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第4話:好意が重すぎるので、今度は王都中の小麦と砂糖を買い占めて悪徳令嬢になってみる

午前十時。本来であれば、陽光が柔らかく差し込む自室のソファで、紅茶を片手に雑誌でもめくっているはずの優雅な時間帯である。

だが、現在の私の部屋は、優雅とは程遠い異様な熱気――というか、物理的な圧迫感に包まれていた。


「……リディエ」

「はい、お嬢様」

「これ、何かしら」


私が引き攣った笑みを浮かべながら指差した先には、部屋の壁一面を埋め尽くすように積み上げられた、色とりどりのリボンが掛けられた豪奢な木箱と革袋の山があった。

その高さはゆうに二メートルを超え、もはや新築のバリケード要塞である。


「レオポルト殿下からの『愛の贈り物』でございます。本日だけで、朝一番に特使が持参した分を含め、すでに四便が到着しております」

「四便!? まだ午前中よ!? 宅配便の再配達でもこんな頻度で来ないわよ!」


リディエは手元の受領目録をペラリとめくり、淡々とその内訳を読み上げ始めた。


「第一便、南方の熱帯諸島から空輸させたという『散らない熱帯薔薇』九百九十九本。花言葉は『命尽きるまで貴女に尽くす』でございます」

「重い! 花言葉の圧が強すぎる!」

「第二便、北方の霊峰にて捕獲された白銀の小狐の幼獣。殿下自ら『エレオノーラの孤独を癒す伴侶に』と選定されたとのこと。現在、中庭の特設ケージにて侍従がミルクを与えております」

「生き物を気軽に送りつけてくるんじゃないわよ! 育てるのは現場の人間なのよ!?」

「第三便、王室御用達の宝飾ギルドが総力を結集して削り出した、純度百パーセントのミスリル製ヘアピン。魔除けの加護が三重に施されております」

「昨日、殿下が私の手を握った時に『少し髪飾りが簡素だな』って呟いたやつね!? レスポンスが早すぎて怖いわ!」

「そして第四便――先ほど届きました、殿下直筆の愛の詩集(全八十四ページ・羊皮紙金箔押し装丁)でございます。表題は『深紅の瞳に映る救国の祈り』」


「やめて!! それ以上読まないで、私の前世の恥ずかしい黒歴史まで抉られるような精神的ダメージが来るから!!」


私は両手で耳を塞ぎ、ソファに突っ伏した。

なんだこれは。何の拷問だ。

前世の社畜時代、私は理不尽な業務命令やデスマーチには耐性があったが、こういう「純度百パーセントの善意と熱狂から繰り出される過剰な好意」に対する免疫が致命的なまでにゼロだった。


昨朝、夜会をドタキャンした結果、王太子レオポルトの好感度ゲージが天元突破してしまったあの日から、まだ二十四時間しか経っていない。

それなのに、殿下はまるで獲物を見つけた大型犬のように、息を荒げながら贈り物とラブレターを王宮からピストン輸送させてきているのだ。

手紙の内容も凄まじかった。

『エレオノーラ、昨夜はよく眠れただろうか。君の気高い献身に報いるため、俺は昨晩、財務省の不正会計を三件摘発した。君の隣に立つにふさわしい男になるべく、今日も不眠不休で国務に励む所存だ』

……知るか! 寝ろ! 勝手に過労死街道を爆走して私のせいにしないで!


「リディエ、私、今ものすごい寒気を感じているの」

「風邪でございますか? 神殿から治癒術士を十名ほど呼び寄せましょうか」

「違うわ。これは『過労死の予兆』よ。前世で何度も味わった、あの命が削れる直前の匂いがプンプンするのよ……!」


私はガバッと顔を上げた。

冷静に考えてみてほしい。

このままレオポルトの好意を放置したらどうなるか?

殿下は私を「運命の聖女」として崇め、周囲の貴族たちも「殿下を救った筆頭公爵令嬢」として私を祭り上げるだろう。

そうなれば、待っているのは盛大なロイヤルウェディング。そして――『王妃』という名の、国家最高峰の超絶ブラック激務ポジションへの強制就職である!


王妃。

それは煌びやかなドレスを着てお茶を飲んでいるだけの職業ではない。

国内外の貴族との腹の探り合い、慈善事業の陣頭指揮、王族の予算管理、後宮の統括、果ては外交儀礼の接待まで……前世で言えば「取締役兼総務部長兼広報部長兼営業本部長」を一人でこなすような地獄のマルチタスクだ。有給休暇? あるわけがない。定年退職? 死ぬまでない。


「冗談じゃないわ……! 誰が二度目の人生でまで、胃に穴を開けながら過労死しなきゃいけないのよ! 私は絶対に南の島でニートになるの! 昼まで寝て、起きたら海を見て、飽きたら二度寝する生活を手に入れるのよ!!」


拳を固く握りしめ、私は立ち上がった。

失敗を分析せよ。前世のビジネス研修で叩き込まれた基本だ。

前回の「夜会ドタキャン作戦」が失敗した原因は何か?

それは、被害者が「王太子レオポルト一人」だったことだ。

男一人の感情を揺さぶったところで、奴が重度のポジティブ深読み野郎であれば、悪行が全て「愛の自己犠牲」へと脳内変換されてしまう。


「個人の感情に訴えかけるのは悪手ね。なら……組織よ。国よ。そして『民衆』よ!」


悪役令嬢が断罪されるための黄金パターン。

それは「民を苦しめ、国を揺るがす悪女」として、貴族院と世論の双方から総スカンを食らうことだ。

民衆が「あの悪女を引きずり下ろせ!」と暴動寸前になり、貴族院の重鎮たちが「王家の威信に関わる」と国王に直訴すれば、いくら盲目なレオポルトとて私を庇いきれるはずがない。

結果、王家から婚約破棄が言い渡され、公爵家としても面目を保つために私を「領地の最果て」あるいは「国外」へと追放せざるを得なくなる。


「完璧だわ……。民衆のヘイトを買う。これこそが悪役令嬢の王道にして至高の道よ!」


では、どうやって民衆のヘイトを集めるか?

税金を上げる? いや、領地の徴税権は父である公爵が握っているから私の一存では無理だ。

無実の民を投獄する? ……うーん、前世の一般市民メンタルが残っている身としては、流石に罪のない人を物理的に痛めつけるのは寝覚めが悪い。


「……そうだわ。あれよ、時代劇の定番!」


ポン、と手を打つ。

越後屋とお代官様。悪徳商人と結託した悪徳貴族がやる、最もベタで、最も民衆から恨まれる悪行。


「買い占めよ!!」


市場から生活必需品を根こそぎ奪い去り、物価を高騰させ、庶民を困窮に陥れる!

これなら直接的な暴力は振るわずに、確実に「強欲で冷酷な悪女」の汚名を手に入れることができるではないか!


「リディエ! 今すぐクリストフを呼びなさい! 公爵家の金庫を開けさせるわよ!」

「畏まりました。執事をお呼びいたします」


リディエは目も眩むようなスピードで一礼し、部屋を滑り出ていった。

数分後、扉をノックして現れたのは、昨日に引き続いて胃薬の瓶をポケットに忍ばせているであろう筆頭執事のクリストフだった。


「お、お嬢様……お呼びでしょうか。殿下からの贈り物で部屋が埋まりかけておりますが、何か整理のご指示でも……?」

「違うわクリストフ。もっと規模の大きな話よ。グランヴェル公爵家の財力を、今こそ世に示す時が来たの」

「は、はあ……? 世に示す、と仰いますと……慈善事業への寄付でございますか? それとも王都の孤児院への基金設立など……」

「逆よ、逆! 真逆よ!」


私はソファの背もたれにふんぞり返り、扇子をビシッとクリストフの鼻先へ突きつけた。

可能な限り、前世で見た「私利私欲にまみれた強欲なワンマン社長」の表情をトレースしながら、傲慢極まりない声で言い放つ。


「王都中の市場にある、最高級の小麦粉と白砂糖。これを倉庫ごと、一粒残らず全て我が公爵家で買い占めなさい!!」


「……は?」


クリストフが、間の抜けた声を漏らした。

五十を過ぎた熟練の執事の顔面が、まるで理解の追いつかない数式を見せられた子供のように固まっている。


「お、お嬢様……? 今、何と仰いましたか……? 小麦と、砂糖を……?」

「聞こえなかったかしら? 王都内にある穀物問屋、砂糖問屋の在庫を、根こそぎ買い取るのよ! 市場に出回っている分はもちろん、港に到着予定の商船の積荷まで、グランヴェル公爵家の金の力で全て買い叩きなさい!」

「な、何を馬鹿な……! 王都中の高級小麦と白砂糖を買い占めるなど、天文学的な金額になりますぞ!? それに、そんな莫大な量を買い取って、一体どうなさるおつもりですか!?」

「決まっているでしょう? 私が食べるのよ!」


私は胸を張り、邪悪な高笑いを響かせた。


「私、最近甘いものに目がなくてね! 毎日、焼きたての極上フルーツタルトと、山盛りのスフレパンケーキと、何層にも重なったクロワッサンを、飽きるまで死ぬほど腹一杯食べ尽くしたいの! 公爵令嬢であるこの私が贅沢を極めるために、王都の甘味を独占して何が悪いのよ! 文句があるなら、我がグランヴェル家以上の金を用意してから言えとお泣きなさい!」


どうだ。完璧な悪役ムーブだ。

私利私欲。暴飲暴食。民の生活など知ったことかという特権意識の塊。

高級小麦と白砂糖が市場から消えれば、王都の高級菓子店やベーカリーは休業を余儀なくされ、貴族から庶民に至るまで「公爵令嬢が我儘で小麦を買い占めたせいで、パンもケーキも食べられない!」と大怨嗟の声が上がるはずだ。

そうなれば、私の悪名は王都中に轟き、貴族院でも「度を越した市場の私物化」として問題視されるに違いない!


「お、お嬢様……本気でございますか……? いくら我がグランヴェル家が王家以上の財力を誇るとはいえ、そのような理不尽な買い占めを行えば、商人ギルドや貴族たちからの反発は免れませんぞ……! 下手をすれば、公爵家の名声に泥を塗ることに……!」

「泥? 大いに結構じゃない! 泥でも糞でも塗りたくればいいわ! いいから買い占めなさい! これは公爵令嬢である私の絶対命令よ! もし従わないなら、あなたを即刻解雇して、公爵家の全財産を注ぎ込んで王都の全不動産を買い占めるわよ!」

「ひ、悲鳴を上げるのは私の胃袋だけで十分でございます……!!」


クリストフは頭を抱え、まるでこの世の終わりのような呻き声を上げた。

だが、グランヴェル筆頭公爵家の一人娘である私の権限は絶対だ。父である公爵マクシミリアンは現在、領地の視察で不在。屋敷の一切の決済権は、実質的に私に委ねられている。

そして何より、我が公爵家には――王国の国家予算を軽々と上回る、文字通りの「無限の資金力」が存在していた。


「……しょ、承知いたしました……。公爵家の信用手形を発行し、王都内の主要な問屋へ即座に使者を走らせます……。ああ、先代様、どうか天国からお許しください……我が公爵家は、お嬢様のパンケーキ欲のために破滅へ向かっております……」


クリストフはヨロヨロと幽霊のような足取りで部屋を出て行った。

背中から漂う哀愁が凄まじいが、これも私の華麗なる国外追放劇のためだ。許してほしい、クリストフ。追放された暁には、たっぷりと退職金を弾んであげるから。


「ふふ……ふふふふ! 動き出したわ!」


私は窓辺に歩み寄り、眼下に広がる広大な王都の街並みを見下ろした。

美しい青空の下、大通りには無数の馬車が行き交い、市場は活気に満ち溢れている。

だが、それも今日までだ。

明日には、王都中の小麦粉と砂糖が我が公爵家の巨大倉庫へと吸い込まれ、市場は大パニックに陥る。

「エレオノーラ様が我儘で買い占めたらしいぞ!」「なんて強欲な悪女なんだ!」「あんな女を王妃にしてたまるか!」という怒号が街中に満ち満ちるのだ。


「リディエ、倉庫の手配は大丈夫かしら?」

「はい。東区にある公爵家第一から第四保管庫を即座に清掃・開放させました。魔法による除湿と防虫の結界もすでに展開済みでございます」

「完璧ね。届いた小麦と砂糖で、まずは専属パティシエに直径一メートルの巨大ザッハトルテを焼かせましょう。悪の限りを尽くした後に食べるスイーツは、きっと格別の味がするはずよ!」


私は高らかに笑い、未来の自堕落ライフに思いを馳せた。


――だが、その時の私は、知る由もなかったのだ。

前世の社畜OLの浅知恵で思いついた「悪徳令嬢の買い占めごっこ」が、この王都の裏で密かに進行していた「国家転覆規模の巨大な陰謀」の急所を、ピンポイントで粉砕しようとしていたことなど――。


***


王都の北側、貴族街の華やかさとは隔絶された、薄暗い裏路地の雑居ビル。

看板も掲げていないその建物の地下室では、数人の男たちが冷や汗を流しながら、机の上に広げられた帳簿と地図を囲んでいた。


「……どういうことだ。もう一度説明しろ」


部屋の奥、革張りのソファに深く腰掛けた男が、氷のように冷たい声で呟いた。

男の名はカシアン・オルロフ。

表向きは新興の貿易商会「オルロフ商会」の若き会頭。しかしその正体は、隣国バルディニア帝国が王国内に張り巡らせた特務工作網の最高責任者であり、裏社会を牛耳る冷酷無比な大商人だった。


仕立ての良い漆黒のスーツに身を包み、銀縁の眼鏡の奥で怜悧な灰色の瞳を光らせるカシアン。

その前に平伏している部下の男は、ガタガタと震えながら報告を口にした。


「は、会頭……! 王都の中央穀物市場、および臨海部の砂糖問屋において、突如として大規模な買い占めが発生いたしました……! 我が商会が裏で少しずつ手付金を打ち、今週末に一斉に買い押さえる手はずだった在庫が……全て、根こそぎ奪われました!」

「……全てだと?」


カシアンの眉がピクリと跳ね上がった。


「馬鹿なことを言うな。王都中の高級小麦と白砂糖だぞ? 平民の主食である粗悪なライ麦ならいざ知らず、貴族や富裕層、高級店が消費する高純度の小麦と砂糖の流通総量は膨大だ。それを一網打尽に買い占めるなど、王室の年間予備費を丸ごと注ぎ込んでも足りんはずだぞ」

「そ、それが……買い取ったのは王家ではありません……!」

「何……? ならどこの商会だ? 三代商家の連合か?」

「いいえ……グランヴェル筆頭公爵家でございます!!」


ドサリ、と書類が机の上に叩きつけられた。

そこには、公爵家の筆頭執事クリストフの署名と、公爵家の正統な家紋が刻印された、莫大な金額の信用手形の写しが記されていた。


「グランヴェル公爵家……!?」


カシアンは立ち上がり、銀縁眼鏡を押し上げた。その怜悧な顔に、明らかな動揺が走る。


カシアン率いる帝国の特務部隊が仕掛けていた計画――それは、武力を用いずに王都を崩壊させる「経済侵略作戦」だった。

先日の夜会における王太子暗殺計画が失敗に終わったことを受け、カシアンは第二フェーズへと移行していたのだ。

数ヶ月前から複数のダミー商会を使い、王都内の高級小麦と白砂糖を密かに買い集め、国外へと不正流出させる。

市場から粉と砂糖を枯渇させ、人工的な食糧危機を作り出す。

物価が跳ね上がり、貴族や富裕層がパニックに陥り、やがて平民用の穀物にまで買い占めの波が波及したところで、裏から扇動者を送り込んで大規模な食糧暴動を起こす――。

王都を大混乱に陥れ、無能な王家に対する民衆の怒りを爆発させる、完璧なシナリオのはずだった。


その決行日が、まさに今週末だったのだ。

カシアンが手付金を払い、残金を支払って倉庫から全在庫を国外へ運び出す、その直前のタイミング。


「なぜだ……なぜグランヴェル公爵家が動く!? あの公爵家は、建前上は中立を保ち、滅多なことでは市場介入など行わないはずだぞ!?」

「そ、それが……実行を命じたのは現当主のマクシミリアン公爵ではなく、ご令嬢のエレオノーラ閣下であるとのことです……!」

「なに……? エレオノーラ・フォン・グランヴェルだと……!?」


カシアンの脳裏に、先日の暗殺失敗の報告がフラッシュバックした。

夜会をあえて直前にドタキャンし、警備配置の変更を余儀なくさせ、帝国の一流暗殺者の動線を完璧に狂わせて捕縛へと追い込んだ、あの筆頭公爵令嬢。


「エレオノーラ閣下の名義で……公爵家の全財力が投入されました。『王都にある小麦と砂糖を一粒残らず買い占めろ』と……我が商会が目を付けていた倉庫だけでなく、これから王都に入港予定の帝国船の積荷まで、法外な高値で買い取られてしまいました……! 我が商会の資金力では、とても太刀打ちできません!」


「くっ……!!」


カシアンは激しく机を殴りつけた。

完璧だった。あまりにも完璧すぎるカウンターだった。


(あの女……! 先日の暗殺計画を看破しただけに留まらず、我が帝国の『経済テロ』の全貌まで完全に把握していたというのか……!?)


カシアンの背筋に、氷水を流し込まれたような戦慄が走る。

もし、エレオノーラが動かなければ、今週末には王都から粉と砂糖が消え去り、帝国の計画通りに人工的飢饉が引き起こされていた。

だが、彼女が「公爵家の圧倒的な個人資産」で市場の全在庫を物理的に買い押さえたことで、食糧の国外流出は完全に阻止されたのだ。

しかも、王家の公金ではなく、公爵家の私財を使ったことで、議会の承認などの煩雑な手続きを一切省き、電撃的な速度で市場を防衛してみせた。


「なんという女だ……! 情報を事前に掴んでいながら、あえて敵が資金を投入しきった直前の、最も致命的なタイミングで全財力を叩きつけてくるとは……! これでは我が商会がこれまで工作に費やしてきた数千万ラングルの資金が、全て紙屑同然ではないか……!!」


カシアンはギリギリと奥歯を噛み締めた。

買い占められた小麦と砂糖は、公爵家の鉄壁の保管庫の中。手出しなどできるはずがない。

帝国の誇る経済テロ計画は、実行される前に、たった一人の令嬢の手によって完膚なきまでにへし折られたのだ。


「エレオノーラ・フォン・グランヴェル……。武力のみならず、経済の盤面すら全て手玉に取るというのか……! 恐ろしい……底が知れない怪物だ……!!」


裏社会の冷酷な支配者が、恐怖に顔を歪めて震えていた。


――そして。

そんな敵の苦悩など露ほども知らず、当のエレオノーラは。


「ふふふ、見てリディエ! 届いたわよ、王都中のパティシエから集めさせた極上スイーツの試作品が! 今日はパンケーキ十枚重ねにメイプルシロップの海よ! 悪徳令嬢の栄華を極めてやるんだからー!」


フォークとナイフを両手に握りしめ、自室のテーブルで目を輝かせながら、カロリーの塊に向かって満面の笑みで突撃していたのである。

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