↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/60

第34話:学園祭の準備なんて面倒くさい! 悪役令嬢の超適当な走り書きメモ

黄金色に色づいた銀杏の葉が、からりとした秋風に乗って優雅に舞い散る季節。

王都全体が穏やかな収穫の喜びに包まれ、貴族たちもこぞって観劇や秋の夜会に浮き足立つ頃、王立貴族学園の空気もまた、年に一度の巨大行事に向けて熱狂の渦に巻き込まれていた。

学園祭。

王族や大貴族、さらには国内外の高官や商人たちまでもが視察に訪れる、名門貴族学園最大のフェスティバルである。


しかし――そんな華やかな祭りの足音が近づく中、グランヴェル公爵本邸の広大な敷地は、まるで外界の浮かれた熱気など寄せ付けぬ氷河のように静まり返っていた。

南庭に面した最高級のサロン。

暖炉には心地よくパチパチと薪が爆ぜ、テーブルの上には秋の味覚である丹波栗……ならぬ王室直轄領特製の巨大焼き栗と、濃厚なパンプキンプリンが湯気を立てて並んでいる。

そのふかふかの特注ソファの上に、私はシルクのガウンを羽織り、足を投げ出して自堕落の限りを尽くしていた。


「……はあ。秋ね。読書の秋、食欲の秋、そして何よりも――エンドレス二度寝の秋だわ……」


スプーンで濃厚なカボチャのプリンをすくい、口へ運ぶ。

舌の上でとろける濃厚なカスタードとカラメルのほろ苦さ。五臓六腑に染み渡る至福の糖分。

あの悪夢の演習林事件――心地よく昼寝をしていたところを臭い熊に邪魔され、半覚醒状態でデコピンを一発放ったら森が丸ごと更地になり、なぜかAランク上位魔獣を単独討伐したことになって【千点満点中一万点】という算数の崩壊したスコアを叩き出されてから、はや数週間。

学園内での私の立場は、もはや「公爵令嬢」などという世俗の枠組みを完全に突破していた。

歩けば生徒たちが左右に割れてモーセの海割りのように道を空け、教官たちは敬礼し、学園長は「名誉終身守護生徒」の黄金メダルを首にかけて拝んでくる。

あまりの居心地の悪さと視線の重さに耐えかねた私は、ヒューゴ特製の『全自動相槌マシーン一号』をフル稼働させて講義を乗り切りつつ、放課後は秒速で馬車に飛び乗って公爵邸へと逃げ帰る日々を送っていたのだ。


「お嬢様、学園の生徒会執行部より、本日で通算【二十七通目】となります特級親書が届いております」


銀のトレイを恭しく掲げた専属侍女のリディエが、感情の抜け落ちた涼やかな声で報告してきた。

トレイの上には、金箔で縁取られた豪華絢爛な封筒の山。

封蝋には、学園生徒会の公式エンブレムが誇らしげに刻印されている。


「破り捨てなさい! 今すぐ暖炉の火にくべて、焼き栗の火種にしなさい!!」


私はスプーンをくわえたまま、眉間にシワを寄せて吐き捨てた。

見たくもない。触りたくもない。

その封筒の中に何が書かれているかなど、百パーセント把握しているからだ。


『全校生徒の総意に基づき、本年度の王立貴族学園祭・総合実行委員長の座を、救国の英雄であられるエレオノーラ・フォン・グランヴェル閣下に謹んで要請申し上げます』

『閣下の比類なき統率力と深遠なる叡智なくして、この未曾有の祭典の成功はあり得ません』

『どうか、我ら迷える生徒たちをご指導ください!』


「冗談じゃないわよ!! 誰がやるもんですか、そんな地獄のボランティア業務!!」


私はクッションを抱え込み、激しくジタバタと足をバタつかせた。

学園祭の実行委員長?

冗談ではない。片腹痛いわ!

前世の社畜時代、私は高校でも大学でも、そして入社してからの社内イベントでも、押し付けられるがままに「実行委員」という名のタダ働き要員をやらされ続けてきたのだ。


――脳裏に蘇る、忌まわしい記憶の走馬灯。

高校の文化祭前夜。他の生徒たちがキャッキャと青春の思い出を作って早々に帰宅する中、一人教室に残されてダンボールの山と格闘し、ガムテープで指の皮を剥きながら看板を作り続けたあの惨めな夜。

大学の学園祭当日。模擬店のシフトをドタキャンしたチャラい後輩の代わりに、煙に巻かれながら六時間ぶっ続けでフランクフルトを焼き続け、油の匂いが染み付いた服で終電に揺られたあの虚無の時間。

そして会社に入ってからの、悪夢の社内大運動会。

業務時間外の深夜に「予算管理と会場手配と役員席の配置、よろしくね!」と丸投げされ、休日出勤でグラウンドの白線を引かされた挙句、役員から「弁当の唐揚げが冷めている」と理不尽にネチネチ説教されたあの地獄!!


「文化祭の準備なんて、前世のサービス残業と休日出勤の悪魔的フュージョンじゃないの!!」


私はソファの上で仁王立ちになり、プリンのスプーンを天へと突き上げた。


「企画書の査定! 予算の配分交渉! 各クラスのワガママな要望の調整! 当日の警備動線管理に、事故が起きた時の全責任!! どれだけ成功しても一銭の給料も出ず、失敗したら全方位から叩かれる究極のデスマーチ案件よ! そんな割に合わない貧乏くじ、誰が引くものですか!!」


「ごもっともなご意見かと存じます」

リディエは一切表情を崩さず、淡々と頷いた。

「お嬢様の貴重なお昼寝時間を、他者の道楽のために消費するなど、国家的な損失に他なりません」

「そうよ! よく分かってるじゃないリディエ! 私は絶対に行かないわ! 学園祭の準備期間なんて、全校生徒がバタバタと走り回って浮き足立つ期間よ。そんな面倒な騒ぎに巻き込まれるくらいなら、私はこの公爵邸に引きこもって、一歩も外に出ずに秋の二度寝三昧を決め込んでやるんだから!!」


完全拒絶。

門前払い。

私は鼻息荒く宣言し、再びカボチャプリンを口いっぱいに頬張った。

これでいい。無視し続ければ、生徒会のエリートたちも「あの我儘令嬢は協調性のかけらもない」と呆れ果て、別の暇人に委員長の座を押し付けるはずだ。

そして私の「非協力的な悪役令嬢」としての評価がじわじわと高まり、将来の追放ポイントへと還元されるのだ。完璧な戦略ではないか。


――しかし。

世の中というものは、怠惰を愛する社畜の思い通りには、決して進まないようにできているらしい。


――ドンドンッ! ドンドンッ!

サロンの分厚い扉が、遠慮がちに、しかし切迫感に満ちたリズムで叩かれた。


「お、お嬢様ァァァッ!! ご歓談中、誠に申し訳ございませんッ!!」


飛び込んできたのは、お馴染みの筆頭執事クリストフだった。

相変わらず手には胃薬の瓶を握りしめ、顔面を脂汗でテカテカと光らせている。


「クリストフ、騒々しいわよ。生徒会からの手紙なら、全部暖炉に放り込めと命じたはずでしょうが」

「手紙ではございません! 手紙では済まなくなりましたぞッ! 門前です! 我が公爵本邸の正門前に、学園の生徒会執行部……生徒会長のユリウス侯爵令息をはじめとする役員一同が、揃いの正装に身を包んで押し寄せてまいりました!!」


「……はあ!?」


私のスプーンが、ピタリと空中で停止した。

押し寄せてきた? 生徒会の連中が、直接我が家まで?


「追い返しなさいよ! ここは貴族の私有地よ! アポなし訪問はお断りよ!」

「そ、それが……! 『エレオノーラ閣下から直接の拒絶のお言葉、あるいは一言の神託を賜るまでは、この場を一歩も動かぬ!』と宣言し、正門前の石畳の上に、全員揃って正座して待機しておりますぞッ! すでに二時間が経過し、近隣の貴族たちから『グランヴェル家が生徒会を拷問しているのでは』と怪しまれる寸前でございます!!」


「な……なんなのよその迷惑極まりない押し掛け営業はァッッ!!!!」


私は頭を抱えてソファに突っ伏した。

前世で、アポなしでオフィスに乗り込んできて受付に居座り、「担当者が出るまで絶対に帰りません!」と居直ったブラックな悪徳先物取引の営業マンを思い出す。

なぜだ。なぜこの世界の人間は、どいつもこいつも引き際というものを知らないのか!


「お嬢様、いかがなさいますか。近衛騎士団を呼び、物理的に排除いたしましょうか」

リディエが物騒な提案をしてくる。

「ダメよ! マティアスを呼んだら『聖女様の安寧を乱す不届き者め!』って言って、正門前が生徒会の血の海になっちゃうでしょうが! あいつの過剰防衛は洒落にならないのよ!」


私はガリガリと頭を掻きむしった。

会いたくない。絶対に会いたくない。

顔を合わせたら最後、「さすがはエレオノーラ様!」「ぜひこの企画書にサインを!」と外堀を埋められ、泥沼のタダ働き残業地獄に引きずり込まれるに決まっている。

だが、このまま門前に居座られ続けては、私の愛しの静寂が乱される。

外の喧騒が気になって、午後の至高の昼寝に集中できないではないか!


「ああもうっ……! めんどくさい! めんどくさいわねぇぇぇっ!!」


苛立ちが頂点に達した私は、テーブルの上の焼き栗の包み紙――油の染みた黄ばんだ裏紙を乱暴に引ったくった。

そして、手元にあったインクの掠れた羽ペンを鷲掴みにする。


「クリストフ! これをあのしつこい連中の顔面に叩きつけて、即座に追い払いなさい!!」


私は猛烈な勢いで、裏紙に文字を殴り書きした。

思考時間、ゼロ秒。

推敲、ゼロ秒。

ただただ、前世のオフィスで「邪魔だからそこ片付けろ!」と怒鳴り散らしていた無能上司の雑な命令の記憶と、「早く帰れ」という怨嗟の感情だけをインクに乗せて。


――カリカリカリッ、ガリッ!!


羽ペンの先が紙を引き裂かんばかりの乱暴な筆致。

そこに書き殴られたのは、文字通りの【超適当な罵倒メモ】だった。


『邪魔。中央広場の机を全部東の壁際に寄せなさい。あと北回廊には余った木材の山を適当に積んで通行止めにすること。以上、二度と来るな』


「ほらっ!!」


私はインクも乾いていないその紙切れを、クシャリと半分に折り曲げると、クリストフの胸元目掛けてビシッと投げつけた。


「これを門前のガキどもに渡して、『公爵令嬢からの直筆の命令だ、二度と私の視界に入るな』と言って叩き出しなさい! 机を片付けろ、木材で道を塞げなんていう無意味極まりない理不尽な命令を下されたら、あのプライドの高い生徒会役員たちも『あの女は気が狂っている』って激怒して二度と来なくなるはずだわ!!」


「は、はひぃっ! た、ただちに届けてまいりますッ!!」


クリストフは紙切れを両手で受け止めると、転がるようにサロンを飛び出していった。


ふう、と私は肩で息をしながら、再びソファに深く身を沈めた。


(ふふん……! どうかしら! これぞ、横暴にして理不尽な悪徳令嬢のパワハラ・メモよ! 理由も説明せず、会場設営の邪魔にしかならない無茶苦茶な配置を命令してやったわ! これで生徒会からの人望は完全に地に落ち、私は『学園祭を妨害した最低の我儘女』として歴史に名を残すはずだわ!!)


私は勝利を確信し、冷めた紅茶を優雅に飲み干した。

これで厄介払いは完了だ。

さあ、誰にも邪魔されない至高の午後のシエスタへとダイブしようではないか。


――しかし。

私が「これで嫌われる」と確信して放り投げたその紙切れが。

門前で待機していた生徒会役員たちの手によって、人類の歴史上最も恐ろしい【深読み】の坩堝へと叩き落とされることになろうとは――この時の私は、夢にも思っていなかったのである。


***


「……手紙だ。エレオノーラ閣下からの、直筆のご下命だぞ……ッ!!」


グランヴェル公爵本邸の正門前。

執事クリストフから一枚の紙切れを恭しく手渡された瞬間、生徒会長ユリウス・フォン・クライン侯爵令息の全身に、電撃のような戦慄が駆け抜けた。


正門の周囲には、学園屈指の知性派として知られる生徒会執行部の面々が、固唾を呑んでユリウスを取り囲んでいた。

ユリウスは震える指先で、折り曲げられた紙を開いた。

手入れの行き届いた高級な羊皮紙ではない。

油の染みた、無造作に破り取られた粗末な裏紙。

そこに、インクの飛沫とともに荒々しく殴り書きされていた、わずか三行の文字列。


『邪魔。中央広場の机を全部東の壁際に寄せなさい。あと北回廊には余った木材の山を適当に積んで通行止めにすること。以上、二度と来るな』


「…………っ!!」


読んだ瞬間、ユリウスの息が喉の奥で止まった。

周囲の役員たちが、怪訝そうに顔を見合わせる。


「……会長? 何と書かれているのですか?」

「『二度と来るな』……? まさか、完全に拒絶されたのでは……」


「黙れッ!!」


ユリウスの一喝が、正門前の空気を切り裂いた。

ユリウスの碧眼は血走り、その両手は激しく震え、紙を握る指先が白くなるほど強張っていた。

彼の脳内で、常人の知性を遥かに超えた猛烈な回転速度で、論理のピースが組み合わさっていく。


(粗末な裏紙……! そうだ、あのお方はあえて、正式な書簡ではなく、手元にあった紙に即座に筆を走らせたのだ! 一刻の猶予もないと……! 我らが門前で無駄な時間を過ごしている暇などないという、痛烈な叱責……!!)


そして、書かれている内容。

ユリウスは自らの額を叩き、その場に膝をつきそうになるのを必死で耐えた。


「……な、何ということだ……。なんという……なんという深謀遠慮……ッ!!」


「かい、会長……? 一体どういうことなのですか!?」

副会長の令息が狼狽えながら尋ねる。

ユリウスは紙を胸に押し当て、感涙に濡れた瞳を役員たちへと向けた。


「貴様らには見えないのか!? この……この神の采配がッ!!」


ユリウスは立ち上がり、紙の文字を指差して熱狂的に叫び始めた。


「まず、前半だ! 『中央広場の机を全部東の壁際に寄せなさい』……! 我らが提出した学園祭の基本設計図を思い出せ! 中央広場には、貴族院や他国の来賓をもてなすための特設カフェスペースとして、何十台もの机と椅子を円形に配置する予定だったはずだ!」

「は、はい……開放的で優雅な空間を演出するための配置ですが……」

「愚か者めがッ!!」


ユリウスは激昂した。


「当日の人の流れを考えろ! 広場の中央に障害物があれば、歩行者の動線は放射状に散らばり、回遊性が死ぬ! 大混雑が発生し、将棋倒しの危険すら生まれる!

だが……机をすべて『東の壁際』に直線状に配置したらどうなる!? 中央に巨大な一本のメガ・ストリート(大動線)が誕生する! 人の流れはスムーズになり、混雑は完全に解消され、さらに東側の机はそのまま『巨大な防壁』として機能するのだ!!」


「あ……ああっ!?」

役員たちから、息を呑む音が漏れた。


「そして……後半だ……!」

ユリウスの声が、恐怖と畏怖で震えを帯びる。


「『北回廊には余った木材の山を適当に積んで通行止めにすること』……! なぜ、北回廊なのだ!? なぜ、西でも南でもなく、あえて北回廊を塞げと仰るのだ!?」

「そ、それは……北回廊は、旧校舎と講堂を繋ぐ、普段から人通りの少ない裏道ですが……」

「そうだ! 人通りが少ない! すなわち――死角だッ!!」


ユリウスは拳を天へと突き上げた。


「学園祭には、王都中から数万の人間が押し寄せる! その混乱に乗じ、不審者や賊が潜入するとしたら、どこを通る!? 警備の手薄な、あの薄暗い北回廊に決まっているではないか!! あのお方は……あのお方は、当日の治安の脆弱性を一瞬で見抜き、あらかじめ『余った木材』という名目で物理的な封鎖壁を構築させ、侵入者の退路と動線を完全に断とうとされているのだッ!!」


「な……何てことだ……ッ!!」

「一見、乱暴な走り書きに見えて……学園全体の安全管理、動線設計、防犯対策のすべてが、完璧に網羅されている……!?」

「『邪魔』『二度と来るな』……! それはすなわち、『机上の空論をこねくり回して私の昼寝を邪魔する暇があるなら、今すぐ現場へ戻ってこの通りに設営を開始しろ』という、愛の檄文だったのか……ッ!!」


正門前を支配したのは、狂気的なまでの感動と崇拝の嵐だった。

役員たちが次々と地面に膝をつき、涙を流しながら胸に手を当てる。

一枚のクシャクシャの裏紙。

ただの八つ当たりで殴り書きされた適当なメモが、エリートたちの手によって、学園の平和を守るための至高の青写真――【神託の布陣図】へと完全昇華された瞬間だった。


「行くぞ、皆の者ッ!!」


ユリウスは紙を両手で高く掲げ、咆哮した。


「エレオノーラ閣下の尊き御心を、一文字たりとも無駄にしてはならん! 中央広場の机を東へ寄せろ! 学園中の余剰木材をかき集め、北回廊に積み上げろ! 寸法の一つ、配置のミリ単位に至るまで……この【神託の布陣図】の通りに、完璧な会場を設営するのだァァァッッ!!」


「「「おおおおおおおおっっっっ!!!!」」」


生徒会執行部の面々は、まるで神聖な使命を帯びた巡礼者のような熱気と団結力で、学園へと向けて怒涛の勢いで駆け戻っていったのである。


***


「……ん、静かになったわね」


サロンのソファの上で、私は満足そうに鼻を鳴らした。

窓の外から聞こえていた微かなざわめきも、完全に消え去っている。

どうやら、あの理不尽極まりない殴り書きメモのおかげで、生徒会の連中もすっかり愛想を尽かして退散してくれたらしい。


「ふふふ……当然ね。理由も告げずに『机を寄せろ』『木材で道を塞げ』だなんて、まともな神経の人間ならブチギレて二度と顔も見たくなくなるはずだわ。これで学園祭の準備からも、当日の運営からも、完全に解放されたわね!」


私はカシミアのブランケットを顎まで引き上げ、特注の枕に頭を埋めた。

学園祭当日なんて、人混みと騒音の塊だ。

そんな日に登校する気など微塵もない。

私は当日も堂々と仮病を使って公爵邸に引きこもり、専属パティシエに作らせた極上の秋スイーツを食べながら、一日中ゴロゴロ読書と昼寝を満喫してやるのだ。


「完璧だわ……。私のサボり計画は、何一つ狂いなく進行しているわ……」


穏やかな秋の木漏れ日の中、私は幸せそうに目を閉じ、心地よい微睡みの海へと沈んでいった。


――しかし。

私が「これで嫌われる」と信じて投げつけたあの適当なメモが。

学園祭当日に潜入する予定だった【隣国の凶悪な暗殺テロ部隊】の行動動線を、偶然にも、そして完璧に、ミリ単位の狂いもなく圧殺してしまうことになろうとは。

夢の世界でパンプキンプリンのおかわりを要求する元社畜OLは、これっぽっちも知る由がなかったのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。