がかけてくださったのですか?」

 そう尋ねると、無言でこくこくと頷いた。

「君がこの膝掛けをかけ直してくれて……嬉しかった」

 小声で彼はそう言った。あのとき彼は寝たフリをしていたのだろうか。

「……ありがとう」

 消えてしまいそうなほどの小さな声が聞こえた。

「いえ、旦那様も膝掛けをありがとうございます」

 そう伝えると顔を真っ赤にした。まるで初めて女性と言葉を交わした少年のような表情である。


 その後は無言で屋敷に入る。でも中庭を歩く間はずっと手を繋いだままだった。誰かと手を繋ぐなんて、記憶に残っていないくらい久しぶりだなと何だか無性に泣きたくなった。

 屋敷に入る直前に男はそっと手を離した。その後は少し離れた距離をとる。珍しく彼はまた話しかけてきた。

「すぐに夕食の時間だね。口に合わないものはないかい?」

「どの食事も大変美味しいです」

「それはよかった」

 私はそこでふと思い立った。一人での食事をずっと寂しいと思っていたのだ。

「あの……食事を一人でするのは寂しいのです」

「そうなのかい?」

 聞き返した彼は何故か満面の笑みを浮かべている。

「それで、その、マナー違反とは思うのですが……侍女と二人で食事を取ることは駄目でしょうか」

 そう願い出た瞬間、彼は口を「あ」の形に開けたまま固まってしまい、それから見るからにしおしおとした表情に変わってしまった。

「あ、ああ、うん。あなたにとって侍女は大切な存在なのだね。うん、そうだね。二人で食事できるようにしようとも」

 彼は泣きそうにも見える笑顔を浮かべるとそう約束してくれた。これで食事の時間がもっと楽しくなるにちがいない。

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